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実家に帰ります

 ロザリアは早朝に旅行に出かけた夫と愛人、そして、豪遊しに街へ出かける義母を送り出した。

 それから、必要な手続きを終わらせ、必要な荷物とアンナ、ルイス、ヨハネス、テオ、キノ、そしてランを引き連れ、遠乗りの馬車に乗り込んだ。

 向かう先は、ロザリアの実家だ。


 ロザリアは小さい頃から笑顔を絶やさない子供だった。性格も穏やかで怒ることは滅多になく、周りの大人からは『聖母の娘』と言われるほど優しくおっとりとした娘だった。


 そんなロザリアが17歳の時にとある事情から当時27歳だったファーガスとの婚約が決まり一年も待たずにファーガスと夫婦になった。

 結婚当初はファーガスはとても優しい男だった。優しくて紳士的で、最初の半年はロザリアも幸せだった。

 義母が屋敷に突撃訪問してくるまでは。


 最初はひと月に一回のペースだったが、徐々に回数が増え、それと同時に屋敷での態度も横暴になって行き、結婚生活1年も経たずに義母が住みついた。

 その頃から、夫は家業であるライド商会の仕事をロザリアにほぼ丸投げ状態。たまに商会に顔を出しているみたいだが、真面目に仕事をしているのかは、怪しいところだ。

 夫に義母の事を相談しても聞いてもらえず、義母と共に横暴な態度を取るようになり、やがて使用人達も横暴で横柄な態度をとるようになった。

 そして、夫と義母の態度に嫌気が差し、辞めてしまう使用人が後を絶たず、最終的には夫と義母好みの顔だけの使用人が働くことになってしまった。

 新しい使用人たちは、夫と義母の影響か、仕事らしい仕事をせず、主人である筈のロザリアを見下し、時にはロザリアの所有する宝飾品を盗まれる事まであった。

 あまりの仕事の出来なさにロザリアは実家の信頼できる使用人を呼び寄せ、家の仕事と家業の仕事を手伝ってもらっていた。

 それが、アンナ、ルイス、ヨハネス、テオ、キノ。そして、護衛としてロザリアを護ってきたランだった。

 


 ガタンガタンと比較的揺れの少ない馬車の揺れに揺られながら、料理人見習いをしていたキノのお手製のサンドイッチを食べていた。


「うん。とっても美味しい。キノ、また料理の腕上がったわね」

「ありがとうございます」

「おい、キノ、肉くれ、肉」

「ない。お前は馬車降りて草でも食んでろ」

「ルイス、いきなり立ち上がらない。お嬢様、紅茶でございます」

「ありがとう、アンナ」


 遠乗り用の馬車は大型だから、7人が乗っても余裕があり、とても賑やかだ。

 あの屋敷はとても思い入れのある我が家だったが、やっぱり、どこか気を張っていたんだなぁと、私はぼんやり考えていた。


「お嬢、もうすぐ御実家に到着いたします」


 テオの低くて優しい声に、ハッと我にかえる。


「あ、あら? もう着いたの?」

「あと、10分ほどで到着です」

「そう、ありがとう。テオ」

「はい」


 窓の外を見てみると見慣れた街並み。小高い丘を登ると大きな湖が見えてくる。そして、湖の畔に大きく美しい屋敷が建っている。


「5年しか経っていないのに、なんだか懐かしい感じですね」


 自分の生まれ育った生家を見ながら少しだけ複雑そうな顔をするロザリアだった。


 馬車を降りると、1人の初老の男性が出迎えてくれた。

 ロザリアが馬車を降りると、初老の男性は右手を胸に当て恭しくロザリアに頭を下げる。


「お帰りなさいませ。ロザリアお嬢様」

「ただいま、セバスチャン」

「遠い道のりをお疲れでございましょう。さぁ、どうか中へ」


 ロザリアの実家の執事であるセバスチャンが門の扉を開けると、


「「「「「「お帰りなさいませ。ロザリアお嬢様」」」」」」


 実家の使用人達が一斉に出迎えてくれた。


「ただいま、皆」


 久しぶりに見た親しい人達の顔を見て思わず顔が綻んだ。

 だけど、


「お嬢様、ひとまずお召し替えを」


 ロザリアは、すぐにアンナと数人のメイドと共に自室へ向かった。用意してもらったドレスに着替え、髪をセットしてもらう。とはいえ両親に会うのであくまでもシンプルに仕上げてもらった。


