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歯車は狂い出した

「馬車が、御者の人が「代金分は運んだ」と言って、荷物と私を馬車から降ろして、帰って、しまいました」

「・・・・・・は?」


 ファーガスが、サンドラの言葉を聞いて、慌てて馬車を停めていた場所へ向かうと、馬車が停まっているはずの場に馬車の姿は無く、代わりに旅行先で購入したサンドラのドレスや宝飾品が入った箱。工事を終えた屋敷で記念に開けようと買った高級酒の樽。

 他にも母の土産のドレスにバッグや旅行先の特産品が無造作に地面に置かれていた。


「な、なんだ、これは・・・・どういう事だ!?」

「わ、分かりません。ファーガス様を待っていたら、身体が大きな男の人が御者に話しかけて来て、話が終わったと思ったら、急に「代金分は運んだ。ここで降りてもらいます」って言い出して、私も荷物も降ろされてしまって・・・」

「はぁ!?」

「わ、私も必死に止めたんです!!でも、大きい男の人に睨まれて怖くって・・・」

「・・・・・そ、そうか、すまなかった。君を1人にして」

「いいえ、私もお役に立てなくて、ごめんなさい」

「・・・・・・・・」


 無断で御者が荷物を捨て置かれた事に苛立つ気持ちはあったが、涙を堪え体を小さく震わせるサンドラにそれ以上なにも言えなくなった。


 それに、この目の前の荷物をどうするかだ。

 馬車の御者に屋敷の中まで運んでもらうはずだった。だが、その御者は去った後、そもそも荷物を運ぶ屋敷がない。


「ッ、チィ!!」


 先程収まっていたロザリアへの怒りがまた湧き上がる。

 だが、目の前のサンドラに醜態を見せるわけにはいかず、グッと拳を握り締め何とか怒りを堪える。


 その後、ファーガスはなけなしの所持金をはたき、なんとか近場の御者付きの馬車を呼びつける事が出来た。

 だが、


「くっ、・・・・・・」

「・・・・・、ぅぅぅ、」


 先程まで優雅に乗っていた高級馬車とは違い、荷台と客室が一緒になっており、とにかく車内が狭い。旅行の荷物を乗せるとファーガスとサンドラは身動きが取れない。

 しかも、御者の馬の操りが荒いのか、


「が!?」

「イッタ!?」


 車内がよく揺れる。

 馬車が動き出して狭い車内や天井に体や頭を何回もぶつけた。


「ッ、おい!!客が乗っているんだぞ!?もう少し静かに走らせろ!!」


 あまりの運行の乱暴さにファーガスが御者に怒鳴り付けるが、


「ああ?なんですかい?お客さん?」

「だから、もう少し静かに走らせろ!!」

「ああ?目的地はまだまだかかりますよ?」

「ぐっ・・・・・」


 馬車の御者はかなりの高齢の老人で、ファーガス達が文句を言う度このやり取りを何回も繰り返している。


 なんとか、ライド商会の経営する宿に到着したが、宿に着く頃にはファーガスもサンドラも共に疲労と馬車酔いで青い顔色をしており、馬車から荷物に押し出され崩れ落ちるが如く外に出た。


「ッッ、ぅぷ、」

「ぅぅぅ・・・・気持ち、悪いぃぃ」


 その場で蹲るファーガス達をよそに、


「はいはい、ほいっと」


 老人御者は車内に積まれた荷物をぽいぽいと外に投げ出す。


「ッ!?おい!!荷物を乱暴に扱うな!!お前なんかが手を出せない程の高い品ばかりだぞ!?」

「ああ、こりゃ、失礼しました。あ、それ」

「なっ!?、ぐあ!?!?」


 荷物を乱雑に扱う御者に青い顔で立ち上がり掴みかかろうとしたが、老人御者は最後の荷物、高級酒の樽をファーガスに投げて寄越した。

 酒樽の大きさは小さな木樽でせいぜい大人が抱える事が出来る大きさだ。だが、いきなり、酒樽を投げ渡され、慌てて受け止めるが、酒樽の重さで後ろにひっくり返るファーガス。


「フ、ファーガス様!?」


 サンドラが慌ててひっくり返ったファーガスの元に駆け寄った。


「き、貴様ぁ!!!」


 ファーガスはなんとか抱き止めた酒樽を抱えながら、怒り狂うが、老人御者は、


「じゃあ、料金分運びましたんで、あっしは、此処で」

「は?お、おい!!待て!!」


 ファーガスの制止の声も聞かず、そのまま馬車を走らせ、立ち去ってしまった。


 あまりの突然の事にしばらく呆然としていたファーガスとサンドラだった。


「な、なんなんだ!!私に対してあの乱雑な態度、一体どう言う教育をうけてきたんだ!?」

「フ、ファーガス様・・・・」


 怒り狂う、ファーガスを慌てて宥めようとするサンドラ。

 だが、背中から地面に倒れたファーガスは泥で汚れてしまった。

 そんな、ファーガスの姿を宿の前の通行人は訝しげな目で遠巻きに見ている。


「あの御者めぇぇ!!」


 ガン!!バキャ!!


 ファーガスは、受け止めた酒樽を怒りに任せて地面に叩きつけた。


「きゃ!!」


 叩き付けられた酒樽は蓋が壊れ、折角の高級酒が地面に流れてしまった。

 ファーガスは地面に流れた酒に目もくれず、立ち上がる。

 だが、品の良いはずの服は泥で汚れ、顔は怒りでゆがんでいた。


「・・・・今度会ったらタダではおかんぞ。近いうちに必ず後悔させてやる・・・・」


 その様子に、周りの人達は更に遠巻きになる。

 だが、ファーガスは怒りでそんな周りの目も気づかない様子だった。地を這うような怒りの声にサンドラも少し後ずさりしてしまう。


「はぁ・・・まあ、今はいい・・・。とりあえず、今は宿に入るぞ。行くぞ、サンドラ」

「は、はい・・・ファーガス様」


 明らかに怒りで不機嫌になっているファーガスにサンドラは大人しく従う。


 ファーガスは荒い足取りで宿の門をくぐる。


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