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崩れていく足元

 雑な老人御者の乱雑な対応にファーガスの機嫌は最高に悪い。


「おい!そこのお前!外にある荷物を持って来い!!」


 宿の入り口近くで作業をしていた若い従業員に我が物顔で申し付け、宿へ入るファーガス。


 このイライラを誰かにぶつけたい気持ちは有ったが、今はさっさとこの街一番の高級宿のホテル・ヴェガ・クラウンの最高級の部屋で疲れ切った体を休めたい。

 まずは風呂で疲れを癒やし、身を綺麗にしたい。そして、完璧にベッドメイクされたベッドに横になりながらいい酒を呷り美味い料理を食べたい。隣にいる愛おしいサンドラをまた可愛がるのもいい。

 この宿のオーナーには顔が利く。今は金が無くとも後でどうとでもなる。


 そう思いながらまずは受付する為に受付へ向かうファーガスとサンドラ。

 だが、


「は?今何と言った??」

「ですから、ちゃんと料金を払って頂けなければ、お泊めすることは出来ないと、」

「私は公爵家の人間だぞ!!お前のような格下の者が私に楯突いていいと思っているのか!?」

「例え上流貴族のお客様でも、当宿では前金で宿泊料金の半額を支払って頂くのが決まりです。ましてや最上級の部屋を予約も無しにツケでお泊まりする事は出来ません」

「な、何だと、もういい!!お前では話にならん!!オーナーを呼べ!!ジャクソン氏に直接話す。私はジャクソン氏と顔見知りだ。ついでに、ここに居る無能な従業員をクビにする様にも言ってやる」

