七夕だった
女神は本日何回目になるのか分からないほど空を見上げていると。
ふと、違和感に気づいた。
「あれ?」
月を見つめる。
この世界には月が二つある。
異世界だし、そういうものなのだろうと納得していた。
だが。
「あの月……平べったくない?」
今さらだった。
月というより。
巨大な円盤。
空に貼り付けられた板のようにも見える。
一つだけならまだいい。
問題は二つ並んでいる事だ。
左に円盤。
右に円盤。
女神は目を細めた。
「なんか見覚えが……」
嫌な予感がした。
最近ずっと見せられている形。
丸い円盤が二つ。
並んでいる。
まるで――
「ダンベルじゃない……?」
棒こそない。
だが発想としては完全にダンベルだった。
女神は遠い目をした。
「もう嫌な予感しかしないんだけど……」
すると。
後ろからぷるぷると水音が聞こえた。
『月ですか?』
妙に張り切った声だった。
女神は振り返る。
スライムがいつもより弾んでいる。
嫌な予感が強くなった。
『あれは素晴らしいですよ』
「へぇ……」
『普段は黄色い円盤月なんですが』
「うん」
『一年に一度だけ』
「うん」
『七月七日に』
「うん」
『二つの月が光の橋で繋がりまして』
女神の表情が止まる。
『黄金色に輝く巨大なダンベルになります』
「なるほど」
沈黙。
風が吹く。
「……ん?」
『この世界では神聖な日とされております』
「ちょっと待って」
『筋肉の祝祭とも呼ばれ――』
「待って」
『世界中の人々がダンベル月に祈りを捧げます』
「待ちなさい」
スライムは止まらなかった。
『その日は筋肉超鍛錬の効果が上昇し――』
「待てって言ってるでしょうが!」
女神の叫びが響く。
スライムがびくりと震えた。
静寂。
女神はゆっくりと空を見上げた。
二つの円盤状の月。
もしそこに光の棒が繋がったら。
確かに。
どう見ても。
ダンベルだった。
「……」
ぽかん。
口が開く。
思考が停止する。
そして。
「七夕か」
ぽつりと呟いた。
願い事を書く短冊。
年に一度の再会。
天の川。
そんな単語が頭をよぎる。
だがこの世界では。
ダンベルだった。
「どうしてそうなったの……」
月は何も答えない。
『今年の七夕まであと10日です』
「近いわね!?」
女神は反射的に叫んだ。
そして。
ゆっくりと肩を落とす。
「……七夕が来る前に帰りたい……」
一拍。
「願い事書いたら帰れるかしら……」




