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10/23

10:振り子時計

こんにちは、アストです。


 僕は今自国の自室へと戻っております。


 この場にいるのは。


 中央奥。


 本来僕のものである椅子に座る・・・・・・。


 王女テストリア様(メイド姿)。


 その横に控えるクロエ(メイド姿)。


 その逆側に立つ僕。


 さらに僕の横にリンネ(メイド姿)


 それらに向かい合う。


 陸上形態、二本の足で立つ人魚のヴェパ。


 それに並ぶ魔獣人、サブノ。


「王女テストリア様、改めてご挨拶を。私、ヴェパと申します。以前は近海全域を担当しておりました。それゆえ中央への侵攻の際は間に合わず何とお詫びすればよいものか」


 王女の前で膝を折り、深々と頭を下げるヴェパ。


 同じ動作。


「サブノでございます。以前は森の最前線で指揮をとっておりました。されど力及ばず、勇者達の侵攻止める事ができませんでした。この失態、どんな罰でも受ける所存でございます」


 そんな二人にテストリア様は優しく声をかける。


「二人とも、頭を上げてください。今私がこうしてここに存在しているのは同族、貴方達の尽力があったからです。心から感謝しております」


「そんな、滅相もありません」


「そうですともっ」


 そう僕らは玉こそ取られたが、辛うじて残す事ができた。


 次世代の光。


「ヴェパ、サブノ、僕達は今、勇者達、人間共に報復するべく行動を起こしています。貴方達も協力してください」


 この二人がいれば百人力。


 僕の言葉、二つ返事で返してくれると思っていたが。


「・・・・・・勇者達に報復?」


 ヴェパの表情が変わった。


「私も必死に戦った、だがあれは化け物、何度殺されそうになったか、勇者共は後何人いる? この人数で本気で戦うと? 正気か?」


 予想外の反応が返ってきた。


 でも、無理はない。勇者達の力を目の当たりにしてきたのだから。


「ヴェパは勇者が憎くないのですか?」


 これは失言だった。


 ヴェパの表情がさらに変わる。


「憎くない? 憎くないはず・・・・・・」


 こちらを睨む目に一瞬飲まれた。


「ないだろがぁああああああああああああああああああああああああ、あいつらはなぁアアアアアアアアアアアアアアアア、私の前で妹を殺し、友人を殺し、仲間を殺し、殺し殺し殺し殺し殺し殺し、ぁああああああああああエェパ、私の可愛い妹、海が血で染まってく、妹の、友人の、仲間のぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 狂ったように両手で頭を押さえ体を大きく揺らす。


「おい、お前がアストなのは臭いで分かる、生まれ変わったというのも本当なんだろう、それはいい、それはいいが、お前の隣にいるのはなんだ、なんでそれがそこにいる??」


 サブノの問い。


 これも当然。


 僕の隣にいるのは。


 今話に出た。


 勇者そのものなのだから。


「リンネは他の勇者とは違います。以前から僕ら魔族を助けてくれていたし、誰一人殺めてもいません、それにリンネの力は今の僕らにとって・・・・・・」


「それでも勇者だろがっ、人間だろぉおっ! そんなの信用できるか、いつ裏切るか分からねぇ、そんな奴と一緒に戦えとっ!???」


 サブノが僕を、そしてリンネを睨みつける。


 それに続くヴェパ。


「そう、サブノのいう通り、そいつは勇者、あいつらの仲間、私たちの大事なものをたくさん、たくさん、奪った奴らの仲間、あぁ、そうよ、それがそこにいる、じゃあ報復しなきゃ、妹の敵、討たなくては、そう、今すぐ、そう今よ、今なんだわっ!」


 ヴェパが両手を広げ、サブノの爪が鋭く伸びた。


「ちょっと、二人ともっ!」


 僕がリンネを庇うように二人の前に出るも。


 とうのリンネがそれを押しのけ二人の前に出た。


「改めまして凜廻です。私は確かに貴方達のいうとおり勇者と呼ばれる者の一人です。でも決定的に違う部分があります。それは仲間という点。私は一度たりともあの人達を仲間と思った事はありません」