「ちょ、お、お客様、落ち着いて下さい」


 受付台に拳を叩きつけ抗議するファーガスに困った顔をする受付係。

 ファーガスの声は宿のロビーに響き渡り、宿の従業員も泊まっていた宿泊客も遠巻きに見ている。

 と、そこへ、


「何か御座いましたでしょうか?」


 低く落ち着いた声がロビーに響いた。


「は?」


 ファーガスとサンドラが声のした方に振り向くと、そこには20代後半くらいの若い男性がこちらに歩み寄って来ていた。

 端整な顔つきで右目には片眼鏡をかけ、派手さは無いが品の良いスーツに身を包んでいる。


「誰だ、お前は」


 一方的なファーガスの会話に割り込むように入ってきた男にファーガスは不機嫌な表情をする。


「申し遅れました。私はこの宿、ホテル・ヴェガ・クラウンのオーナーを務める、エドワード・ウォルトガードと申します」

「は?オーナー?」


 ファーガスはその言葉に目を丸くした。


「い、いや待て!!オーナーって、お前がか!?」

「はい。私はライド商会に任命され、一週間前にホテル・ヴェガ・クラウンのオーナーに就任いたしました」

「この宿のオーナーはジャクソン氏のはずだぞ!!」


 ファーガスは掴みかからんばかりの勢いでエドワードに詰め寄る。


「ジャクソン氏はこの宿で15年以上勤めた功労者だぞ!?それに、お前のような若造がいきなりオーナーになれるはずがあるか!!」

「前オーナー、ジャクソン・バウロ氏は一週間前に職務怠慢と諸事情により懲戒解雇になりました」

「は?懲戒、解雇?」


 ファーガスはエドワードの言葉が一瞬理解出来なかった。


 実はジャクソンは3年前にファーガスの力でこの高級宿ホテル・ヴェガ・クラウンのオーナーに押し上げられた男だった。

 ロザリアと結婚後、ファーガスは自分の地位を確かなモノにする為にアークライド公爵家の名を盾にあらゆる手を使い自分に有利な人脈を築いていた。

 ジャクソンもその一人だった。

 ジャクソンは金と地位が欲しい。

 高級宿のオーナーとなったジャクソンは、上流貴族とのコネクションを築き、密かに宿の運営資金を横領していた。

 ファーガスは自分に都合の良い人脈が欲しい。横領を黙認する代わりに上流貴族達との仲介役をジャクソンにさせていた。そういった利害の一致の関係だった。


「失礼ですが、先程、前オーナーとは顔見知りだと仰っていたようですが、それは本当でしょうか?」


 そう言いながら、オーナーの片眼鏡越しの眼光が鋭くなった。


「ッ、いや、以前にも何度かこの宿を利用して親しくなっただけの事だ。それが、どうかしたのか」

「・・・・・いえ、失礼しました」


 オーナーの質問にファーガスは咄嗟にはぐらかした。

 迂闊に此処でジャクソンの関係を知られてはマズイと判断したからだ。

 オーナーも深くは追求はしてこなかった。


 だが、ジャクソンが懲戒解雇だと、告げられ、密かに動揺する。

 今日泊まる宿はジャクソンをあてにしていたのだから。

 旅行前に屋敷から持ち出した旅費は既に使ってしまい、なけなしの所持金はさっき馬車の御者に払ってしまった。

 再び馬車を呼ぼうにも金がない。


 出入り口の扉の前に積まれた土産物の山。

 あの大荷物を背負って他の宿を探しに行く事など考えたくも無い。

 かと言って、母親に頼るのは情けないのでしたくない。知り合いの貴族に金の無心を頼むのはファーガスのプライドが許さなかった。


「フ、ファーガス様ぁ・・・・」


 不安そうな表情で見上げてくるサンドラ。

 旅の疲れと先程の馬車の揺れで疲れ切っている彼女を一刻も早く休ませてやりたい。


「ッ、・・・・・・金は用意する。だから、部屋を用意してくれ。最上級の部屋じゃなくてもいい」

「畏まりました。一泊50,000Gのツインのお部屋でしたら直ぐにお通し出来ますが、宜しいでしょうか?」

「ッッ、・・・・・・・ああ、そこでいい。金はすぐに用意する」

「了解致しました。では、午後7時迄に前金、半額の25,000Gをお支払い頂ければお部屋をご用意致しましょう」

「・・・・・・分かった」


 苦虫を噛み潰したような苦い顔をしながら了承するファーガス。


「では、お待ちしております」


 現オーナーであるエドワードは深く頭を下げ、その場を去った。

 その後ろ姿をファーガスは睨むことしか出来なかった。


 現オーナーが去った後、ファーガスはひとまずサンドラを宿に備え付けられたソファーに座らせる。


「サンドラ、私はこれから宿に泊まる為の金を用意してくる。少し此処で待っていてくれ」

「は、はい。で、でも、どうやってお金を用意するのですか、ファーガス様」

「・・・・・・今回の旅行で買った土産物や宝飾品を売って金を作る」

「え!?そ、そんな!!」


 ファーガスの宝飾品を売るという言葉にサンドラは悲痛な声を上げる。


「ファーガス様!!私の宝石を売ってしまうんですか!?ファーガス様が買ってくれた思い出の宝石を」

「サンドラ、辛いのは分かるが、我慢してくれ。そうでもしないとここの宿代は用意出来ないのだから」

「で、でも!!」

「済まない、サンドラ。ロザリアに報復した後、もっといい宝石を買ってあげるよ。ドレスも香水も化粧品もなんでも買ってやる。だが、今は金がいるんだ。分かってくれ」

「ううう・・・・・、わ、分かりました」


 サンドラは一応頷いてくれたが、まだ納得しきれていないという顔をしていた。


「分かってくれて、嬉しいよサンドラ。大丈夫。今度はもっと良いモノを君に贈るよ」

「・・・・・はい、絶対ですよ?嘘ついたら、私、怒っちゃいますよ?」

「ああ、約束だ」


 子供のように拗ねた仕草をするサンドラの頬にそっと口付けした。


 それから、土産物の山の中からサンドラに買った宝飾品一式と母の土産物のドレスを質屋へと持っていった。


 公爵家の人間でありながら、こんなに早々に買った物を質屋に入れなければいけない、そんな状態にファーガスは理不尽を感じていた。

 だが、今は愛するサンドラの為にと質屋の門を叩いた。


 どの品も旅行先で手に入れた最高級品で旅費の半分以上を費やして買った物だった。

 まだ、未使用だし、たとえ半額に買い叩かれたとしても充分に宿代を賄える。

 そう思っていた。


「お客さん、これは全部偽物ですね」


 質屋の店主にそう言われるまでは。

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