質屋にて
質屋の年配の男店主に持ち込んだ品を偽物だと言われ、ファーガスは一瞬固まった。
「は?に、偽物だと?」
「ええ、宝飾品は装飾は見事ですが、付いている宝石は明らかにガラス製。ドレスの方もデザインは流行のモノだが、使われている布も糸も粗悪品ですね」
鑑定を終え、カウンター上で鑑定結果を紙に綴っていく店主。
「い、いや、待て!!この品は旅行先で手に入れた最高級品の筈だぞ!?デタラメを言っているんじゃないか!!」
「お客さん、言いがかりは止めて下さい。何処で手に入れたか知りませんが、こんな子供のオモチャでも通用しそうなアクセサリー、新米鑑定士でも偽物かどうか判りますよ」
「な、何!!」
呆れたふうな物言いの店主に思わず掴みかかろうと手を伸ばそうとしたその時、
「そう言えば、この宝飾品やドレスはどこで買ったんですか?お客さん」
「は?・・・・・・・か、観光地のネルジェの港町の宝飾店だが」
「ああ、ネルジェかぁ・・・・。それはぁ、また・・・・・」
「ッ、な、なんだ、何が言いたいんだ!?」
物言いたげな店主の態度にファーガスは伸ばしかかった手を引っ込める。
「今のネルジェには・・・・ちょっと良くない噂が出回っていましてね」
「噂?」
「ええ、とある商会から横流しされた商品の偽物や模造品が大量にネルジェ中心に流されて、観光客相手に売りつけているって言う噂ですよ」
「はぁ!?」
「ネルジェはロロビア王国の最南端の地方、大きな港町の観光地で他国との交流場になっていますからね。噂じゃあ、一部の店が観光に浮かれた観光客をターゲットに原価の5倍から10倍の値段で言葉巧みに買わせている悪徳商法をしているらしいですよ」
「へ?は?は?」
「もしお客さんがネルジェの港町で買ったのなら、偽物を掴まされた可能性は大きいと言うことでしょうね」
「・・・・・・・・・・・」
哀れみが籠った店主の視線に呆然となってしまったファーガス。
確かに、この宝飾品を購入した宝飾品店では、接客を担当していたスタッフがやたら、サンドラを褒め称え、ファーガスを持て囃した。
他にも行く先々の一流店では二人は引く手数多、どの店もその店で一番高価な品物をファーガス達に勧めて来た。
だから、ファーガスは気をよくしてサンドラが欲しいと願った物は何でも買った。
それが、偽物?もしかして、旅行先で買った他の宝飾品や土産物もそうなのか?
この宝飾品とドレスは旅行先で最も高価な土産物だったのに・・・。
騙された?
この私が?
頭の中が混乱する。
「まぁ、装飾的にはよく出来ているから、高く見積もって・・・・・・宝飾品一式は5,000G、ドレスは4,000Gで買い取らせてもらうよ」
「ッ、ハァ!?ちょ、ちょっと待て、それはいくら何でも安すぎだ!!買った時の値段の10分の1にも満たないじゃないか!!」
あまりの買取価格の低さに混乱していたファーガスは我に帰り、店主に詰め寄る。
だが、店主は眉間に皺を寄せ困ったような顔をする。
「お客さん、これでもだいぶ高く見積った方ですよ?ウチはガラス製のアクセサリーも扱うから宝飾品一式はこの値段なんです。ドレスは布が粗悪品とは言え、まだ未使用とのことで、この値段を付けさせてもらいました」
「だ、だが!!」
尚も食い下がろうとするファーガスに店主の眼光が鋭くなる。
「不満があるのなら他を当たってください。言っておきますが、他に持っていってもこれ以上の値を付けるのは難しいと思いますよ?ドレスはともかく、ここら一帯でガラス製のアクセサリーを扱っている質屋はウチだけですが」
「うっ、グググ・・・・!!!」
丁寧な物言いだが、威圧感のある店主の言葉に悔しそうに押し黙るファーガス。
不満はあるに決まっている。
自信満々で持ち込んだ宝飾品やドレスが偽物と鑑定された、想定していた金額よりも低額を告げられた。
偽物を買わされた事だけでも苛立ちを感じるのに、現在、ファーガスは、宿の宿泊費だけでも、最低50,000Gがいる。必要金額に全然足らない。
