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誰かに呼ばれた気がして、リヒトは目を覚ます。
「う……」
気が付くと、硬い石の床に横たわっていた。しばらく焦点が合っていなかったが、まばたきを繰り返しているうちに、今いる場所が牢屋であることと、あの軍隊に捕まり、ここに閉じ込められていることを理解した。
「お、やっと起きたー」
のん気に、エイトがリヒトの顔をのぞき込みながら、にこにこと手を振る。身を起こすと、片隅に険しい表情で座り込んでいたカナトが顔を上げた。
「……状況は」
「もう最悪。 どうやらみんな【敵】に捕まったらしいよ。 ヒメさんは別のとこにいるみたいなんだけど、やることやったら俺たちを始末するつもりなんじゃない?」
軽口でそう話すエイトだったが、何とか打開策はないかと必死に考えているようだった。
リヒトは立ち上がり、周辺を見回す。……手の届かなさそうなところに、鉄格子のかかった天窓があるだけで、それ以外は壁に囲まれ、脱出できそうにない。床にはまだハルトとタクトが気を失ったまま横たわっている。
「くそ……っ」
……まずい。――このままじゃ、絶対にまずい。早くここから出て、彼女を探さなければ。
(――……けて)
どうしたものかと考えていると、リヒトは何か聞こえたような気がして、ふと天井を見上げる。
……彼女だ。――彼女が助けを求めている!
「――ハルト!!」
兄に名前を呼ばれ、ぱっとハルトが目を開け、「はいっ!」とすぐさま身を起こし、リヒトの隣に並んだ。
その横ではタクトも釣られるようにして目を覚ましていた。
「……あそこ。 何か感じるか?」
リヒトはそのまま天井を指差し、じっとその方向を見つめながら、集中し始めたハルトの答えを待つ。
「そうですね……。 何か……今までとは比べ物にならないくらいの邪悪な【気】を感じます」
「魔法で破れそうか?」
「いえ、難しいかと……。 僕たちが力を合わせたとしても少し厳しい気がします」
……その上、全員、武器も取り上げられている。どうしたものかと考え、リヒトははっとして顔を上げた。
――自分だけは武器を持っている! そう思いついて、リヒトは〝剣〟をよび出し、手に握った。
けれど、天井は高い。もう一度打開策を考えようとしていると、〝剣〟が独りでに、きらりと輝いたような気がした。
「――〝剣〟よ、俺に力を! あの天井を破って、ヒメのところへ行かせてくれ!」
すがるように叫び、リヒトは上に向かって、〝剣〟を突き出すように振った。
すると、衝撃波が放たれ、見事に天井を突き破った。穴の向こうにはどこかに続く道が見えている。
「――エイト、頼んだ!」
穴に登る方法を考えるよりも先に、気が付くと、リヒトはそう叫んでいた。
「まかせて!」
すると、エイトは驚くでもなく、二つ返事をすると同時に、狭い牢屋の中で上手く助走をつけ、器用に穴へと翔け、穴へと跳んでいった。
エイトは穴ぎりぎりのところをつかむと、そのまま向こう側へと消えていった。そして、しばらくすると、寝具を縄代わりに穴から垂らし、顔をのぞかせて笑ってみせた。
「武器も拾ってきたよ!」「よくやった!」
そう言いながら、リヒトは他の三人を連れ、上へと登った。
穴の先には長い廊下が広がっていた。
幸いにも敵の姿は見えなかったが、あまり時間も掛けていられない。リヒトは〝剣〟を強く握りしめ、目を閉じ、意識を集中させた。
彼女の「気」を探り、リヒトは周囲に顔を向ける。ふと、とある方向に「何か」を感じ、そちらを向いて顔を上げる。
「こっちだ!」
一か八か、その方向へと走り出す。他の四人も続き、少ししたところで彼女とは別の【気】を感じ、立ち止まった。
けれど、そこには壁しか見当たらなかった。
エイト、タクト、カナトは戸惑ったような表情を浮かべているが、ハルトだけは険しい顔で壁を見つめていた。
「……ここだな」「えぇ、そうですね」
兄弟だけの短い会話を交わすことで確信を得たリヒトは再び〝剣〟を握り、壁に向かって衝撃波を放った。
すると、いとも簡単に壁は崩れ、その向こうの様子が浮き彫りになった。
「ヒメ!」
真っ先に、石の台に横たわり、気を失っている彼女の姿が目に入り、リヒトは叫ぶが、彼女の側に立つ、一つ結びの黒髪の男の禍々しい【気】に思わず気圧されてしまった。
「何かに使えると思って生かしておいたが……。 まさか脱走してくるとはな」
……コイツだ。――コイツが彼女を狙っている張本人だ。すぐに理解したものの、歴然とした「力」の差を目の当たりにして、リヒトは唇を噛み締めた。
「オマエは……!?」
「オレか? オレはこれからこのオルフィーメリア姫をモノにして、この世界を支配する者だ。 お前らの主人にもなるついでに、名前も教えてやろう。 ――オレの名はライヅ、ちゃんと覚えておけ」
男――ライヅはそれだけ話すと、彼女の方へと向き直って、何か呪文を唱え始めた。――五人の騎士達なぞ、取るに足らないと思っているのだろう。
「……ヒメに何する気だ」
「姫はオレに刃向かったからな、今から力ずくでオレの所有物にするんだ」
ライヅの馬鹿にしたような態度と、その台詞にリヒトの怒りは沸点に達した。気が付くと、〝剣〟を握り締め、駆け出していた。
「俺たちの〝ひめ〟に手を出すなぁ!!」
リヒトは渾身の力を込めたが、振り向きざまに、ライヅに攻撃を避けられ、目を丸くした。
「……お前達も刃向かうか。 仕方ない。 特別に相手をしてやろう」




