【8】衣食住②
新生活への第一歩やで
「一年振りやんなぁ? 新しいとこはどない? 元気でやってたん? もうおばちゃん心配で心配で、いや幸子ちゃんならなぁ、しっかりしてるで大丈夫やと思うけどなぁ、なんせほら、万博で人が仰山集まってきとるやろー? 幸子ちゃん美人さんやからなぁ。変な虫ついてへんか……そや、幸子ちゃんは万博行ったん? おばちゃんも気になってるけどなぁ、あんまりよう歩けへんから、なんせほら、おばちゃん膝が悪いでな、若い子はどんどん行ったらええ。すごいらしいなぁ! 外人さんもおるんやて? 隣の奥さんなんてな、もう3回も行ったらしいで、羨ましいなぁ」
おばちゃん……息してる?
「おばちゃん、あんな、この子、みうっていうねんけど、ちょっと困っててな、住むとこと働くとこ探してんねん。ここでしばらく面倒見てくれへんやろか」
おばちゃんの話はすべてスルー。華麗だ。
「……ハッ! あの、みうです。松本美羽と言います」
「はぁ、み……え? なんて?」
「み。う。みうです!」
「みうー? 猫か」
なにそれ、言わないといけないシステムなの?
「ええで、なんや知らんけど困ってるんならここにおったらええ」
「おばちゃん、ありがとう」
「幸子ちゃんの頼みやからなぁ、しゃーない」
「ただなぁ、おばちゃん。この子な、お金持ってへんねん」
「ほーか、今から働くんやな? ええよ、給料入ってからでええ」
そんな簡単なの?
「あの、いいんですか?」
「ええ、ええ。幸子ちゃんとは長い付き合いやしな、ここはなぁ、色んなもん背負った女達が頑張ってひとり立ちしていく、そういう場所や」
やだなんかカッコイイ
「幸子ちゃんもなぁ、色々苦労したもんなぁ。たまには実家に帰ってるんか? 静子ちゃん心配しとったでぇ?」
シズコちゃん? 誰? 聞いたことないぞ
「ああ、まあ、そやな、そのうちな」
誰だろう……実家……そういえばおばあちゃんは叔母さんに育てられた、とか言ってたよね。その叔母さんがシズコさんなのかな
そんなことを考えてたら上の階から足音がして階段を降りてくる音が聞こえた。
「おはよう……あ、ごめん、お客さん来てたんや……え! 幸子ちゃんやん! わぁ! 久しぶり!」
わ、わ、なんだ、めちゃくちゃセクシーなお姉さんだ!
そ、そんな薄いヒラッヒラのパジャマで……え? 下着かな? やば!
「洋子ちゃん! 久しぶりやねぇ。今日は早起きちゃう?」
「いやぁ二日酔いで気持ち悪くて、なんや汁もん飲んだら治まるかなぁて思て……おばちゃん、なんかない?」
「あぁ、朝のお味噌汁が少し残っとるわ」
「おおきに、もらうで〜」
踵を返そうとした洋子さんをおばちゃんが引き止めた。
「あ、ちょい待ち、洋子ちゃん。この子な、今日からここに住む……えっと……」
「みうです」
「み……え? なんて?」
はぁ、また同じくだりをするのか
「みうです! 猫みたいなもんやと思ってください!」
全員キョトンとしたあと大爆笑してくれた
「あはは、みうちゃんな、よろしく。うちは洋子。夜働いとるからだいたい昼まで寝とるでな、あんまり顔合わすことないかもしれんけど」
色気すごいな
「よろしくお願いします」
ヒラヒラと手を振りながら消えていった
「うちは5部屋あってな、洋子ちゃんとあと2人。その2人はお昼に働いてるけどな、典子ちゃんは盆休みで、今はどっか出かけとるわ。弘子ちゃんは仕事やけど夜には会えるで。今日はおばちゃんが晩御飯作ったるからみんなで食べような。幸子ちゃんもおいでな。あの2人とも会うん久しぶりやろ?」
「ほんま、久しぶりやなぁ。ありがとうおばちゃん。またあとからくるでな」
「あ、そやそや、部屋を見せたらんとな」
なんかもうみんなポンポン話すからついていくのが大変
2階に上がって部屋を開けてくれた。
「ここな、幸子ちゃんが使ってた部屋でな、幸子ちゃんが出てったあとはそのまんまや、掃除はしとるけどな」
6畳の部屋。ここが今日から私の住むとこ……
「お布団は干しとくからあとで自分で取り込んでな」
「はい」
「それと、ここはトイレな」
うん、和式だね。わかってる。……でも綺麗だな
「そしてここが共用の洗面台やで」
共用……うん、仕方ない。
下へ降りるおばちゃんについて行く。
「それと、うちは基本的にそれぞれ自炊やでな、台所はこっちな。下のトイレはここ。ほんで洗濯機はこっちな、2台あるから空いてるほう使い〜」
そう言いながらおばちゃんが台所の勝手口の方へ向かう。どこに行くんだろう……
スリッパを脱いで、下駄のようなサンダルのようなものに履き替える。
すると広い……庭? なんだろう。一面がコンクリートのような……ちょいちょいひび割れてる広場だ。
そこに物干し竿が並んでいる。
端のほうを見ると屋根があって、その下に洗濯機があるぞ……
え! 外に置いてあるの?