 支度を終え、セバスチャンにお父様のところに連れて行ってもらう。


「ご主人様。ロザリアお嬢様がご到着されました」

「入りなさい」

「失礼いたします」


 セバスチャンがお父様とお母様がいる書斎の扉を開ける。


「ロゼ」


 セバスチャンが扉を開けるとお母様が出迎えてくれた。

 お母様の優しい笑顔はよく私と似ていると周りから言われ、その笑顔に迎えられ、私も自然と笑顔になる。


「お帰りなさい。ロゼ」

「ただいま戻りました。お母様。いきなり帰ってきて、ごめんなさい」


 お母様は嬉しそうに私の手を握り頬を撫でてくれる。


「ここは、貴女の家なのだからいつでも帰って来ていいのよ。……あなた少し痩せたんじゃない?髪の毛だって以前はもっと綺麗だったのに」


 お母様は心配そうに、撫でる手で私の両頬を包み込み覗き込む。


「心配をかけてごめんなさい、お母様。でも、私は大丈夫ですよ?」

「もう、ロゼったら」


 笑顔で答える私に少し困ったような笑顔をするお母様。


「ロザリア」

「お父様」


 名前を呼ばれ、書斎のソファーに座っていたお父様と向き合う。


「ロザリア、ただいま戻りました。そして、急な帰郷、申し訳ありません」


 ロザリアは自分の父であり、アークライド公爵家現当主に深く頭を下げる。


「謝らなくていい。お前がこの家に帰ってきたと言うことは、あの愚かな男からようやく離れられたと言うことであろう」


 お父様は少し目尻を下げ優しく微笑んでくれる。

 だけど、元々表情が固く常に眉間に皺を寄せ、厳しそうな雰囲気を出しているお父様。

 多分、その変化に気づけたのは私とお母様とセバスチャンくらいでしょね。


「長い間、辛い思いをさせたね。ロザリア」

「あ、お父様、今回は用事があって帰って来ただけなので、まだ旦那様とは離縁してません」

「は?」


 私がそう言うとお父様の表情が固まった。

 まぁ、今回は帰郷を知らせる手紙を送る前に出立したから、外から見れば離縁して出戻ったと見られていてもおかしくない。


「ロゼ、まだあの男と別れられていないの?」

「残念ながら、あちらが離縁に同意をしてくれないもので」

「・・・・・・・・私達の可愛くも優秀なロザリアをそう簡単には手放さないと言うことか」

「やはり、婚約期間をもっと持たせて慎重に身辺調査を行うべきでしたわ・・・・」


 お父様とお母様の表情が一気に真顔になる。

 お父様は元々厳格そうな顔立ちをしているけど、お母様は美人なだけに真顔になると、怖いです。

 私が結婚してファーガスとあの屋敷で暮らし始めてから定期的にランが現状報告をお父様にしていたから、あの夫の愚行も義母の横暴も全て筒抜けになっている。

 だけど、それでもロザリアが離縁出来ない理由があった。


 書斎の中が一気に緊張が張り詰め、私とセバスチャンは大丈夫ですけど、部屋で控えていた使用人さんが涙目になっていると、


 バン!!


「父上!!今戻りました!!」


 書斎の扉が大きく開かれ、元気よく誰かが入ってきた。


「扉は静かに開けろ、・・・・・アレックス」

「あら、お帰りなさい。アレックス」

「お兄様」


 書斎に元気に入って来たのは、アレックス・レイ・アークライド。ロザリアの兄だった。

 お兄様も事情があって外に出ていることが多いお人だ。

 今日は偶然に帰ってこられたみたいですね。


「うん?ロゼじゃないか!?どうしたんだ?やっとあの義弟と別れる事が出来たのか?」


 お兄様は私の方へ歩み寄ってきた。


「お久しぶりです。アレックスお兄様。残念ながら、まだ離縁していません」

「だったら、何故帰って来られた?」

「その事について……お父様とお兄様にご相談」


 ロザリアがニッコリと笑うと父と兄は一瞬顔を見合わせ、ニヤリと笑い合う。


「なんだ? 言ってみなさい。ロザリア」

「なんでも言え、ロゼ。なんでも相談しろ」

「あら、3人だけで、ずるいわ。私も入れて」

「はい、では、お母様も」


 それを見てセバスチャンは素早く部屋に控えていた使用人を退室させ、入れ替わりにヨハネスとアンナが書斎に入って来た。


「ご主人様、奥様、アレックス様。ご無沙汰しております」

「うん。お前達も御苦労だったな」

「ありがとうございます」


 お父様に深く頭を下げるヨハネスとアンナにお父様は労いの言葉をかける。


「ヨハネス。アンナも、ロゼ、2人共連れて帰ってきたのか?」

「いいえ、ヨハネスとアンナだけではなく、皆帰ってきていますわ」

「え? じゃあ、あの屋敷は今あの義弟と義母が住んでいるのか?」

「その事について、今から私がご説明させて頂きます」


 ロザリアの言葉に皆ひとまず、書斎に置かれているソファーへと腰を下ろす。


「単刀直入に言いますと、旦那様が愛人を連れて来て屋敷から出て行けと言われました」

「「「は?」」」


 私の言葉にお父様、お母様、お兄様の表情が一瞬消えて真顔になる。

 セバスチャンはお父様の後ろに控えている。表情は変わらないけど、なんだか、雰囲気が怖くなっている。


「・・・・・皆様、御心中お察し致します、・・・・・まずはこの資料をご覧下さい」

 

 ヨハネスは少し渋い顔をしながら、ある資料を取り出し、目の前のテーブルに並べる。


「・・・・・・・・・・ロザリア、これは本当か?」

「これは、酷いわね」

「この資料によれば、そのサンドラとかいう愛人は、6人目になるな」

「多分、もう少ししたらもっと出てくると思いますけど、もう十分なので」


 優雅にアンナが淹れてくれた紅茶を飲んでいるロザリアに対して皆表情が険しい。


「アンナ。アナタから見てあの男はどういう男だったのかしら」

「はい、奥様」


 お母様の問いに他のカップに紅茶を注ぐ作業を一旦止め、姿勢を正すアンナ。


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