ファーガスの帰宅
ファーガスは愛するサンドラとの旅行を終えて、手配した高級馬車で帰宅していた。
「本当に楽しい旅行でしたわ、ファーガス様ぁ」
「気に入って貰えて良かったよ。サンドラ」
「ええ、高級客船での船の旅に、楽しいショッピング。それに、旅行の日にちを3日も延長してくれて、本当に楽しかったです」
「そうか、そうか!!また連れてってあげるよ。今度はもっと長い期間で旅行しような」
「まぁ!!嬉しい!!」
「今度は、君の子供と3人で行こう」
「約束ですよ?」
「ああ」
馬車の中で新婚旅行を終えた新婚夫婦のような甘い雰囲気だが、馬車の御者は今回乗せた乗客の2人に辟易していた。何故なら、
「でもぉ、奥さんは大丈夫なんですか?」
「ああ、アイツのことは気にするな。アイツは仕事が恋人みたいなものだからな。金だけ稼いでくれればいいんだよ。アイツが仕事をして、私がその金を有効活用する。それが、私達の夫婦の形だ」
「やぁだー。ひどーい。そんな事じゃ奥さんに捨てられるんじゃないんですか?」
「なんだ、サンドラ知らないのか?この国の貴族の法律で『妻は夫に服従』という法律があるんだよ。この法律がある限り、ロザリアは、私に逆らえない」
「きゃあ!悪い殿方」
「まあ、そのせいでサンドラには私の妻の座は空けてやれないのが残念だがな」
「いいえ、大丈夫ですわ。私はお腹の中の子とファーガス様がいればそれでいいんです」
「ふふふ、愛いなサンドラは」
高級馬車の車内でイチャイチャとする乗客の話声は馬を操る馬車の御者の耳にも届いた。
だが、話を聞く限り、この2人は不倫。しかも、男の方は明らかに妻を蔑ろにしているようだ。
話の内容の酷さに、御者はずっと辟易していた。
それでも、客であり、一応代金を受け取っているため途中で降ろす訳にもいかず、早くこの不倫カップルと無理矢理乗せた大荷物を目的地へ届けてしまおうと、馬に鞭を入れる。
だが、
「・・・・・・・・・・・あ、あの、アークライド様」
「ん?なんだ」
「目的地は、丘の上のお屋敷で、よろしかったのでしょうか?」
「は?出発する前に伝えただろ。この街が一望できる丘の上の屋敷だ。何度も言わせるな」
「え、いや、あの・・・・・・」
「チィ!!なんだ!!何が言いたい!?」
御者の言葉を濁した態度に苛立ち、ファーガスは御者に怒鳴る。
「す、すみません!!あ、あの、お屋敷が見当たらないのですが・・・・」
「はぁ??」
御者の言葉に、ファーガスは馬車の窓から外を見る。
「・・・・・・・・・は?」
目に入った光景に一瞬、意味のない言葉が出た。
見覚えのある道。見覚えのある隣人邸。見覚えのある並木。見覚えのある丘。だが、その丘の上に建っている筈の建物が見当たらない。
「ッ!!止めろ!!!」
ファーガスは慌てて、馬車を止め、馬車から飛び降りた。
小高い丘を駆け上り、屋敷が有った場所へ走る。
「な・・・・・・なにぃぃ!?!?」
ファーガスは目の前の現実が理解出来なかった。
目の前のその場所に旅行に旅立つ前に確かにあった屋敷は無く、代わりに屋敷の残骸らしき瓦礫が散乱していた。
13日前まで建っていた屋敷は確かに古い造りの屋敷だったが、ここら一帯で一番大きな屋敷だった。
立派な門に手入れされた庭。2階の一番広い部屋には広いバルコニーと繋がっており、そこからは街が一望できた。
だが、いくら見上げても空しか見えず、屋敷は無い。今は見る影もない。
「ど、どういう事だ?外壁の塗装工事では無かったのか?」
ファーガスは何か手掛かりは無いかと、周りを見渡す。
殆ど壊された壁、折れた柱。窓ガラスの残骸。部屋だった場所は殆ど原型を留めていない。
屋敷にあった骨董品や絵画はどうなった?高価な銀食器や輸入品の家具は?宝飾品は?金が入っていた金庫は何処へ行った!?