 部屋の温度が下がったいく気がした。


「あぁ? そんなの信じられる・・・・・・」


「こことは別の世界、元の世界、私は毎日、地獄、私は小鳥、やつらは毎日毎日小鳥を握ると力を込める、込めて、緩めて、込めて、緩めて、骨は軋み、羽根は血で染まる、毎日、毎日、込めて、緩めて、込めて、込めて、込めて、逃げ出したい、でも私は籠の中、それでもようやく外に出られた、この世界、なのに奴らは追いかけてくる、ここでも、私は籠の中、もう逃げ出したい、逃げだしたいの、そんな世界がないというのなら、作ればいい、誰もいない世界を私は作る」


 僕からは見えなかったが。


 この時リンネがどんな顔をしていたかは。


 向かい合うヴェパとサブノしか知らない。


「全部消しましょう。全部、全員、ここにあの人達はいりません。そのためなら私はなんでもしますよぉおおお」


「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」


 二人は言葉を失っていたが。


 それでもまだ完全に信用したわけではなかった。


 そんな二人が完全にリンネを受け入れたのは。


 思いの外早かった。


 

 地下室。


 いつもより広い部屋。


 人が並ぶ。


 口は塞がれ。


 手足は縛られ。


 椅子に座らせられた人の列。


 互いは対面、綺麗に2列。


 右に10人、左に10人。


 部屋に響く跫音。


 その真ん中を僕らが歩く。


 先頭を僕、その後ろ、ヴェパ、サブノ、そして最後にリンネ。


「前回は時間がありませんでしたからね。海はヴェパが、森はサブノが、こうして生き残った兵士を回収してくれました」


 僕らの行動を各国に知られる訳にはいかない。


 一人たりとも生き残りは許されない。


 それは討伐に参加していた一般兵士も同じ。


「アスト、この中に勇者はいるのでしょう??」


「そうそう、私は自分が戦った奴しか知らないやぁ」


 二人はニヤニヤ笑う。


 これから行う事に胸が高鳴っている。


「そうですね、この二十人の中に勇者は4人、さぁどれでしょう?」


 勿論、僕、そしてリンネは知っている。


 多分、ヴェパとサブノも気付いている。


 それだけ勇者というのは人とは別格なのだ。


 でも、惚ける。


「じゃあ、順番に当てていきましょう」


「いいねぇ、方法は?」


「それはねぇ・・・・・・」


 ヴェパが適当な人間の前に立ち。


 そして顔に向かって唾を吐きつけた。


 目に映らない速度。


 液体は瞬時に硬化、吐きかけられた人間の顔が。


 弾けた。


 頭部の無くなった兵士を見てヴェパが呟く。


「あら、外れだったわ」


 なるほどね、今のが勇者ならあれで死ぬ事はない。


「そういう事か、じゃあ次は私だっ」


 素早く腕が振られた。


 サブノの前、男の顔が三つに分かれた。


 斜めに入れられた切り込み、それに沿って顔はズレ落ちる。


「私も外れぇ」


「じゃあ、次は僕ですね」


 端っこからいこうかな。


 僕が前に立つと、兵士の目が怯える。


 涙を流しなにか訴えようとしていたが。


 僕の左手。


 軽く打ちつけると。


 男の顔が消し飛んだ。


「僕も外しちゃいましたね」


 こうして僕達は一人一人確かめていく。


 

 手探りで、唾を吐き、爪を立て、拳を打つ。


 そんな中。


 同じように放たれた僕の拳。


 今までにない途轍もなく固い手応え。


 顔は健在。


 無くならない。


 男の鼻からは僅かに血が垂れる。


「僕、当たりです」


 まぁ知ってたけどね。


 

