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『岸和田、恋は年齢を越えて』  作者: こうた


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18/20

第18話 俺は隠れたくない

 母親に会ってから、二週間が過ぎた。


 優斗と美佐子の関係は、少しずつ変わっていた。


 以前は「二人だけの恋」だった。


 けれど今は違う。


 優斗の母親も二人の関係を知っている。


 完全に認められたわけではない。


 それでも、隠れて会う必要はなくなった。


 そんなある日。


 美佐子の仕事仲間から電話が入った。


「美佐子、今度飲み会あるけど来るか?」


「酒飲まんから行かん」


「飯だけでもええやろ」


「考えとく」


「それとな」


「なんや?」


「この前一緒におった若い兄ちゃん、彼氏なんか?」


 美佐子は黙った。


「……そうや」


 初めて、はっきり認めた。


「え?」


「私の彼氏や」


 電話の向こうが静かになる。


「……ほんまか?」


「ほんまや」


「相手、二十三やろ?」


「そうや」


「お前、六十四やぞ?」


「知っとる」


「……すごいな、お前」


「何がや」


「いや……」


 美佐子は苦笑した。


「私も自分で驚いとるわ」


 電話を切る。


 その夜。


 優斗にその話をすると、優斗は嬉しそうに笑った。


「やっと言ってくれたんですね」


「何が?」


「僕のこと」


「彼氏って言っただけや」


「それが嬉しいんです」


「……そうか」


 美佐子は照れた。


「でもな」


「はい」


「まだ、みんなには理解してもらえてへん」


「分かっています」


「特に昔からの知り合いには、色々言われると思う」


「それも分かっています」


 優斗は少し考えてから言った。


「僕、隠れたくないです」


「……」


「美佐子さんと付き合ってること」


 美佐子は黙った。


「僕が恥ずかしいと思ってたら、こんなに続いてないです」


「……」


「美佐子さんが六十四歳だから好きになったわけじゃありません」


「じゃあ、何でや?」


「美佐子さんだからです」


 美佐子は顔を背けた。


「……ほんま、そういうこと平気で言うな」


「本当のことです」


「はいはい」


 その翌日。


 二人は美佐子の昔からの友人たちが集まる店に行くことになった。


「ほんまに行くんか?」


「はい」


「嫌になったら帰るんやで」


「美佐子さんこそ」


「私は大丈夫や」


「じゃあ、一緒に行きましょう」


 店に入ると、数人の男女がいた。


「あ、美佐子!」


「おう」


「……その子が?」


 全員の視線が優斗に集まる。


 美佐子は少し緊張した。


「紹介するわ」


 優斗を見る。


「優斗や」


「初めまして。佐伯優斗です」


「若いなぁ」


「二十三です」


「聞いてたけど、ほんまに若いな」


 笑いが起こる。


 優斗も笑った。


 その中の一人が聞いた。


「美佐子、ほんまに付き合ってるん?」


「そうや」


「……」


「何や?」


「いや、美佐子がこんな顔するん初めて見たから」


「どんな顔や」


「嬉しそうな顔」


 美佐子は黙った。


 優斗を見る。


 優斗も美佐子を見ていた。


 その瞬間、昔からの友人の一人が言った。


「美佐子」


「なんや?」


「幸せそうやな」


「……」


 美佐子は少しだけ笑った。


「うん」


 その一言に、優斗の胸が熱くなった。


 だが、全員が歓迎してくれたわけではなかった。


 店の隅にいた男性が口を開く。


「でも、四十一歳差やろ?」


「……」


「若い方が後悔せんかったらええけどな」


 空気が少し重くなる。


 優斗はその男性を見る。


「後悔するかどうかは、僕が決めます」


「……」


「美佐子さんと付き合うことも、自分で決めました」


 美佐子が驚いて優斗を見る。


「だから、心配してもらわなくても大丈夫です」


 男は黙った。


 美佐子は優斗の袖をそっと掴んだ。


「……ありがとう」


「はい」


 帰り道。


 美佐子は何度も黙っていた。


「美佐子さん?」


「……なあ」


「はい」


「ほんまに、私でええんか?」


「何回聞くんですか」


「何回でも聞く」


 優斗は笑った。


「いいです」


「……」


「僕が選んだ人ですから」


 美佐子は立ち止まった。


「優斗」


「はい」


「私もな」


「はい」


「お前を選ぶ」


 初めて、美佐子が自分からはっきりと言った。


「誰に何言われても」


「……」


「私は、お前と一緒にいたい」


 優斗の目に涙が浮かぶ。


「泣くな」


「すみません」


「またか!」


 二人は笑った。


 そして、美佐子がそっと手を差し出した。


 優斗が握る。


 今度は、どちらも手を離さなかった。


 四十一歳差。


 周囲の反対。


 将来への不安。


 それらは消えていない。


 それでも二人は、少しずつ「恋人」から「人生を共にする相手」へと気持ちを変えていた。


 そして残された時間は、あと二話。


 二人は最後に――。


 「結婚」という、人生を変える決断に向き合うことになる。

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