「洗濯機はここな」
おばちゃんが洗濯機をポンポンと叩きながら教えてくれる。
洗濯機……使えるかな、どういうやつ?
……ん?
「……洗濯機、4つあります……よね?」
2台って言ってたけど、それぞれ蓋が2つある。1台に2つずつ洗濯機があるよ?
「4つ? 何言うてんの、2台やで?」
「え、あの、ここ、蓋が4つ……」
「はぁ? 洗濯機見たことないんか? こっちで洗って、こっちで脱水するんやで?」
ん? ん? こっちで、洗って? こっちで……
「え! 洗ったあと、わざわざこっちに移動させるんですか!」
「……幸子ちゃん、この子大丈夫かいな? どっかええとこの子ぉかー?」
「ん、んー、そやねん、世間知らずのお嬢様やから色々教えたってくれるか?」
「はぁまぁ、ええとこの子が何があったか知らんけど、おばちゃんがしっかり教えたるからな、頑張りや!」
なんかお嬢様の設定になったよ
いやいや、私だって普通の洗濯機なら……いや、使ったことないかも
「はい、何もわかりません。よろしくお願いします」
今日から、何もかも自分でするのか……憂鬱だ
そうだ! 大事なこと!
「あ! あの! お風呂は……?」
「銭湯やで」
がっくり! ここもないの?
でも……でもさ……
「……こんな立派な建物にも、お風呂ってないんですか?」
「うちらが買うたときにはすでになかったなぁ」
……どゆこと? すでになかった?
首をかしげていると詳しく教えてくれた。
「……ああ、若い子にはわからんな。戦時中はな、金属類はほとんど国に持っていかれたんや」
は?……ああ、何か聞いたことあるかも
「ここはな、元々裕福な商人のお屋敷やったんやで。もちろんお風呂もあったみたいや。詳しくは知らんけどな、戦争で商売もできんようになって建物が売りに出されたらしいで」
「……元々は、お風呂あったんですか?」
じゃあまた付ければいいのに!
「今は物置になってるわ。新しく付けるとなぁ、あんたらの家賃も高こなるし近所に銭湯もたくさんあるでな、そのままや」
「……そう、なんですね」
戦争めぇ!
私が銭湯を苦手だと知っている幸子が、笑いを堪えながら言った。
「今日までは一緒に行ったるから、慣れるしかないで。銭湯代も貸したるから給料入ったら返してな」
はぁ、ほんと気分があがらない。
昨日はなんかテンションおかしくて、幸子に抱きついたりDV男から幸子を守ろうとしたり、自分でもびっくりすることをしてしまった。
……そう、そうだった、DV男から幸子を、おばあちゃんを守るという使命があるんだった!
昭和がイヤすぎるけど仕方ない、早く令和に帰りたいけど仕方ない!
さあ次は仕事だ!
おばちゃんが喋りすぎるから文字数増えたよ。




