【63】心ここに在らず②
マジで何言ってんの!?
てか、手! きしょい! 小指の爪! 刺さってる! きしょい!
何が起きてるん!? この人が何を言ってるのかわからへん、とにかくきしょい!
金田さんはニコニコして、なぜかウンウンと頷いてる。
「あぁ、可愛ええなぁ。そない恥ずかしがらんでええんやでぇ」
は!? ほんま何言うてんの!?
「は……離して」
ニコニコウンウンじゃねぇよ、触るな!
……でも怖くてそんなこと言えん
「い、痛い! 離して!」
金田さんは、ハッとして、手を離してくれた。
……良かった
と思った瞬間、反対の手で私の腰に手を回してきて、自分の方に引き寄せた。
ぎゃーーーーーー!!!!!!
きしょいきしょいきしょいきしょい!
あまりにも怖いときは声が出ぇへん、とよく聞くけど、ほんまなんや……なんでこんなことに? これは一体なんなん? 何をしようとしとんの? いつやめてくれるの? 抵抗したら怒る? 殴る? 痛いことする? 許してくれる? だいたい何で私がこんな目に?
頭の中、大パニック。
それでも気づけば体は抵抗してて、肘で金田の体を押して離れようとしてる。
「みーちゃん、大丈夫やて。わしに任せとき」
……わかった、何で怖いのか
何言うてるかわからへんからや
「あの! さっきからほんまに何言うてはるんですか!?」
「何、て……みーちゃん、緊張しとるみたいやからな、安心させたろうと」
「緊張て何ですか!」
「……緊張ちゃうんか、そかそか、恥ずかしいんやな、可愛ええなぁ」
「何で私が恥ずかしいん!? 意味わかりません!」
「な、何で、て……」
「手ぇ離してください!」
「な、何言うとんのや、みーちゃん。わしがリードしたるがな」
マジで意味わからん!
「何言うてはるのか、ほんまわかりません!」
「そやから、わしに任せたらええんや」
「なんでやねん! 触らんといて!」
「な! なんでや!」
はぁ!?
「なんでて、イヤやからに決まっとるやろ!」
「……な、なんでや、みーちゃんあんた、いつもわしのこと見とったろ?」
「はぁ!?」
「仕事中、チラチラわしの方見とったやないか」
……小指の爪は見てたかも
「見てません」
「わ、わしが褒めたら、いつも嬉しそうにしとったやろ?」
……愛想笑いのことかな
「全然嬉しゅうないわ」
「わ、わしが、助けたる言うたら、ありがとう言うたやないか! そやからわし、外で話せるように、置いとくで、言うたやろ! そしたら、ありがとうて、言うたやないか!」
「は? 置いとく? なんのこと」
「タバコや! そやのに和夫が持ってきてからに」
「……忘れ物!? あれワザとやったん!?」
「そうや! みーちゃんが恥ずかしがっとるから、わしがきっかけ作ったったんや! 和夫が邪魔したんやな!?」
……ほんま、何言うてんの、怖すぎる
ちょ、待って……もしかして
「……今日、会ったのは? 偶然?」
「みーちゃんが喜ぶ思てな、びっくりしたやろ」
アベルから、後つけて来たん? ストーカーやん……
「……気色悪ぅ」
「……?」
首をかしげるな、お前のことや
ずっと肘で押してるけど、全然離そうとせん。
「離して」
「……みーちゃん」
「離してて!」
「な、なんでや、どないしたんや」
「どないもこないもあるかい! 離せ! 気色悪いわ!」
すると、金田から突然笑顔が消えた。
「……仕置きじゃ」
腰に回した手に力が入る。
「何言うて」
「わしが躾たる」
「はぁ!? 頭沸いとんのか!?」
すごい力で引き寄せられて、踏ん張っても足がズズズと前に進む。
「は、離せ!」
ただ黙って、すごい力で引きずられる。
「いやや! 離せ!」
あかん、力じゃ敵わん!
「やめてや! いやや!」
旅館の入口が近づく。中の人が助けてくれるやろか……でももし、昭和の感覚で、男に逆らうな、とかいう人やったら? 金田の仲間だったら?
だいたいさっきから、何人か通り過ぎとるのに、誰も助けてくれん……ただのケンカやと思われたんやろか
……いやや
こんな、お父さんより歳上みたいなおっさんに……
「いややぁー! 誰か! 助けフガッ」
「黙っとれ!」
腰に回した手に更に力が入り、反対の手で口を塞がれた。
手で払うと、口を塞いでいた手を振りあげて、叩く素振りをする。
……ウソやろ
いやや! いやや! 誰か! ……
「警察呼びましょうか」
突然、冷静な男の人の声が聞こえた。
声の方をパッと見ると、若くて背の高い男の人が立ってる。
……あれ、この人
「なんじゃあ! おどれにゃ関係ないわぁ!」
「ですが、そちらの婦人、嫌がってますよ?」
「ひっこんどれ!」
……婦人?
まぁなんでもええわ!
「助けて! 警察呼んで!」
「わりゃ……黙っとれ!」
そう言って、また手を振りあげる。
私は思わず目を瞑る。
「は、離せ」
ん?
目を開けると、金田の手は、男の人が握っている。
金田は、だんだん顔が歪んでいき、私の腰に回していた手が緩む。
私はサッと離れて、男の人の後ろに回った。
「わ、わかった……わかったから、離せっ」
金田が痛そうな顔してるけど、全然手を離してもらえへん。え、もう良くない?
そう思っていたらその男の人が
「もう二度と、こちらの婦人に近づかないと、約束してくれますか?」
と言った。
わぁ、なるほど、ほんまや
金田を見ると、黙ってる。……オイッ
すると突然
「ぐぁぁぁぁ……やめっ、やめろ!」
と金田が叫ぶ。どした
金田が私を見る。見るな
「……み、みーちゃん」
は? まさか、私に助けを求めてんの? バカなの?
そう思っていたら、男の人が、私の方に向けて言う。
「君、ちゃんとはっきり言ったほうがいい」
君て
まあでも、確かに、そやな
「金田さん! 私はあなたのことを好きだと思ったことは一度もありません! 今後も一生ないわ! それとな、あんたの名前かて、忘れとったくらいやわ!」
「う、嘘や。誰かに邪魔されてるんか? わしが……」
「邪魔はあんたや!」
「そんなわけ……」
「ええ加減にしてや! 顔も見とおないわ!」
すると男の人は左手で私を制して、金田にグッと近づく。
「ぐぁぁぁぁぁ!」
なんか、金田の腕が、ぐにってなってる? 何それ、どないなってんの
腕が背中に回されている。
そしてその人は、金田の耳元に顔を近づけた。すると、ジタバタしていた金田の動きが止まり、男の人を驚いた顔で見た。そしてすぐ解放された。
チラッと私を見て、踵を返し逃げていった。
助かった……
お礼を言おうと思った瞬間、男の人は、突然しゃがみ込んだ。
え?
そして
「あぁ、怖かったぁー」
と言った。
何それ、あの喜劇の有名なコントやないんやから
「……あのぅ」
男の人は、ゆっくり顔を上げて私を見る。そして、恥ずかしそうに、微笑んだ。
「はは、逃げてくれて良かった、僕、喧嘩は苦手なんだ」
何これ! イケメンの照れ笑い! 僕て! ケンカ苦手て!
可愛いかよ!!
恐るべき金田の勘違い。その裏側もすでに執筆済ですが、この先の展開のネタバレが一部含まれるため、後日SS置き場に投稿します。
あぁ、早く金田のちょっとしたホラー話をみなさんと共有したいです!




