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『岸和田、恋は年齢を越えて』  作者: こうた


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第7話 俺、この人が好きかもしれない

 それから一ヶ月。


 優斗と美佐子は、会うことがすっかり当たり前になっていた。


 仕事終わりに一緒に飯を食う。


 美佐子がダンプの仕事の愚痴を言い、優斗が笑いながら聞く。


 優斗が施設であった出来事を話せば、美佐子が、


「お前、ほんま真面目やな」


 と笑う。


 そんな時間が増えていった。


 ある日。


 優斗は施設で、一人の利用者の対応をしていた。


「優斗くん」


「はい?」


「最近、楽しそうやな」


「そうですか?」


「顔が違うもん」


「……」


 優斗は少し驚いた。


「何かええことでもあるんか?」


「いや……」


 言葉が出てこない。


 美佐子の顔が浮かんだ。


 仕事が終わり、いつもの場所へ向かう。


 そこには美佐子がいた。


「遅い!」


「すみません」


「今日は何や、疲れとるやん」


「ちょっと仕事が忙しくて」


「ほな今日は私が奢ったる」


「いつも奢ってもらってますよ」


「若い奴に払わせられるか」


「でも……」


「ええねん」


 二人は食堂に入った。


 食事をしながら、美佐子が仕事の話を始める。


「今日な、若い奴がミスしてな」


「はい」


「私が怒ったら、めっちゃビビっとったわ」


「美佐子さん、怖そうですからね」


「なんやと?」


「冗談です」


「お前、最近ちょっと言うようになったな」


「美佐子さんといると慣れてきますから」


「ほう」


 美佐子が嬉しそうに笑う。


 優斗も笑う。


 その瞬間だった。


 優斗の胸が大きく跳ねた。


「……」


 笑っている美佐子を見ているだけなのに、胸が苦しくなる。


 もっと見ていたい。


 もっと一緒にいたい。


 この人が笑っていると嬉しい。


 この人が他の誰かと楽しそうにしていると、少し嫌な気持ちになる。


 そして――。


 会えない日は、寂しい。


「……俺」


「ん?」


「いや、なんでもないです」


 その日の帰り道。


 優斗は一人で歩いていた。


 街灯の下で立ち止まる。


「俺……」


 胸に手を当てる。


 鼓動が速い。


「美佐子さんのこと……」


 そこで言葉が止まった。


 認めてしまえば、もう後戻りできない気がした。


 美佐子は六十四歳。


 自分は二十三歳。


 年齢差は四十一歳。


 普通なら、恋愛対象として考えることすらない年齢差だ。


「……いや」


 優斗は首を振った。


「普通とか関係ないだろ」


 誰かに決められたわけではない。


 自分がどう感じているか。


 それだけだ。


 優斗はスマートフォンを取り出した。


 美佐子とのメッセージ画面を開く。


 最後に届いた、


『また明日な』


 という短い文章を見る。


 それだけで、自然と笑ってしまった。


「……俺、この人が好きかもしれない」


 初めて、自分の気持ちを言葉にした。


 その瞬間。


 嬉しい気持ちと同時に、不安が押し寄せてきた。


 この気持ちを伝えていいのだろうか。


 美佐子はどう思うだろう。


 もし気持ち悪いと思われたら。


 もし、もう会ってくれなくなったら。


 考えるほど怖くなる。


 だから、今は言えなかった。


 その頃。


 美佐子も自宅で一人、優斗から送られてきたメッセージを見ていた。


『今日はありがとうございました。またお願いします』


「……ほんま、律儀やな」


 笑いながらスマートフォンを置く。


 だが、その顔はすぐに曇った。


「……あかん」


 美佐子は自分に言い聞かせる。


「あの子は二十三や」


 自分は六十四。


「何考えとんねん、私」


 最近、優斗と一緒にいる時間が楽しい。


 連絡が来ると嬉しい。


 会えないと、少し寂しい。


 そして時々――。


 優斗が他の女性の話をすると、胸がざわつく。


「……まさかな」


 美佐子は笑って誤魔化した。


 だが、鏡に映った自分の顔を見て、気づいてしまう。


「私……」


 頬が少し赤くなっていた。


 美佐子は慌てて顔を背ける。


「アホや。ほんまアホや……」


 二人とも、まだ相手には言わない。


 けれど――。


 同じ頃、同じ気持ちに気づいていた。


 ただ一つ違うのは。


 優斗は「好きになってしまった」と思い、


 美佐子は「好きになってはいけない」と思っていたことだった。


 四十一歳という年齢差が、二人の間に初めて大きな壁として姿を現し始めていた。

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