✿ 21
しばらくにらみ合いが続く。
そうしているだけで、ライヅの放つ【気】に、リヒトは思わず気圧されそうになっていた。
その上、ライヅは余裕を見せていて、自分が倒されることなど決してないと驕っているようだった。このままにらみ合いを続けていれば、戦う意思はないと取られ、彼女に手を出しかねなかった。
……だとすれば、まずは彼女を解放するしかない。腹をくくり、弟にだけ聞こえる声量で、ハルトに呼び掛けた。
「……ハルト、これから俺がアイツの気をしばらく引く。 その間に何とかみんなとヒメを助けてやってくれ」
すぐに気付き、ハルトが「分かりました」と小さくうなずいた。
リヒトは〝剣〟を強く握り、一歩前に出た。
「ようやくやる気になったか」
微笑を浮かべ、ライヅも前に出る。
リヒトは一気に踏み込み、走り出す。力を込め、〝剣〟を振るう。
だが、ライヅは動じることなく、ひらりと攻撃をかわす。――武器の一つさえ持たずに。
その事実がリヒトを苛立たせる。
ライヅがそれを知ってか知らずか、煽るかのように口を開く。
「どうした? その程度の強さでは、お前の姫を助け出すことなどできないぞ? まぁ所詮、お前なぞオレに倒されるだけのちっぽけな存在だ。 だが、お前のその剣には興味がある。 そうだな……それを差し出せば、命くらいは助けてやらんこともない」
目をかっと開き、リヒトは必死に怒りを抑える。……今はとにかく時間を稼がなければいけない。
「そんな提案、乗るわけないだろ!」
リヒトはそう返しながら、もう一度〝剣〟を振るう。
やはり攻撃はかわされてしまうが、ライヅは愉快そうにリヒトだけを見ている。
……そうだ、それでいい。リヒトは小さく口元を緩めながら、もう一度〝剣〟を構え、ライヅの背後に目をやる。
他の四人が彼女の眠る石の台へもたどり着いていた。リヒトは満足しながら、ライヅに向かって走り出すのだった。
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「……メさん!」〈……姫!〉
名前を呼ぶ声が聞こえ、私は目を覚ます。
……だけど、身体は動かない。
〈姫、私を握って! 力を送って、「支配」から解放します〉
〈守護者〉からそう伝えられるが、声を出すことすらできない。ただ天井を見つめることしかできず、私は途方に暮れていた。
「ヒメさん! 良かった、気が付いた」
けれど、すぐに光明が差した。どうやら、私に呼び掛けていてくれたらしいハルトが顔をのぞき込んだのだ。
「でも、どうしたんだろう? ちっとも動かないけど」「きっと、あのライヅに何かされたんですよ。 ヒメさんの中から禍々しい【力】を感じるから」
他の騎士達とハルトがそんなことを話しているのを耳にしながら、私は心の内で彼に呼び掛ける。
「…………」
すぐに、ハルトが振り返り、何度も「分かりました」とうなずいてみせる。私の首元から首飾りを取り出すと、しっかり握らせてくれた。
……だけど、何も起きない。
〈姫、水晶によび掛けるのです、「私に力を」と〉
どうやら、〈守護者〉だけでは解放ができないらしかった。私は言われた通り、唯一自由な心でありったけの願いを水晶に込めた。
(――水晶、お願い! 私に力を!!)
すると、水晶からまばゆい光が放たれ、私を包み込んだ。
しばらくすると、手が動かせるようになり、少しずつ身体も動かせるようになっていった。
それと同時に、みんなが両手両足の枷を破壊し、私を解放してくれた。
声も出せるようになった感覚があったので、私は起き上がり、みんなに微笑んでみせた。
「ありがとう。 ……リヒトは?」
そう尋ねると、みんながリヒトの方を振り返る。
慌てて、私はそちらに目線を向けると、リヒトは単身戦っていた。けれど、ライヅの【力】は圧倒的で、リヒトはやっと思いで彼と戦っているようだった。
ふと、リヒトが膝をつきそうになる。
気が付くと、私は彼の元へと走り出していた。
『ヒメさん……!?』
〈姫、無茶はいけません! まだあなたは完全に解放されたわけではありません!〉
みんなの呼び掛けと〈守護者〉の忠告を無視し、ライヅの脇をすり抜けて、私はリヒトの元に無我夢中で向かう。
「リヒト……!!」「ヒメ……!?」
先ほどまで倒れそうになっていたのも忘れ、リヒトが立ち上がり、私に手を差し出した。
私は思い切りその腕の中に飛び込み、何度も彼の名前を呼ぶ。
「……無事で良かった」
応えるように何度もうなずいた後、小さくつぶやくと、リヒトは一瞬にして、表情をほっとしたものから真剣なものへと変え、私を背中にかばいながら、ライヅへと向き直った。
他の騎士達も後から駆けつけ、リヒトと同じく、私を守るように戦闘態勢を取った。
「ほう……」
目の前ではライヅがそんな声を漏らしていた。
「ようやく愉しめそうじゃないか。 オレを引きつけて、姫を逃がされたのは計算外だったが……まぁいい。 ここから本番と行こうじゃないか」




