なんか増えた (筋肉が……)
女神が、本日三回目の空を見上げて呆けていると。
「ぶも?」
ミノタウルスが遠慮がちに声をかけてきた。
「……え?」
「ぶもぶも」
「斧?」
スライムが通訳する。
「斧はどうしたのか、と聞いてます」
「あー……」
女神は視線を落とした。
手元を見る。
そこにあるのは――
どう見てもダンベルだった。
しかも無駄に重い。
「……これなのよね」
「ぶも?」
ミノタウルスが首を傾げる。
まあ、そうなる。
女神だって意味がわからない。
「ええと、その……色々あったの」
「ぶもぉ?」
「私に聞かれても困るわよ」
半ば自棄になりながら、女神はダンベルを差し出した。
「はい、あなたの――」
言いかけて止まる。
ちらりと金と銀のダンベルを見る。
沈黙。
「……まあ、どうせだし」
女神は営業スマイルを浮かべた。
「正直なあなたには、この金のダンベルと銀のダンベルも差し上げましょう」
「ブモ?」
ミノタウルスが困惑している。
当然である。
突然ダンベルを三つ渡されたのだから。
だが、女神も困惑していた。
むしろ被害者である。
「ぶもぉ……」
ミノタウルスは恐る恐る黒いダンベルを持ち上げた。
軽々と。
「えっ」
女神の口から声が漏れる。
(あれ持てるの!?)
神力込みで持ち上げていた自分が馬鹿みたいだった。
ミノタウルスは不思議そうにダンベルを眺める。
握る。
すると。
ぼうっ、と。
ダンベルが光り始めた。
「え?」
「え?」
『おお』
スライムだけ妙に落ち着いていた。
光がミノタウルスの腕を包む。
筋肉が膨らむ。
ミシッ。
「えっ」
ミシミシミシッ。
「ちょっと待って、なんか鳴ってるんだけど!?」
肩が盛り上がる。
胸板が厚くなる。
腕が太くなる。
元々大きかったミノタウルスが、一回り巨大化した。
「ブモオオオオオオオオオオ!!」
咆哮。
衝撃波。
木々が揺れる。
女神の髪がぶわっとなびいた。
「風圧っ!?」
『筋肉超鍛錬ですね』
スライムがのんびり解説する。
『筋肉を超鍛錬するスキルかと』
「見ればわかるわよ!!」
女神が叫ぶ。
ミノタウルスは感動したように自分の腕を見ていた。
ムキッ。
筋肉が鳴る。
「ブモォ……!」
目が輝いている。
「え、そんな喜ぶの?」
『気に入ったみたいですね』
「そう……」
女神は遠い目をした。
空を見上げる。
月が二つあった。
現実だった。
『称号【筋肉の導き手】を取得しました』
「嫌ァアアア!!」
女神の悲鳴が森に響いた。
「……おかしくなる前に帰りたい……」