 吐かれた唾液は血が混じりながら男の額を伝って流れる。


「私も当たり」


 肌を裂く爪、ここまで容易く中身を覗かせていた切り込み、今回はとても浅く収まる。


「私もだ」


 三人が当たりを引き当て。


 残りは一人。


「じゃあ最後は僕が手っ取り早く見つけましょう」


 また端に戻った僕は。


 ギロチン刀を手にし。


 思いきり横薙ぎに腕を振った。


 通り過ぎる刃は。


 シャンパンのコルクが弾けるように。


 首を順々に飛ばしていく。


 その最中、刃が留まる。


 部屋に広がる鋼を叩くような音。

 

 ある者の首が斬撃の進行を食い止めた。


「はい、これで全員見つかりましたね」


 やはり今回の勇者は皆優秀。


 これなら全力で遊んでもそうそう壊れない。


「さて、ここからは各自自由行動って事で」


 まずはなにからして差し上げようか。   


 

 何時間経ったろうか。


「どう、どんな気分、今、どんな感じ? ねぇ? ねぇってば? ねぇええ?」


 ヴェパが愉悦に笑う。


 細い細い水の糸。


 それを勇者の全身に巡らせている。


 まるで蚯蚓が体中を這うよう。


 それは皮膚の近くを通る度、表面を浮き上がらせていた。


 

 サブノの牙が肉を食い破る。


 柔らかい腹の部分から口千切り血を啜っては吐いた。


 長い長い管上の臓器が引き出される。


 弾力のあるそれに牙を立て、咀嚼しては、吐き出した。


「不味い、不味いぞぉ、こんなの喉を通らない、まるで糞尿、これが勇者、これが人間、中身まで腐ってやがるうぁあ」


 生きながら腹を食い破られる。


 顔はどんどん中へと入っていく。


 顔全部が腹に収まる。



 僕はというと。


 何度も殴る。


 流石に形も変わる。


 腫れて、潰れて、もう顔の部位はない。


「なるほど、なるほど、これくらいだと・・・・・・なるほど、なるほど」


 うんうん頷きながら確かめていく。


 勇者というものを。


 どれくらいで。


 どれだけやれば。


 勇者の血が拳に絡まりそれでも殴り続ける。


 口だった部分から漏れる息。


 呼吸の回数がどんどん減る。


 下顎呼吸。


 それは短く。



 勇者達は皆どこかを見ていた。


 何かに縋るように。


 どこかを見ていた。


 願う視線。


 その先には。


「た、た・・・・・・たすけ・・・・・・」


「・・・・・・お、おねが・・・・・・凜・・・・・・廻」


 始めからずっと見ていただけのリンネ。


 彼女は黙ってみていた。


 顔を背けるでもなく、ただじっと。

 知り合いだった者が別人に変わっていく様から目を離さなかった。


「可哀想・・・・・・」


 ここで初めてリンネが表情を変え。


「可哀想、可哀想、みんな可哀想・・・・・・」


 眉を垂らし悲しそうな顔を見せる。


「なんて憐れなの、あんなに五月蝿かったのに、目障りなほど元気だったのに・・・・・・可哀想、可哀想、いいわ、助けてあげる、私が貴方達を助けてあげます」


 リンネが指を絡め祈り願う。


 勇者達の時間が一部限定で捲き戻る。


 損傷、損壊した体が元の形にへと帰っていく。


「おいおい、なんだよ、またやり直しじゃないか」


「あらあら、さすがに疲れちゃうわね」


「僕の拳がどれだけ持つかどうか」


 言葉とは裏腹に僕達の声は弾んでいて。


 また同様の行為を繰り替えす。


 勇者達の叫びは鳴り止まず。


 それを見ていたリンネもまた。


「可哀想、可哀想、なんて可哀想。でも大丈夫・・・・・・」


 言葉とは反対に。


 綻ぶ口元。


「何度でも直してあげる」

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