09:変化なき変態
こんにちは、アストです。
今、僕達は。
勇者三人と交戦中。
地を這い広がる王女の黒き波。
それは糸となり僕に絡みつく。
黒糸は巻き付き、されど優しく優しく包み込むように。
動きに制約はなく。
この間、僕は動き続け。
やがて糸は人の形の繭に。
そしてそれはいつの間にか勝手に破れる。
奴らの得物は・・・・・・。
瞬く。
それは矢と呼べるのか。
ただの光。
外れた理。
一動作、その間。
数十という衝撃がギロチン刀を叩く。
雨が横に。
一人は弓。
それは月。
欠けた月。
今は太陽、月はお休み。
だけど落ちてくる。
斜め、空、首を落とせと何度も落ちる。
僕の刀はもはや盾。
一人は戦輪。
投擲、戻り、また投擲。
連続、高速、波のように繰り返す。
これでも元は二つ。
遠距離から刻む。
間隔無き矢、斬撃。
加えてナイフ。
これまで飛んできていたら。
矢は顔を貫通、腕は肩から離れ、小さな身体に無数の穴が開く。
それを食い止めているのは。
「この獣風情がぁあ」
サブノ。
鋭い爪で勇者の一人のナイフと渡り合っている。
王女の同族支援浸食強制メタモルフォーゼ。
引き上げる。
無理矢理。
存在ごと。
別のものに。
変化。
王女のルビーアイ。
同じ色が身体に纏わり付く。
紅く、煌々と、燃える。
伸びて、伸びて、追い越して。
それは勇者を置き去りに。
素早いサブノは縦横無尽に紅い線を引いていく。
ナイフの勇者、翻弄されながら体は右へ左へ上に下。
速度は増して。
線は点へ。
追い切れない。
勇者の血、吹き上げる。
赤い雫。
最初は小さく。
どんどん加増。
上がる悲痛。
どんどん加増。
「うあが、ひぎい、いでぁあ、ち、ちくし、く、くそ、があああああああああああ」
切って切って切り裂いて。
勇者の体はどんどん染まる。
反対に僕の肉も裂かれていく。
一撃一撃が死。
それでも耐える。
なんとか耐える。
終わらない死への誘い。
極限まで膨らんだ各種能力。
それでも勇者達の同時攻撃の前には反撃の隙はない。
切り替える。
頭の中。
僕は覚悟を決め。
「リンネ、預けましたよっ!」
飛び込んだ。
刃の飛び交う嵐の中。
全てを無に返す造られた世界。
今まさに勇者達の産出する場所。
防御は捨てた。
考えるのは進む事だけ。
肩から先、瞬時に消し飛ぶ。
一撃は耐えた、だが全く、寸分の狂いもない位置に続け様に矢が打ち込まれる。
それも釘を打つかのような短さ。
横腹、円を綺麗に描いて無くなった。
足、太股から先、回転しながら行方は知れず。
だが、まだ進む。
それでも距離だけを。
勇者の元へと。
まだ進む。
「な、なんだ、こいつっ!」
「なんで死なないっ!?」
勇者達はこう思う。
なんだ、こいつ、なんで死なないと。
耳は等間隔で無くなり、音は届かない。
しかし、耳は等間隔で元に戻り、途切れた声が届いた。
決定した死に抗っている。
それを可能にしているのは。
後方にいる一人の少女。
あらゆる苦痛を、あらゆる辱めを、この手で届けたい相手。
そう勇者。
彼女はその一人で。
皆思い違いをしている。
彼女の持つ能力。
知らないのも無理はない。
だって一度も使われなかったのだから。
これほどの力を持つ者を蔑ろにしていた。
その報いが。
今他の勇者達に舞い戻る。
彼女の力は単純な回復などではない。
もっと上。
まだまだ上。
行き着く先は無。
魔法でいえば存在すら許されない。
神の所業。
失われたものをその手に取り戻す。
時を世界から返してもらう。
それは上限数刻。
それでも。
彼女の能力は神の領域に足を踏み入れている。
損傷、復元、損傷、復元。
戻って、戻って、戻って、戻り、やがて僕の手が勇者に届く。
振り下ろす僕の腕は。
消えては現れ、消えては現れを信号のように繰り返し。
やがて辿り着く。




