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TOKYO DEEP  作者: @is-osio
RECORDED_DEATH.214
6/11

5

コンクリート製の梯子を、しばらく垂直に降下する。

やがて足が地面を捉えると、そこは狭く、じめついた排水通路。


「暗い……」


配管が這う天井に、金属製の支持梁。

壁面に沿って取り付けられた簡易灯が、断続的な点滅を伴いながら細い通路を照らしている。


「この先です。すみません、また少し歩きます」


少女の声が響く。

足音と不規則な水滴音だけが、やけに明瞭に空間を満たしていた。


「おい……なんで、こんなとこに?」

「え……?」


つい漏れた疑問に、彼女は振り返りもせず、少しだけ歩速を緩めた。


「いや、危ないし、怖くねぇ?」


静かな水路の中で、声はやけに大きく響く。

しばらく間を置いてから、彼女は答えた。


「私、昔からダンジョンの配信が好きだったんです」

「配信?」


「毎晩、見てました。すごく、怖くて、でもかっこよくて。本当に別の世界みたいで」


足を止めることなく、そのまま彼女は言葉を続けた。


「でも、正規の探索ライセンスって高くて。装備も、推奨機材じゃないと、申請すら通らないんです」


「だから、ここから……」

「はい。バイトもしてたんですけど、なぜか全然お金貯まらなくて。あと普通の仕事、うまくいかないんです。怒られるばかりで」


彼女の声は小さいが、どこか真っ直ぐだった。


「ここで遺物とか拾って売って。探索と配信の練習にもして……」

「練習?」


「は、はい。目指してるんです……ちゃんと、正規のダンジョン配信者を」


控えめに言った彼女は、リュックを背負いなおす。

その中に詰まっているのは、おそらくその全部なのだろう。必要だったもの、手に入らなかったもの、諦めきれなかったもの。


「誰かに観てもらえるかもって……」


背を向けたまま語るその背中が、さっきより少しだけ、強く見える。


そう思った瞬間、足元に違和感が走った。


風だ。


それまで淀んでいた空気が、唐突に流れ出す。

湿った風が、背中を押すように水路の奥から吹き抜けてきた。


彼女もそのまま歩みを進める。


「もうすぐ、です」


やがて進もうとした足が、思わず止まった。


足元、通路の先が、まるごと崩落していた。

天井も壁もまるでちぎり取られたように裂けている。


その断面から、むき出しになった光景が、目の前に広がっている。


「……ここが」


見下ろせば、そこには層を成す廃都。

構造物が、無数の亀裂と階層に歪んで、闇へと溶け込んでいる。


どこまで続くのかわからない断層の底。

断ち切られた都市の神経と血管。


その果てに広がる未知。


「そうです。これが、ダンジョンです」


彼女がぽつりと呟いた。

その言葉はどこか、夢見るような響きを帯びる。


「すごいですよね……あっ、あそこ!毎晩、公式の配信もあのあたりから始まるんです」


「いやっ、そんなことより……ここから降りんの!?」


「はい!」


その返答と共に、少女はリュックの側面からワイヤーガジェットを引き出す。折りたたみ式の金属製リールに安全帯のバックルが付属している。


「マジか……」


額の冷汗をぬぐいながら、視線を断層の底へと向けた。


未知の空間がそこに口を開けている。


「降りましょう。ダンジョンへ」


そう言った彼女の、名前も知らないその背中。

思わず無言で立ち尽くす。


この先に何があるのか。

それを知るには、もう降りるしかなかった。

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