また、売り物を取りに宿に戻るか?いや、宿に戻ればサンドラが待っている。折角買ってやった宝飾品が偽物で他の宝飾品を売らなければならない、とサンドラが知ればきっと悲しむだろう。
そんな顔はさせたくなかった。
ファーガスがここまでサンドラを大切にしているのはサンドラが自分の子を孕っているからだった。
ロザリアと結婚してから5年、一向に懐妊の知らせは無く、今まで侍らせていた愛人達の間にも子供は出来なかった。
サンドラだけが、自分の子を授かってくれ、母上にも認められた女性だった。
だから、ファーガスはサンドラだけは大切にしたいと思っていた。
「で、どうするんですか?お客さん。質に入れるのか?入れないのか?」
ファーガスの答えを急かす、店主にファーガスは、ダメ元で自分の服のポケットを探り出す。
「う、ぅぅぅ・・・・・・ちょ、ちょっと待て、他に何か売れる物を、」
ファーガスはズボンのポケットから旅行先で手に入れた古い硬貨を一枚、上着のポケットからシワが寄ったハンカチと小さな蓋付きの懐中時計をカウンターに出した。
「この中で、売れる物はあるか」
「・・・・・・鑑定してみましょう」
店主はそう言って、カウンターの上の物を一つずつ鑑定していく。古い硬貨、ハンカチ、一つずつ見てはいるが、反応はいまいちだった。
だが、蓋付きの懐中時計を手に取った瞬間、店主の目つきが変わった。
「お客さん、この懐中時計はどこで?」
「は?・・・・妻の実家で貰った品だが?」
「ほう・・・」
店主が真剣な目で懐中時計を鑑定する。
店主が手に取った懐中時計に訝しむファーガス。
その懐中時計は確かに結婚当初ロザリアの実家で贈られた代物。
だが、木製で懐中時計の形自体はどこにでもある普通の懐中時計。付属の細い鎖が付いているだけで装飾も柄も何も付いていない。そして、この懐中時計は何故か蓋が開かなかった。
早々に手放そうとも考えたが、母上から「これだけは手放さず必ず持ち歩くように」と言われていた。
「・・・・・蓋が開きませんね」
「ああ、貰った当初から開かなかった不良品だ・・・・。その懐中時計がどうかした?」
「いいえ・・・・・これを質に入れられますか?」
「は?売れるのか!?そんな不良品をか?」
「確かに型はシンプルで蓋も開きませんが、作り自体は大変興味深いですね・・・・・・、良い品だ」
「そ、それで、いくらだ!?」
店主の言葉に、ファーガスは思わずカウンターに身を乗り出す。
母親に手放すなと言われていたが、今はどうしても金がいる。
すこしでも、ホテル代の足しになる金額であってくれ!!!脳内のファーガス自身がそう叫んだ。
「・・・・・・250.000G」
「へ?」
「この懐中時計は250.000Gで買い取らせていただきましょう」
店主のその一言で、ファーガスは一瞬また思考が止まった。
「は?に、にじゅ、250.000G?その不良品が、250.000Gにもなるのか?」
「はい。この懐中時計にはそれだけの価値があると、私は思います。それで、どうしますか?」
店主にそう言われたファーガスの答えは、
「よし!!売った!!」
決まっていた。
ファーガスはご満悦な表情で質屋を後にした。
持ち込んだ偽物の宝飾品とドレス、そして不良品だと思っていた懐中時計、合わせて259.000Gにもなったのだから。
あの懐中時計は手離すなと言われていたが、あの懐中時計の型はよく見る型だ。
ファーガスはその足で近場の店に入り運良く売った懐中時計とよく似た懐中時計を買うことが出来た。
「これで、母上とロザリアには売った事はバレないな」
夕暮れの街。ファーガスは買った懐中時計を上着の内ポケットにしまい、上機嫌で愛するサンドラの元へ、ホテル・ヴェガ・クラウンへと足早に向かった。
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