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S↔R ~令和女子、昭和に放り出される~ 「1970年」マジありえない文化なのに人情に泣ける。そして未来へ繋がる……  作者: 髙井菜是


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【62】心ここに在らず①

今日も早く目が覚める。ほんま健康的な毎日や。

おばちゃんは今日も朝から出汁をとってお味噌汁を作ってくれてる。

幸子は一番にご飯を食べて帰っていった。


典子ちゃんが会社に行き、弘子ちゃんもデパートへ出勤。

いつも通り、バイトの時間まで私は台所で過ごす。

そやけどいつもよりお互い口数が少ない。なんとなく、弘子ちゃんの話はしないようにしてる。


「……みうちゃんは、最近はアルバイトどない?」

「……うん……まぁ、楽しいよ」

「……そぉかぁ」

「……うん」

「……」

「……」


「あ、そうそう。私、明後日……土曜日は幸子んちに泊まりに行くわぁ」

昨日寝る前に、幸子と約束した。最近、茂はほとんど来ることがないらしい。


「そぉかぁ……幸子ちゃんは、最近どうなん。あの彼氏とはうまくいってんのやろか」

「……うん、どうやろ、私もようわからんわ」

「そぉかぁ……」

「……」

「……」


「私、今日はちょっと早よ出るわ」

「そぉなん?」

「うん……ほな、行ってくるわ」

「行ってらっしゃい。気をつけてなぁ」

「はーい」


別に何の用事もないけど、弘子ちゃんの話を避けてたら、関係ない話までしづらくなった。おばちゃんも多分そうなんやろ


外に出るけど、まだ一時間くらい時間がある。

……ちょっと早めにアベルに行ってもええんやろけど、今日は……そんな気分になれへん


目的もなくプラプラ商店街を歩くけど、ほんますることあらへん。


……はぁーあ、結局、セクハラの話まだ誰にもしてへん。どない考えたらええのかもわからんわ。

それに……令和の感覚で相談したとて、昭和の人たちには理解してもらえへんやろ


……ちょっと、きついわ


商店街を歩く人たちを見る。

ここにおる人らは、誰も私の気持ちなんて理解してくれへんのやろな

私は……この時代に突然紛れ込んだ異物みたいなもんや


はぁ……

仕事はな、仕事やしちゃんとやるわ

和夫さんも優しいし、フミさんかて、無理なら厨房に逃げてええ、て言うてくれた


そやけど……そういうことやなくて……

あー! もう、わからへん!


堂々巡りだわ、やることないわ、弘子ちゃんは親の決めた人生歩むわ……わけわからんわ


ひたすらウロウロ歩いて、10時になるギリギリでアベルに入った。


いつも通り……ただただいつも通りに仕事をこなす。

いつも通りに賄いをいただき、いつも通りにランチタイムをこなす。

そしたらもう終わりの時間や


和夫さんもフミさんも、いつも通り。何事もなかったかのように接してくれる。そして、

「今日もおおきに」

そう言ってお給料をくれる。

「おつかれさまでした」

いつも通りの挨拶。

「おつかれさん。また明日も頼むわな」

いつも通りの返し。


そして私はまた、俯いてアベルを出た。


とぼとぼと、歩いて帰る。

……また、下宿屋に帰って、そして部屋でゴロゴロして、堂々巡りするん?

もう、イヤや


友達もおらんし、スマホもない

価値観のわからん世界に、私、ひとりや

……帰りたい


帰りたいよ! 令和に帰りたい!


あそこ、スタート地点や、あそこに行けば、なんかわかる!?


私は、初めてここに来たときに居た空き地に向かう。

幸子のアパートを通り越して、あの空き地へ……


……着いた

けど

空き地はあのときと何も変わらない、ただの空き地で、アニメにあるような不思議な空間があるわけでも、ブラックホールみたいなやつもなく、机の引き出しも当然ない。


なぜかひとつだけ置いてあるベンチに腰かける。

……ふふ、ここで幸子とアイス食べたなぁ

幸子の人懐っこさに釣られて、すぐ仲良うなったなぁ。しかもおばあちゃんと同姓同名! 誕生日も一緒! ふふ。びっくりしたけど、おばあちゃんやなかった。それでも幸子のこと、なんか好きやねんなぁ……


ボーッと考え込んでたら、突然

「みーちゃん」

と声をかけられた。


びっくりして顔を上げると、めっちゃ笑顔の金田さんが目の前に立ってた。

「え! 金田さん! ……どうして」

なんでこんなとこにおるんやろ、て思ったけど、そうや、幸子が言うてた、この空き地、みんな抜け道に使ってる、て。


金田さんは、頭を小指のあの長い爪でポリポリかきながら、

「昨日は、すまんかったな」

と言った。


「……昨日?」

なんだっけ……


「ほら……忘れ物」

「あぁ……」


そないどうでもええこと、完璧に忘れとったわ

「はは、気にせんとってください」

「忙しかったんやろ? 堪忍な」

「はぁ」


金田さんはニコニコして言う。

「わしな、今日は早よ仕事終わらしてきたんや」

「はぁ」

……それがどないしたん


金田さんは周りを見渡す。

「……あぁ、ええな、近道や」


抜け道やもんな。向こうっかわは、茂の家があるらしいで


金田さんは、空き地の向こう側を指さして、めっちゃ笑顔で言った。

「あっちや。ええとこやでぇ」


……なにが?

私が首をかしげてると、金田さんは歩き出す。

かと思ったら振り向いて、

「ほら」

と言う。


へ?


また歩き出して振り返り、手招きする。

「ほら、早よう」


え、え? 何? 私も行くん?


「あぁ……心配せんでええから、な?」

そう言ってまた手招きする。


はぁ? なんなん……

ゆっくり立ち上がってついていく。


ずんずん歩く金田さんの後ろを、だいぶ離れて付いていく。並んで歩くなんてイヤやし


金田さんはたまに振り向き、笑顔で頷く。


なんやねん、どこ行くん


商店街と違い、地元の人しか歩かんような道。小さいビルや住宅や、小さい商店。わ、出た、角の煙草屋。ふふ。マンガや


ええとこて、なんやねん

てか、なんで私がこんなおっさんと歩かなあかんねん


しらーっと、消えようかな


そんなことを考えてたら、金田さんが立ち止まった。

そして振り向き、私を見て笑顔で手招きする。


あーも、しゃーない、なんなん

ダルいけど、金田さんのおるとこに、できるだけ離れて近づいた。


「ここや、みーちゃん。安心してええで」


ここ? 何? 普通にその辺にある二階建ての家……あれ? ちゃうな……あ、看板……


……旅館?


は? なんで旅館?


首をかしげてると、金田さんがススッと私に近づいた。

は!? 何!?


後ずさりすると、突然手首を掴まれた。


ヒッ


「みーちゃん、ええんやで。初めはな、みんな緊張するもんや」

「は、はぁ!? 何!?」


「あぁ、安心し。みーちゃんの気持ちはちゃーんとわかっとるがな」


何!? 何言ってんの!?



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