血眼になりながら、金品や貴重品の手掛かりを探すファーガス。すると、崩れかけた壁の向こうに一本の立札を見つけた。
慌てて、その立札に駆け寄る。
そこには、
『ファーガス・シーザー・デリー殿へ、
愛人さんとの不倫旅行お疲れ様です。
屋敷の解体工事の方は無事に終わらせました。
つきましては、そろそろ貴方との夫婦生活を終わらせようと思います。
離縁と今後について話し合いの場を設けますので、
愛人さんと共にシュライアン領アークライド公爵邸へお越し下さいませ。
ロザリア・ミラ・アークライド
追伸
屋敷にあった貴重品やお金は全て回収済みです。
悪しからず。』
そう書かれていた。
「ふ、ふざけるなぁああああ!!!」
立札を読んだ瞬間、ファーガスが怒りで叫んだ。
「あの小娘!!勝手な事を!!法律で私の同意が無ければ離縁出来ないと知っている筈だぞ!?それに、お前は、私に絶対服従のはずだろうが!!!ふざけやがって!!!」
ファーガスは怒りに任せて立札を地面から引っこ抜き、地面に叩きつけ立札を何度も踏み付けた。
「はぁ、はぁ、はぁ、誰が離縁などするものか」
ファーガスはロザリアと結婚してから仕事らしい仕事はしていなかった。
ロザリアはライト商会の仕事を自分から進んでこなしており、いくら外で遊んでも何も言ってこなかった。母親が屋敷を訪れても、2人の間に子供が授からなかった事で自分の母親に責められても、いつも笑顔でいた。
仕事もしなくていい、面倒事もない。自分の好き勝手に出来る。
ファーガスは今の生活を手放したくなかった。
「・・・・・・・ふぅ、とにかく今日は何処かの宿に泊まろう。明日、ライト商会を通してロザリアを呼び出せばいい」
文字が読めないほど踏み折られた立札を見下ろし、少し冷静さを取り戻した。
そうだ。いくら私が帰る屋敷が壊れても、別に問題は無い。
金はいくらでもある。
また、新しく建て直せばいい。今度は古城のような前の屋敷よりもずっと豪華絢爛な屋敷を建築しよう。
ロロビア王国の法律によって、ロザリアは私と離縁は、夫である私の許可無しでは無し得ることが出来ない。
だが、このような騙し打ちのような姑息な事をする妻には罰が要る。
あくまでも、ロザリアが悪く、自分は正しいと信じて疑わないファーガスの口元が歪んだ様な笑みを浮かべる。
明日、ロザリアを呼び出したら只では済まさない。
今まで手を挙げずにいたが、今回は許してやるものか。
何処か人目のつかない場所に連れて行き、手酷く痛ぶってやろうか?それとも、屋敷を無断で取り壊した事の慰謝料をロザリアの実家に払わせるか。その両方でもいいかもしれない。ロザリアの実家は公爵家。相当の金額が期待できるだろう。
そう考えると、段々怒りが収まってくる。
「・・・・・とりあえず、乗って来た馬車で、宿に向かうか」
とりあえず、明日の事は明日考えればいい。今は馬車で待っている愛しいサンドラの元へ戻ろう。
どうせなら、この街一番の高級宿に泊まろう。所持金は旅行で殆ど使い切ってしまったが、請求はロザリアに送ればいい。
そんな事を考えながら、待たせている馬車へと歩いていると、
「ファーガス様!!」
「え?サンドラ???」
サンドラがこちらに向かって小走りで駆けて来ていた。
なんだか、慌てている様子だった。
「どうしたんだ、そんなに慌てて。馬車で待って居られなかったのか?」
「っ、はぁ、はぁ、実は、馬車が・・・・」
駆け寄って来たサンドラが、息を切れ切れに口にした言葉に、
「・・・・・・は?」
ファーガスは再び意味の無い言葉が出た。
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