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二木さんは今日も日記を書く  作者: ニキニキ製作委員会


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第3話「身体測定、選択授業」

 2026年4月9日(木) 晴れ

 朝、昨日よりも少しだけ早く目が覚めた。2日目ということもあり多少は気持ちに余裕ができたのだろうか。それでも学校へ向かう足取りが軽いかと言われると、そんなことはなかった。新しい環境に対する違和感というか、言葉にできない不安を感じていた。


 早めに家を出たせいか、教室に入ったときはまだ人がまばらだった。昨日ほどではないにしても、数人はすでに来ており、各々が授業の準備をするなり本を読むなり静かに過ごしていた。私は私でもちろん誰かと話すでもなく、自分の席で鞄の中身を整えたりしていた。朝の人が少ない時間は思ったより居心地がよく、これからは早めに学校に来ようかな、なんて考えていた。


 しばらくして教室のドアが開いた。なんとなくドアのほうに目をやると、姫野さんが入ってきた。ちょうど私が席に座って少し落ち着いてすぐ、タイミングとしてはそんな感じだった。昨日と同じように、入ってきた瞬間から少し空気が変わるのがわかった。

 姫野さんは周りの人にあいさつをしながらこちらへ向かってきた。正確には私の前にある自分の席に、だが。特別なことをしているわけでもないのに、姫野さんの行動はなぜか人の目を引く。そういうところが、人が集まる理由なのかもしれない。


 1時間目が始まるまでの間、今日の時間割のことをぼんやりと考えていた。2年生になれば授業内容も少し変わるだろうし、担当の先生が変わっている科目もいくつかある。昨日のホームルームで配られた時間割表に書かれた担当教諭の名前を見ながら、どんな授業になるかを想像していた。


 正直なところ授業は少しだけ楽しみな気持ちもあった。単純に新しいことを学べるという期待、しかしそれと同じくらい不安もあった。授業の進め方や評価の仕方が合わなかったらどうしよう、そういうことを考えていると自然と気持ちが落ち着かなくなってくる。けれど始まってしまえば案外なんとかなるものだということも、これまでの経験でわかっている。結局慣れの問題なのだ。


 姫野さんは意外と早めに授業の準備をするタイプのようで、教科書やノートを先に出していた。姫野さんも授業が楽しみなのだろうか?

ただ鞄から物を取るたびに後ろのほうを睨んでいる気がする。もちろん私ではないと思うけれど、気になる人や苦手な人がいるのかもしれない。


 午前の授業は思ったよりもスムーズに進んだ。新しい先生の授業も今のところ不安な要素はない。少なくとも苦手になりそうな科目はなさそうだった。ただ気になったのは、授業中に姫野さんが何度もペンを落としていたことだった。普通に使っていてそんな落とすものだろうかとも思ったが、まあそんなこともあるのかな、くらいに思っていた。それから姫野さんは1日に何回も手鏡を見ていた。メイクや髪型にこだわっていそうだし、こまめにチェックしたいのだろう。鏡越しに何度か目が合った気がしたが、私がちらちら見ていると思われたのかもしれない。特にそんなつもりはなかったが、変な人だとは思われたくないなと思った。


 昼休みになると、昨日と同じように前の席に何人も集まっていた。今日はさらに人が増えていて、席をぐるりと囲んで1つのグループのようになっていた。その空間だけ明らかに空気が違う。楽しそうではあるけれど、それと同時に自分とは少し距離のある世界のように思えた。今日はそのまま自分の席で昼食をとったが、やっぱり落ち着かなかった。会話に入るつもりはない、実際入ることもないけれど、近くであれだけのやり取りが続いていると、嫌でも意識してしまう。箸を動かしながら、明日は別クラスにいる友達のところへ行こうと改めて思った。


 5時間目の保健体育。運動はあまり得意ではなかったが、今日は身体測定だったので助かった。体育館に移動して順番に測定を受ける。こういうときは教室での授業とは違って空気が少し緩くなる。周りの会話も自然と増えて、普段よりも人との距離が近くなる感じがする。


 身体測定が終わり、結果の紙を提出する順番を待ちながら周囲の様子をぼんやりと眺めていた。提出は出席番号順なので私の前は姫野さんだけど、、、少し結果が気になる。ダメなことだとは思いつつも、結果の紙が見える位置だったのでつい見てしまった。身長は159センチで体重は45キロ、見た目通りスタイルはいいみたいだ。私はというと、ただの痩せ型でスタイルがいいわけではない。というよりもスタイルとかはあまり気にしたことがなかったし、正直どうでもいいという感じだった。


 6時間目の芸術は、音楽・美術・書道の選択についてだった。それぞれの授業内容の説明があったあと1枚の紙が配られた。そこに自分の選択する授業を書くわけだが、いざ紙が回ってきてそれを書く段階になると少し迷ってしまう。説明してもらった内容を思い出しながら、自分にとって負担が少ない授業を考える。


 美術と書道で迷った。理由は一人で完結する時間が多いと思ったから。集団で何かを作り上げるのも悪くないけど、それよりも周りに合わせることの苦労を考えてしまう。そして、最終的には美術を選んだ。理由は単純で最近読んだ本の挿絵が綺麗だったから。こういう絵が描ければ楽しいだろうと読んでいる時に考えていた。


 記入が終わった後はすぐに容姿を裏返して待っていた。その間も姫野さんは手鏡を持って落ち着きがない様子だったが、よほど後ろの誰かが気になるみたいだ。授業の選択にも悩んでいたのか、何度も消しゴムを使ったせいか用紙が破れてしまい、新しいものを先生にもらっていた。友達の多い人はこういうとき、誰と一緒になるとかならないとかで大変なんだろう。


 紙の提出は列ごとに後ろから前に送るよくあるパターンだ。最終的に1番前まで来た紙を先生がまとめて回収するらしい。自分のところに紙が来るまでの間、前の席の様子が少しだけ気になった。何を選ぶか、とういうよりはどういう基準で選ぶのかが何となく気になった。

「姫野さんは何を選んだんだろう」

別に知る必要もないが、なぜか気になってしまった。音楽があっていそうな気もするし、美術も似合いそうだ。ああいうタイプの人がなにを選ぶのか、想像がつきそうでつかない。そう考えている時点で、やはり意識してしまっているんだろう。後ろから回ってきた用紙に自分の分を加えて姫野さんに渡す。そのときにチラッと姫野さんの顔が見えたが、なんとなく嬉しそうな顔をしていた。悩みがなくなったようで、なぜか私も嬉しくなった。


 放課後、いつも通り寄り道もせずに帰宅した。歩きながら今日1日のことを思い返してみると、大きな出来事はなかったはずなのに、考えることが多かった気がする。2年生になって授業や先生が変わることへの期待と不安、新しいクラスでの距離感の取り方。そして前の席にいるあの人の存在。


 できるだけ目立たず、人間関係は必要最低限で過ごすという目標は変わらない。でもそれを達成するには、少しだけ環境が合ってなさそうな気もしている。無理に関わる必要はない。でも完全に無視し続けるのも不自然かもしれない。そういう微妙なラインの上にいるような気がして扱いに困る。まだ2日目だというのに、そんなことを考えているのは少し変だと自分でも思う。それだけ印象に残っているということなんだろう。


 明日はもう少し自然に過ごせるようにしたい。意識しすぎず、かといって完全に切り離すわけでもなく適切な距離を保つ。それがうまくできるかはわからないけど、昨日よりは落ち着いているはずだから、少しずつ慣れていければいいなと思う。


―――二木さんは今日も日記を書く

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