ふしぎなトーア
「エニロエさん、その顔……」
さあ、今日も今日とてクエストだ。昨日は危うく死ぬところだったけど、今日は何事も無ければいいなあ。
「あの、エニロエさん?」
「え、あー……なんでしたっけ……」
「ですから、その、大丈夫なんですか? 隈が……」
「あー、へへ。……一睡もしてません」
「なぜ!?」
なぜって、そりゃああんな状況で眠れるわけないでしょうが!
昨日、私はトーアを家に泊めたのだけれど……何分急だったもんだから準備なんてしていない。当然、寝る場所も一つ。
トーアは「床で寝るよ」だなんて言うけどトンでもない。麗しい乙女を床に転がしてなるものか。だから私は、ベッドを使うように言った。一緒に使おうと。
ちょっと欲張ってしまったのが運の尽き、隣で美少女が寝息を立ててちゃ落ち着いて寝ることなんて不可能。トーアが寝返りを打つ度に甘い香りが鼻腔をくすぐり、私の意識が覚醒させられる。そんなことを繰り返しているうちに、窓の外が明るくなってきたというわけだ。
……幸せといえば幸せな時間ではあったけど、あんな生殺しもそうそうない。
「どうしますか、クエスト。そんな調子じゃままならないんじゃ……」
「いえ、行きますよ。トーアもいますし、いざとなったら助けてもらいます」
「それもそうですね。トーアさんがいれば……並大抵のモンスターは蹴散らせますよ」
先にトーアの登録は済ませてある。トーアが来た時のファトゥスさんは小躍りして喜んでいた。普段落ち着いてる人だけに、珍しいものが見れた。
「今日のクエストはアルミラージの角の回収です。アルミラージは外見こそ角の生えたウサギですが、肉食で獰猛なモンスターです。生息地は昨日と同じくあの森ですので、気を付けてください」
「ひええ……またワイバーンが出てきたらどうしよう……」
正直結構なトラウマだ。その後の死に様も同様に。今日は最初からトーアがついてくれるから、安心ではあるけど……。
「あのワイバーンについてはまだ調査中ですね。気になる点が多くて……詳細が分かり次第、ギルドから調査のクエストが依頼されると思いますよ」
されたとしても、絶対受注したくないな。私が命を懸けるのは女の子だけでいい。
さて、それじゃあクエストに向かいましょうか。
昨日準備していただけに、すぐさま出発できた。今日は討伐クエストだから、傷薬やマジックポーションが活躍するはず。
「あ、いたよ」
「んん……ホントだ、ふわあ……」
平坦な道を歩いているとつい眠たくなってしまった。いかんいかん、頬をパシッと叩いて気を引き締める。
前方には、青い角を生やした白い体毛を持つウサギがピョンピョンと跳ねるのが見える。確かに見た目は愛らしいが、これで肉食らしい。
「クエストは角の回収だけど、お肉もギルドで売れるんだよね」
「そうなんだ。じゃあ」
トーアはアルミラージの首を片手で掴みあげると、ゴキッという音と共にへし折った。……トーアって容赦ないよね。確実に殺すじゃん。
「これなら体の損傷も少ないし、売りやすいかな」
「あ、うん。そうだね」
秒殺されたアルミラージの死体の首を切り落とし、角はポーチに仕舞い、体は木の棒に吊るして血抜きする。なんだかワイルド。
しかし、やっぱりトーアは強いや。気づかれずに間合いに入る素早さと身のこなし、首を一瞬でへし折るパワー。冒険者として成功するのも簡単だろう。
よし、次は私がいいとこ見せなきゃ!
「見ててねトーア。私だって、大した力は持ってないけど経験が……それもあんまりないけど、やる気はあるから!」
二匹目のアルミラージを見つけた私は、そいつの背後に回り、
「サモン・ウォーター!」
私がそう言うと、アルミラージの上から水が降る。
これは簡単な水魔法、詠唱も短いし魔力の消費も少ない。その分威力はほとんどない、濡れるだけ。でもそれでいい。
私は続け様に、
「フロスト・ブレス!」
氷結魔法でアルミラージを凍らせる。まだ死には至ってない。だから私はロングソードを抜き、振り下ろす。
「ふう、終わりっ」
初めてやったけど、案外いけるもんだ。トーアがパチパチと拍手をしてくれる。いや〜照れちゃうね〜、この戦法だって飲み友達に聞いたんだから〜、えへへ。
「魔法、使えるんだね。私は使えないから、羨ましい」
「え? 簡単なのは、誰だって」
「私は、魔力がないみたい」
……トーアの謎が深まった。




