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TOKYO DEEP  作者: @is-osio
RECORDED_DEATH.214
3/11

2

鉄製の扉を開けて、住宅敷地の外へ出る。


昼前の、じんわりと肌にまとわりつく熱気。

気温は高いのに、どこか空気が湿っていた。


人工調整された気象制御エリア特有の空気。


頭上を仰げば、雲間に大きなディスプレイ型のサイネージ。浮遊式のパネルが、騒がしくも注意を引く色で断続的に点滅していた。


《CORE_MEDIA_SYSTEM:常時監視中》

《メビウスは安全な暮らしをお守りします

 Mobius Technologies》


《本日も二十時からLIVE:TOKYO DEEP/

 新規エントリー数:12》


「ほぼ帰ってこないらしいのに、よくやんなぁ」


サイネージの下、軌道安定化された配達ドローンが次々と上空を走り抜ける。配送経路はこのエリアを網羅しており、ここ、三鷹市吉祥寺第五ブロックは“居住可能区域”に分類されていた。


建物の多くは旧型だが、外壁には再生素材のカバーが貼られ、見た目だけは新しく保たれている。


機能と見た目だけを取り繕った、形だけ維持された張りぼての建築群に見えた。


(この感じ、慣れねぇ)


商業アーケード街の跡地を抜けて、角のハンバーガーショップへと足を向ける。


入り口はセンサーフィールド式。

境界を通るだけで、外気から隔離された冷気が一気に肌を撫でた。


雑談する人々の声、軽いジャズのBGM。

入店と同時に無人インターフェースが展開される。


『セットをご希望の方は、右側のメニューをご確認ください』

『期間限定:スパイシーバーガー

“DEEP TYPE”──スリルと同時に、燃える辛さ』


「なんでもかんでも寄せるなよ」


ぼやきながら、定番のチーズバーガーセットと炭酸飲料のシンプルな注文を選ぶ。注文は一瞬で終わり、無人調理機が機械的な速度で動き出す。


隣のブースでは、制服姿の学生らしき男達がホログラムパネルを操作していた。


映っていたのは、誰だったか有名配信者と思われる若い女性。映像構成はアンバランスで、背景か当人か、どちらを見せたいのか不明瞭だ。


「マジ可愛くね!?推しだわー!」

「やめとけよ、どうせ死んじゃうぜ?」


耳に入る声を聞きながら、反応することもなく商品を受け取り、店を後にする。


紙袋を片手に、カップのストローを噛みながら、慣れた歩道を戻る。


エリアは依然として低稼働帯だった。


──キュイィ。


不意に聞こえたかすかな電子音に、足が止まる。


視界の先、目の前を小型のドローンが三機、走っていくのが見えた。


全高は二十センチほど。

球体に足がついたような、玩具じみた外見。

表面には擦り傷や日焼け跡もある。


「小型レスキュードローン……?」


型番までは判別できなかったが、少なくとも最新の市販モデルではない。量産期の後期、自治体支援モデルの流通末期に近い個体だ。


ドローンたちは、等間隔で跳ねるように通りを駆けていく。


「イソゲイソゲ」

「マニアウタスケル」

「サンニンヨレバモンジュノチエ」


そのチープな合成音声に、思わず苦笑する。


「ヒマだし、ちょっと見てくか」


使われなくなった側路に折れ、興味本位で彼らの後を追う。この道は近隣住民でもほとんど使わないが、構造は把握していた。


数分ほど進むと、雑居ビルの裏路地に行き着く。

その半分潰れかけた排気塔の横、奥の破れた金網フェンスに、小さな機体が一機、引っかかっていた。


「ウワァー」


残る三機はその周囲を回遊し、指向性のない動作命令を繰り返している。


「ヌケナイヌケナイ」

「ツヨイチカラヒツヨウ」

「イソカバマワレ」


「なんだ、救助待ちか?」


袋を足元に置き、しゃがみ込む。

フェンスの隙間に引っかかっている一機を軽く小突き、押し込んだ。


「おらっ」

「ウワァー」


軽い抵抗を感じた後、スポッと音を立てるように抜けた。


「よし。ほら、お前らも行け」


そのまま、残りの三機も片手で金網の向こうへ投げる。それぞれ軽く跳ねて、ぴたりと着地した。


「アリガトアリガト」

「シンセツカクニン」

「ナサケハヒトノタメナラズ」


「うるせぇ、あとは知らねーぞ」


言い捨てると四機は、再び跳ねるようにして小路を抜けていった。その姿が見えなくなるまで見送る。


「マジでなんだったんだ……?」


誰に言うでもなく呟き、紙袋を拾い上げる。

振り返った小路は、最初から無人だったかのように静まり返っていた。

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