まっしろトーア
「エニロエさん、そちらの方は……?」
ギルドに着くと、ファトゥスさんが出迎えてくれた。と同時に私の隣に立つトーアへ訝しげな視線を送る。そりゃあこんな黒いプレートアーマーを連れて帰ったら怪しまれて当然だ。
「こちらは旅人のトーアです。マウマスに用があるって言うから、案内しようと思って」
「そうだったんですか。ようこそマウマスへ、トーアさん」
「は、はい……しばらくお世話になります」
トーアのぎこちない挨拶も可愛らしい。
「それで、エニロエさん。案内はいいですが、クエストはどうでしたか? 怪我は見当たりませんし、問題は無かったでしょうが」
「大ありでしたよ! 背中見てください、ほら!」
「きゃあっ! 致命傷じゃないですか! は、早く医務室へ!」
「あっ私の血じゃなくてですね、ワイバーンの血なんです。ワイバーンに襲われてたところをトーアに助けてもらったんですよ」
「は、はあっ……びっくりしたあ……」
ファトゥスさんはふらりと倒れそうになる。いやあ、いらない心配をかけてすみませんね。
私はアイテムボックスから依頼の品である草食竜の卵を取り出し、クエスト達成! お疲れさま! ……ああそうだ、鱗も渡さないと。
「こっ、これ、ワイバーンの鱗ですよね!? まさかトーアさん、討伐したんですか!?」
「そうなんですよしかも一撃で。じゃなきゃこんな血付きませんって」
「す、すごい……! トーアさん、冒険者になりませんか?」
「えっいや、私は他にやることがあるので……」
「そうですか……」とファトゥスさんがしゅんとする。やっぱり強い冒険者は欲しいものなんだろうか。
この後、ワイバーンを倒した場所を教えて、報酬金を貰ってギルドを出る。早くお風呂に入って着替えたい。
「トーアは今日泊まる場所あるの?」
「まだ、決めてない。私は別に馬小屋でもいいから、大丈夫」
「そんな! ダメだよ女の子が馬小屋で一人なんて! 悪い男が来たら……トーアなら大丈夫な気がするけど……やっぱりダメ! 私のうちに泊まりなさい!」
「え、あ、ありがとう」
……はっ! 勢いでお泊まりを約束してしまった! そんな、いきなり距離を詰めようとしたら嫌われちゃうかも……! でも誘っといて断るのもおかしいしそもそもそんなイベント避けられるわけないし……! ああっ、幸せ……!
「よ、よだれ垂れてるよ?」
「垂れてない。それより銭湯行かない? 一旦着替え取りに帰ってさ」
「でも私、お金無い」
「そのくらい私が払うよ、トーアがいなきゃクエスト達成どころか生きて帰ることもできなかったんだから!」
トーアには感謝してもしきれないね。完全に惚れてるって分かるもん。こんなヒロイックなヒロインそうはいない。
着替えを持ってないというトーアに服を貸し、銭湯へ向かう。鎧を脱いだトーアは、鎧と相反する白磁の様な肌を持っていた。触りたいけれど、ボディタッチはアウトだよね……。
「わあ、すべすべだ〜」
「ん、くすぐったい」
背中を流すという体ならOKだよね? ね?
水も滴るいい女と言えばいいのか、まあ滴ってるのはお湯だけど、線が細い、華奢な体つきだ。どこにあんなパワーを秘めているのか分からない。そもそもあんなパワー、ただの旅人にしては強すぎる。
「そういえば、旅の目的はなんなの? マウマスには何用で?」
「目的、目的は……魔法に詳しい人を探してる」
「へえ、そうなんだ」
魔法なら、ダムさんが詳しかったはずだ。薬学や錬金術、魔法に呪術だとか、いろいろと研究していた……と思う。ダムさんの道具屋には何度も訪れているが、彼女はまだ分からないことが多い。そういう謎の多いところも好きなのだけれど。
「その、ダムさんって人ところまで、案内してくれる?」
「もちろん! ……けどその前に、私の背中も流して!」
「うん。分かった」
すっかり血生臭くなっちゃった私の背中を、柔らかい指が滑らかになぞる。ひゃ〜こしょばい! それでもって興奮する!
「……鼻血、出てるよ?」
「そんな古典的なリアクションしないって……あ、ホントだ。でもこれは大丈夫なやつ」
「そ、そう……」
私は鼻を摘まみながら、この圧倒的幸福を噛み締める。ああっ、この瞬間が永遠に続けばいいのに……!
って、そんなにお風呂にいたら逆上せちゃうか。




