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たえろエニロエ

 お風呂上がり、一度トーアの鎧を取りに帰ってからダムさんのお店を尋ねると、ダムさんは鎧姿のトーアを警戒する様子もなく「いらっしゃい」と私たちを出迎えてくれた。


「幸運の御守り、ありがとうございました。凄い幸運が舞い込んできましたよ」

「……そう。なら良かった」


 泡立つ液体を混ぜながらそう応えた。トーアは不思議そうにこちらを向いたけれど、詳しく説明はしまい。


「今日は、何用かな。……ツケは余裕がある時で構わないよ」

「余裕はまだないですね……。今日はこちらのトーアがご用なんです」

「……初めまして」


 ダムさんの雰囲気に気圧され気味のトーアが恐る恐る頭を下げる。


「ご用っていうのは……その鎧のこと?」

「! ええ、その通りです」


 トーアは兜を外すと、ゴトリとカウンターの上に置いた。

 色白の美人二人が向かい合う光景はそれだけで三日は暮らせるんだけど、トーアの真剣な表情を見て、胸中に留めておこうと思った。

 私はよだれを拭い、静観する。


「この鎧には、魔法が掛けられているようなんです……。その魔法を掛けた人物を、探していただけないでしょうか」

「ふむ……確かに、魔法が付与されている。それもたくさん。……人物を特定するのは、時間が掛かるかな」

「時間さえあれば、特定できるんですか!?」

「うん、まあね。……預けてみる?」

「……私はこの鎧しか装備できないので、剣を置いていっていいでしょうか」


 トーアは剣と言うけれど、そんなものはどこにも見当たらない。剣帯だけは付いてるけれど……。

 首を傾げる私を余所に、トーアは体の正面に手を構える。途端、トーアの手の中に紫炎が迸り、身の丈を優に超えるグレートソードが現れた。

 鎧と同じ真っ黒な刀身が鈍く光る。なんの素材で出来てるかは知らないけど、私にゃ持ち上げられそうにない。軽々と持ち上げるトーアは何者なんだ。


「おや……」

「これにも、魔法が」

「うん、こっちの方が分かりやすそう。……ただ、それでも時間は掛かる」

「はい。お願いします」


 その後、ダムさんに言われトーアは剣を店の奥に運んだ。


「……久しぶりに、楽しめそう」

「そ、そうですか……」


 ダムさんは珍しくちょっと楽しそう。私たちがお店を出るとすぐに店を閉めてしまった。……不思議な人だ。

 兜を被ったトーアの表情は分からないけれど、お店を真っ直ぐ見つめている。事情は探らない方がよさそう。


「トーア。しばらくこの街にいるなら、冒険者になってもいいんじゃない?」

「あ……確かにそうだね」

「明日、ファトゥスさんにギルドカード作ってもらおっか」

「うん」


 空には夕焼け雲が浮かぶ。そろそろ日も沈むようだ。


「どこかで食べて行かない?」

「エニロエがいいなら」

「あっ……えへへ、うん。行きつけの居酒屋があるんだよ」


 名前を呼んでくれた……。それだけで胸がドキンと飛び跳ねる。ほっぺたが赤くなっていくのが自分でも分かった。私はトーアの手を引いて、誤魔化すように街道を歩く。

 トーアからすれば何てことない、ただ名前を呼んだだけ。それでも私の世界は急激に色付いたような気がした。もう、本気で恋に落ちているらしい。


「トーア」

「なに?」

「冒険者になったら、私とパーティー組んでくれる?」

「うん。私も初めてで不安だからね」


 私だって新米も新米なんだけど。だけどそう言ってくれるなら、私も先輩としてがんばるんだ。……明日からね。

 トーアを連れて、家の近くの居酒屋にやってきた。私はもっぱら、ここかギルドで酒を飲む。ああっ! ここに来て酒が飲めないなんて……! でもファトゥスさんとの約束を破るわけにもいかないし……!


「ど、どうしたのエニロエ? 頭痛いの?」

「違うよこれは苦悩だよ……」


 ここのチーズはエールに合うんだっ! くっ……!

 だけど、酒を捨ててトーアに出会えたと思えば、耐えられる。私は我慢のできる子だ! それに、酒が入るとトーアに何をするか分からない。私のモットーは「YESガールズNOタッチ」であるが、それは理性が働いている状態でのこと。それがいつ「GOタッチ」に変わるかは、酒の神のみぞ知る。


「私は強い子……私は強い子……」

「だ、大丈夫? 顔色悪いよ?」


 心配は無用だよトーア。私が飲むのは涙だけでいい。

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