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それは一瞬の出来事だった。
エイトが最初に倒れ、他の皆も軍隊の手に落ちたかと思うと、光の障壁が音を立てて崩れ落ちていった。
逃げる隙なんて一切なく、私は気が付くと、無数の軍隊に取り囲まれ、縛り上げられていた。
悲鳴を上げると同時に、軍隊に担がれ、馬車の外へと連れ出された。
一体どこに行くつもりなのだろう。不安に駆られながら、ふと視線を上に向けた。
すると、上空に浮かぶ二つの【影】が見えた。そのうちの一つは勝ち誇ったかのような笑みを浮かべていた。
ふと、その【影】と目が……合った気がした。
次の瞬間、「衝撃」が走る。私はなすすべもなく、意識を手放したのだった。
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次に目を覚ました時、私は不思議な「感覚」に陥っていた。
私はある夢を見たのだ。――まるで影の中にいるかのような暗い場所に、小さな国の跡があって、そこに「誰か」が立っている夢だ。そして、その「誰か」は滅んでしまったその国を取り戻したいと思っていた。私はその思いを強く感応して、まるで自分のことのように思い始め掛けていた。
〈――……姫!〉
しかし、その前に〈守護者〉に呼び掛けられ、私は何とか意識を取り戻したのだった。
直後はわけが分からず、呆然として、一体何が起きたのか思い出せずにいた。けれど、少し経って、ようやく私はあのおぞましい軍隊に捕まってしまったのだと気が付いた。
みんなは……!? 無事なんだろうか? 騎士達も軍隊に捕まっていたのを思い出し、私は独り慌てた。
〈大丈夫、騎士達も無事です。 けれど、どこかで閉じ込められているようです〉
私は〈守護者〉の答えに安心したが、そこで初めて、自分が石の台座に寝かされ、手と足に枷を付けられていることに気が付いた。
その瞬間、恐怖がこみ上げてきて、思わず取り乱しそうになる。けれど、何とかここから逃げ出す方法を見つけなければならないと考え直した。
「起きたか」
ふと、どこからか、そんな男性の声が聞こえてきた。
「誰!?」
私が問い掛けると、影の中から、若い男性と白衣を着た老人が姿を現した。
「博士、まだ覚醒してはないな」「ええ、そのようです」
名乗りを上げず、影のように黒い髪を一つに結んだ、青白い瞳の若い男は隣の博士と呼ばれた老人と話しながら、私の全身の隅々まで目を通した。かと思うと、勝ち誇ったような笑みを浮かべて独りつぶやく。
「アイツめ……ただの役立たずかと思ったが、最後の最後に貢献はしたらしい。 ――【糸】が残っている」
男の言葉の真意は分からなかったが、私は何となく嫌な予感がした。……このままだと絶対にまずい。
「オルフィーメリア姫よ、これから、お前にはオレのモノになってもらう。 『救世主』と呼ばれるまでになるというその『力』、このオレ、ライヅが存分に使わせてもらう」
「誰があなたなんかに……!」
男――ライヅに名前を平然と口にされ、恐怖がこみ上げてくるが、取り繕うように抵抗の声を上げる。
「お前には拒否権なんてないぞ。 噂によれば、お前が持つ『宝』には〝神〟と通ずる『力』があるらしいな。 それほどの『力』を手にすれば、世界をも『支配』することができるはずだ。 そのためにも、まずはお前を『支配』する」
「そんなこと……――」
最後まで言い終えるよりも先に、ライヅが私に手をかざした。
「……!?」
その瞬間、私の身体がピンと張って、動かなくなった。……あの時と同じだ。
「オルフィーメリアよ、オレに従え」
……いやだ。抵抗むなしく、私の身体は脱力していく。それと同時に、自分の身体なのに、自分のものではなくなっていくような感覚に陥いっていた。
――あの時と同じように、全身の隅々が得体の知れない【力】に「支配」されているのだ。
……だけど、今回の場合は抵抗すら許されていない。あの時の男と違って、私を「支配」しようとしている相手の力が強過ぎるのだ。
私がぴくりとも動かなくなったのを見ると、ライヅはさらに満足そうに微笑する。
「よし、まずはお前の持つ『宝』とやらを見せてみろ」
……だめ!! そう思っても、私の身体は命令されるがまま、独りでに動き、首飾りをライヅの目の前へと掲げた。
ライヅの前に晒されるよりも前に、首飾りは一瞬きらりと光を放ったが、その後はまるで沈黙するかのように、その輝きを失わせていた。
幸いにもその一連の動きはライヅに見られてはいなかったものの、隣に立つ博士が何か思うところがあったのか「ほう……」と感嘆の声を上げていた。
「これがそうか」
「殿下、そのようです。 これは欠片にしか過ぎませんが、それでも強い『力』を秘めているようです」
どうやら見られていたわけではないらしいが、博士は水晶の持つ「力」を見破ったようだった。
「その『力』を『覚醒』すれば、姫が使いこなすようになるというわけだな?」「ええ」
ほっと安心したのもつかの間、ライヅと博士がそんな会話を聞いて、血の気が引いた。
……いやだ、怖い。そう思っていても、何も抵抗することができない。泣きたいのに、涙すらこみ上げてこない。
このまま……ライヅの「言いなり」になってしまうのだろうか? きっと、ライヅは本当に水晶の「力」を使って、世界を「支配」するつもりだろう。そうしたら、国の皆は……? 創国者様だって、悪用されることに「力」を使われることを望んでいなかっただろう。
私が本当に「救世主」と呼ばれる存在ならば、それだけは絶対に避ければならないのに。……だけど、本当に抵抗することすらできないなんて、私はなんて無力なのだろう。
騎士達も……どうなってしまうのだろう。せっかくみんなと出逢えたのに、このままじゃみんなもライヅに殺されてしまうかもしれない。
そんなことを考えていると、ライヅが何やら呪文を唱え始めた。
騎士達の顔が次々と浮かぶ。エイト、タクト、ハルト、カナト、リヒト……。――リヒトが一番私を守ってくれたのに……。
呪文を唱え終えたライヅが、私の目の前に手をかざす。
「オルフィーメリア姫よ、その秘めたる『力』を解放せよ」
……リヒト。――リヒト、助けて!!
「――いや!!」
私が叫ぶと同時に、首飾りからまばゆい光が放たれる。
しかし、それも一瞬で、ただそのまばゆさにライヅがほんの少し後ずさりしただけだった。
すぐさま、ライヅは私の目の前にもう一度立つと、怒りの表情を向けていた。
「人形ごときが、オレの命令に逆らうか!」
そんな言葉が聞こえたと同時に、私に向けて電撃が走る。
もう叫ぶことすら許されなかった。だめ……倒れたら何されるか……。そう思い、抵抗しようとするが、意識は遠のいていく。
何か……聞こえたような気がしたが、私は視界の片隅でライヅが微笑を浮かべているのを最後に、そのまま気を失ってしまったのだった。




