表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
果てなき星のヴァルケイド  作者: 国木田エイジロウ
第1話 俺は彼女を理解できない
6/13

1-4 変身

 外に出る。

 悲鳴が聞こえた方向を探すまでもなかった。

 

 人ではない化け物が視界に入る。

 たしかにそれは二足歩行で人と同じく両手両足があった。

 明らかにそれが違うと断言できるのは頭部。

 こめかみ近くから伸びる日本の角はバッファローを思い起こす。

 割れた腹筋と胸には点と線が痛々しく刻まれた印。それはひとつの星座を指し示していた。

「牡牛座、か」

 背丈は二メートルはあるだろうか。がっしりとした体つきで両腕にはたくましい筋肉が隙間なく肉体に詰め込まれているようだ。

「ニンゲン、ホロボス」

 異形の者から発せられる片言で物騒な言葉。

 間もなくして聞こえる爆発音。

 それは決して冗談などではなく、悲鳴からそれほど時間は経っていないはずなのにあたりは真っ赤な血で染まっていた。


「第一部隊、攻撃開始!」

 この街の防衛隊が応戦する。だが、いかに優れた兵であっても化け物にはかなわない。

 次々と倒されていく隊員。

 あっという間に平穏な街は血みどろの戦場と化した。

 

 牛の悪魔。

 俺はやつを知っている。

 三年前の悲劇の元凶だ。

 俺から大切な人を奪った悪魔。

 星の使徒、星導の使者を名乗り多くの命を吸い込む悪意の塊である。


 遠くから声を拾う。

「何だ? あれは……」

「ぼうっとしてないで、逃げなきゃ!」

 アカリと山城の声だ。彼らが何の目的でここに来ていたかは不明だが、この状況は面倒なことに違いない。

「見ツケタ、ヴァルゴノ器。コレデソロッタ」

 揃う。

 これが何を意味するのかは知らないが、ヴァルゴというのは十二星座のひとつ、乙女座を指す。

 自分の星座が何座かを気になって調べる機会は誰しもあると思う。だから俺は知っていた。誰が狙われているのかを。

「狙いはやはり……」

 光原アカリ。乙女座の彼女が狙われている。

 必然であった。

「ちょ、あいつこっちに来る! 逃げないと!」

「まじかよ! なんでこんな面倒に……」

 二人は危険にさらされる。極限状態では相手の本質を見ることができるというが、彼らはどうか。

 走る二人。だが、牛の悪魔の方が明らかに速く追いつかれるのは時間の問題だった。

 そこでさらなる悲劇が二人を襲う。

「きゃっ!」

 アカリが転ぶ。膝を地面に打ち付け、擦りむいたようで赤い血が見えていた。

「い、痛い……。山城くん、助けて……」

 彼女の呼びかけも虚しく山城は足早に退散していった。

 俺は彼の心から漏れ出た声を聞き逃さなかった。

「はぁはぁ、俺だって命は惜しいからなぁ……」

 最低だ。彼氏なら命を賭してでも彼女を助けるのが道理ではないのか。この考えは俺だけか?

 そういう俺も隠れてその一部始終を見ているのだから人のことは言えない。

 

 他人の彼女を助けたところで、時は戻らない。

 わかっている。

 失ったものをいつまでも悲観していては来るべき幸福も祝福も去っていく。

 知っている。

 建前と本音は別であり、彼女が俺と共に在ったのは愚母に頼まれただけで本当は別に好きな人がいて。


 ……迷惑な話だろう。

 己が枷になっている。

 それでも他人は俺と形だけの人付き合いをやめない。

 だから他人は嫌いなんだ。


 ……たとえ、それでも。

 守りたい人がいた。

 生きていてほしい人たちがいた。

 

 一歩踏み出せずに、また人が消えるというのなら。

 俺がとるべき道はひとつ。

 

 見捨てられたアカリに牛の悪魔が迫る。

「オマエ、連レテ帰レバ皆喜ブ。ダカラ大人シク捕マレ」

「ふ、ふざけないで。誰があんたなんかについて行くもんか!」

 当たり前だが、はい、そうですか。にはならない。

 そんな彼女にはお構いなしに近づく。

「サア来イ。ヴァルゴノ器。俺ハオ前ヲーー」

 頭を蹴り飛ばす。

 想定外だったのか、牛の悪魔は反応できず、数メートル吹っ飛んでビルの壁に激突する。一般人なら病院送り確定だ。


 アカリは目を丸くしこちらを見ている。

 それもそのはず、屈強な化け物を平凡な高校生が蹴りひとつでぶっ飛ばしたのだから。

 俺はアカリに言う。

「無様だな。あの彼氏に見捨てられたか」

「ユウタ……なの? てか、彼氏じゃないし!」

 俺以外に誰がいるか。

 だがここに来ても彼女は彼氏の存在を隠す。

 昼休みに会ったやつが彼氏であることは明白だ。でなければ通学路と真逆なこんなところに二人で来るはずがない。

 よほどの物好きでない限りは。

 

「まあいい。とにかく、お前に降りかかる面倒事だけは理解した。そこでおとなしく待ってろ」

 覚悟を決める。

 当然、牛の悪魔をふっ飛ばしただけでは終わっていない。相手は起き上がり、こちらを睨みつけている。

「待ってろ、って何する気?!」

 俺は腕にデバイスを取り付け、コードを入力する。

「仮想次元、開放。硬化、定着、現界。システム正常」

 準備はとうにできている。

 三年前の借りをここで返す。


「変身!」

 まばゆい光に包まれ、それは現界した。

 

 ヴァルケイド。

 それは願いを叶え、世界を変える力。

 担い手は今、ここにあり。


 体全体を覆う強固な装甲に青い塗装が特徴的なこのパワードスーツ。これが異形の化け物に対抗しうる唯一の存在である。

 

「オ、オ前ハ……マサカ」 

「行くぞ、タウラス。これより、お前の懐の器を回収する!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