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TOKYO DEEP  作者: @is-osio
RECORDED_DEATH.214
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4

かつての東京都中枢。


地上には、再開発による高層建築群が並び、地下には多層化された輸送網と区画基盤。

行政、産業、住居機能が複雑に絡み合い、都市は空間の冗長性を超えて構築されていく。


崩壊は地殻変動の副次効果だった。


地下鉄、都市基盤、再開発区画、無数の人工層。それらが崩れて混じり、歪み、沈んだ結果、生まれた“巨大な落とし穴”──。


旧東京都多層構造地下圏、

通称CORE(コア)


全てが地下に引きずり込まれるようにして、閉ざされた、その異常な断層と入り組んだ構造。


沈んだ都市の中で、独自に生まれたなにか。


都市機能の死骸が密集したその空間は、やがて「ダンジョン」とも呼ばれるようになる。


──現在。

俺たちはその一端に向かって歩いていた。


再開発住宅エリアの境界を越え、舗装の甘い傾斜路を下る。落ちる日光が、高層ビルの壁面に反射し、道路の割れ目に細い影を描き出していた。


(こいつ、いつまで歩くんだ?)


隣を歩く少女は、小柄な体に不釣り合いな大型リュックを背負っている。重心が高く、揺れは抑えられていたが、内容物の重量がそれなりであることは明白だった。


きっかけは偶発的な接触と、半ば強引な依頼。


正直、気まずい沈黙が続いていた。


「そ、その、配信者……誰が好きですか?」


声が少し上ずっていた。空気の緊張を紛らわせるための話題であることは明白だ。


「あんまり知らね」

「あっ……しょ、ですか……」


会話はそれだけで途切れる。

少しだけ、彼女の背中が縮こまるのが見えた。


なんとなく不憫に思い間を繋ぐ言葉を探す。


「で、俺は結局なにをするの?」

「一言で言えば、サポートです。探索や収集を手伝ってもらいたいです」


「ダンジョンって……本当に危なくない?」

「多少の危険はあります。で、でも私も普段ひとりで入ってる浅層です。防護フィルムも予備ですが、お貸ししますから」


「浅層……」


言葉だけはそれっぽいが、実際どうなのかまではわからない。


けれど、背に腹はかえられなかった。

せめて月末までには家賃分くらい稼ぎたい。


(滞納は一発アウトって言われたからな……)


やがて、駅前の再開発地区を抜け、旧中野エリアへと足を踏み入れる。


人通りは目に見えて減少した。

路面の補修痕が目立ち、ファサードの看板は退色している。


かつての都市機能が停止し、見捨てられたまま朽ちていったような空間だ。


「このあたりが、城壁下スラムか。あんまり近づくなって言われてたっけな」


「一応は、一時的居住区画って名前が……

でも、城壁の影になるせいで、通信も陽射しも通りにくいですから。再開発計画も、今は止まってるみたいです」


見上げた先、灰色の質量が空を遮っていた。

まるで、地表を切断するように立ち上がる直壁


「でっけ……」


──中央監視壁・中野ライン。


かつて、都内を巡っていた都道の軌跡をなぞるように構築された防壁群の一角。


今では都市を分断する巨大な壁として、鈍く光を反射している。


「こんなとこに入口があんのか?

ダンジョンって、もっとしっかり管理されてると思ってた」


「正式な入口はありません。あのライセンス、すごく高いんです。ですから、壁の隙間から入ります」


「隙間って、大丈夫なのか?」

「グレーゾーンです。時々、封鎖されます。でも、また誰かが破ります。いたちごっこです」


「グレーゾーン……」


「ここです」


彼女が足を止めたのは、錆びたフェンスに囲まれた工場跡地の一角だった。外壁は剥がれ、看板も文字が読めないほどに劣化している。


目を凝らせば、誰かが強引に押し開けた痕跡が残っていた。


「廃棄された廃材処理工場だと思います。危ないので誰も近づきません」


少女は無言でフェンスの隙間を抜け、慣れた動作で構内へ入っていく。


そのまま敷地の隅、シートで雑に覆われた一角で彼女が立ち止まり、それを捲る。


下から現れたのは、金属製の蓋。


「マンホール?」

「昔の排水路です。ここだけ生き残った接続管があるんです」


そう言って、彼女は膝をつき、側に落ちていた鉄杖をマンホールの蓋に引っ掛ける。


「……よい、しょっ!」


そのままテコの要領で自然に持ち上げた。


「暗い」


中を覗き込むと、コンクリ製の垂直な梯子が下へと続いている。奥は真っ暗だが、風の通り抜ける感覚だけはあった。


「わ、私が先に降りますね」

「あっ、おい……」


リュックのバックルを締め直し、彼女は迷いなく梯子に足をかける。体重を預け、淡々と沈んでいくその姿には、確かな経験が滲んでいた。


数秒後、彼女の姿は暗闇に消えた。


「マジかよ……」


呟きながら、彼女に続けて縁に手をかけた。

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