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【敵】の数は尋常ではなかった。
四方八方から、おぞましい顔つきをした人間の形をした化け物のようなモノが馬車に向かって来ていた。
しかも、そのおぞましいモノ達はそれぞれ武器を手にしていた。誰か――人間の手によって造られた軍隊と表現しても過言ではなかった。
……おそらく、軍隊の狙いはヒメだろう。リヒトは〝剣〟を手にし、軍隊をにらみつける。何がなんでも、彼女を【敵】の魔の手から守らなければならない。
他の騎士達も馬車の外に出て、軍隊に向き合う。
「……ははっ、こりゃ骨が折れそうだね」
エイトが肩をすくめながら、いたずらっぽく微笑を浮かべて、おどけた様子で言ってみせる。
寡黙なカナトが静かに槍を構え、横目でエイトに視線を向ける。まるで、それでも彼女を守り抜くという覚悟を見せているかのようだった。
「一番最後に見つかったカナトに呆れられてるじゃないか、エイト。 でも、そうは言いつつ、みんなと同じ気持ち……だろ?」
ハルトと後方の位置につけながら、タクトがそう話しながら、弓を手にする。
「うん、当たり前だろ。 それにしても、不思議だよな。 俺たち、会って間もないのにこうして、ずっと前から一緒だったみたいに団結して、ヒメさんを守ろうって決心してるんだから」
笑いながら語るエイトの言葉に全員が同意するようにうなずいてみせた。
「そうですね。 必ずヒメさんを守り抜きましょう。 ――では、兄さん、号令を」
ハルトも魔法の構えを取りながら、当然のようにそんなことを口にする。
……なんで、俺が先達なんだか。思わず、リヒトは苦笑いを浮かべるが、異論を唱えるでもなく、他の三人も号令が掛けられるのをじっと待っている。
改めて〝剣〟を握り締め、リヒトは大きく息をする。
「行くぞぉ――――!!」
そして、騎士達を鼓舞するかのように大声で叫ぶと、軍隊に向かって駆け出した。
……けれど、やはり戦いは一筋縄ではいかなかった。
いくら倒しても軍隊の数は減りもしなかった。そのうちに、弓で戦うタクトや短剣で応戦するエイトに疲れが見え始めた。リヒトに食らいつくかのように懸命に戦っているハルトも、表情に余裕がなくなってきていた。
当然、リヒトも焦り始める。……このままではみんなが倒れてしまう。それだけは――ヒメに手を出されることだけは絶対に避けなければならない。
そんな中、馬車からまばゆい光が放たれた。
光は馬車――彼女を守るかのように障壁を作り出し、そして、騎士達の元にも降り注ぎ、「力」を分け与えた。
疲労していた二人とハルトは「力」のおかげで少し回復したようだった。
「みんな、諦めるな! 最後まで全力を振り絞るんだ!」
そこに激励するように、リヒトは他の騎士達に声を掛ける。
騎士達はうなずいてみせると、それぞれ自分の武器にもう一度力を込めたのだった。
……だが、それも長くは続かなかった。
やはり減らない軍隊に、リヒトも少しずつ疲れを感じてきたところに、横からドサリという鈍い音が聞こえてきた。
「エイト!」
最初に倒れたのはエイトだった。武器を握ったまま、その場に倒れたかと思うと、一瞬にして軍隊に群がるようにして囲まれていた。
残った四人に衝撃が走る。
立て直す暇もなく、後方にいたタクトとハルトにも軍隊の魔の手が迫る。
「兄さん、ヒメさんを……――」
そう叫ぶハルトも軍隊に取り押さえられ、姿が見えなくなってしまった。
それまで静かに戦い続けていたカナトの表情にも動揺の色が走る。
リヒトは唯一残った彼の元へと近づきながらも、馬車の方へと目を向けた。
――その瞬間だった。
バリン、と何かが砕けたような音がした。
はっと息を呑み、リヒトは振り返る。
見ると、彼女を守っていたはずの障壁が壊れてしまっていた。その隙をつくように、軍隊が馬車へと押し寄せていた。
「ヒ……――」
彼女の悲鳴が上がると同時に、衝撃が走る。リヒトは薄れていく視界の中、馬車の中からヒメが連れ去られていくのを目にしたのを最後に、意識を手放してしまうのだった。




