これじゃない!
女神が空を見上げ、ぼんやりと呆けていると。
「ぶも、ぶもぶも」
「……何を言ってるの?」
振り返ると、ミノタウルスが何かを訴えている。
だが、やはり一言も理解できない。
(言葉っぽいのに……全然わからないわね)
そう思った、その時。
「斧を返して欲しいと、言ってますよ」
「え、今のが!?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
振り向くと、スライムがのんびりと揺れている。
「言語理解ってスキルもありまして」
「スキル……」
またその単語だ。
(やっぱり、ゲームみたいな世界なのかしら)
一瞬考える。
(……私にも使えるのかしら)
ちょっと欲しいかも。
――いや。
「今はそれどころじゃないわね」
軽く頭を振り、意識を切り替える。
目の前には困った顔のミノタウルス。
手には、やたら重い謎の斧。
女神は深く息を吸い――
いつもの営業スマイルを浮かべた。
「では、改めて」
斧を掲げる。
「あなたが落としたのは、この金の斧、それとも銀の斧?」
「……伝えてもらえるかしら」
「は~い」
スライムは気軽に返事をすると、ミノタウルスの方へ向き直る。
「ぶもぶも」
「ぶも?」
「ぶもー」
ほんの一瞬のやり取り。
「はい、聞きました」
「早くない!?」
思わずツッコむ。
「それで、何と言っていましたか」
若干の不安を抱えつつも、話を進める。
深く考えたくはない。
「えっと……たぶん」
「たぶん?」
「アダマンタイトの斧だって言ってました」
「そう、正直なあなたには――」
言いかけて、止まる。
一拍。
「……アダマンタイト?」
「アダマンタイト!?」
聞き返した。
(何それ、知らないんだけど)
頭の中で高速検索。
(新しい合金? それともこの世界の金属?)
ちらりと斧を見る。
(……やたら重いのも,、そのせい?)
ぐっと腕に力が入る。
(こんなの振り回すとか無理でしょ。もうこれ――)
一瞬、思う。
(ダンベルじゃないの……)
「……いや、さすがにそれはないわよね」
ぽつりと呟く。
沈黙。
――次の瞬間。
斧が、光り出した。
「え?」
嫌な音がする。
ギギギ、と。
金属が軋むような、歪むような音。
「ちょっと待って、これまず――」
形が、変わる。
刃が縮み、柄が太くなり。
左右に、均等な重みが生まれていく。
「ちょっ、ちょっと待って!?」
そして。
それはもう、斧ではなかった。
「……ダンベル?」
どっから見ても、ダンベルだった。
沈黙。
風が吹く。
ミノタウルスが首を傾げる。
「ブモ?」
『ダンベル生成を取得しました』
「……」
ダンベルを見る。
「これじゃない」
一拍。
「いや本当にこれじゃない」
肩が落ちる。
「……今すぐ帰りたい……」




