解放
「佐藤さん、お兄さんのことが心配なのはわかります。でももっと早く相談に来ていただければあなたもこんな怪我を負わなくてもよかったのに」
仁哉は何がなんだかわからなかった。
「兄は・・・」
「あぁ。病院に措置入院となりました。佐藤さんには申し訳ないですがお兄さんには精神障害が認められたので責任能力は追求できないんですよ。」
恒常的に和由が仁哉に暴力を振るったことになっていた。
「お兄さんも精神的にかなり病んでいたようですし」
「いや、そんなことは・・・」
「とにかく今日はゆっくり休んでください。」
仁哉はそう言われ、警察署を後にした。
本当は自分が兄をずっと殴っていたんです、と言えなかった。
これでよかったんだ。もし退院してきても家には入れない。これでやっとあのやりきれない怒りから解放される。仁哉はほっとしようとした。しかしできなかった。和由があの時、突然狂ったようになったのはなんだったのか。
「ごめんなさい、今まで・・・」
和由の言葉が頭をよぎった。
今まで?
記憶障害で自分のことも俺のこともわからないと言っていたのに今までってなんなんだ?
もしかしたら、記憶は戻っていたのかもしれない。
すべてを知っていた上で、あいつは俺のことをかばったのか?
もし俺のことをかばったとしても、俺はあいつを許さない。俺が受けた今までのダメージは俺があいつを殴った傷じゃ足りない。今でも死ねばいいと思っている。やっと一人になれたんだ。あいつはもういない。二度と会うこともないだろう。死んだんだ。
それなのに心が晴れない。高校の卒業式もそうだった。晴れるはずなのにいつも曇っている。あいつのせいだ。あいつが本当のことを話したらどうしよう、という不安があるのか。いや、違う。きっと和由は本当のことを話さない。あいつが、俺のことをどう思っていたのか。あんなに殴られて蹴られて、もし記憶が戻っていたとして、どう思っていたのだろう。
考えると眠れなかった。




