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S↔R ~令和女子、昭和に放り出される~ 「1970年」マジありえない文化なのに人情に泣ける。そして未来へ繋がる……  作者: 髙井菜是


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【60】わからへん①

下宿屋に戻り、自分の部屋の机の引き出しに、いつも通りお給料を入れる。


……フミさんたちが苦労して稼いだお金


私は頭をブンブンと振る

私かて、働いて稼いだんや。当然の対価や


……でも、私のせいで、常連さんが1人、二度と来んかもしれん


ちゃうわ、私のせいちゃう、あのセクハラおやじのせいや


……でも、別にいやらしいことしようとしたわけちゃうんや


いやいや、色気出せとか完璧にアウトや! 


……でも、そういう意味やない、てフミさんが


いや、どんな意味でも、言われた側がイヤならセクハラや!


……でも、昭和では、おかしいのは私の方かも


いやいや、同調圧力やんか。イヤなもんはイヤや


……でも、合わせへんと、ホールの仕事しづらくなるんちゃう?


いやや! せっかく楽しゅうやっとったのに! 


……でも


あかん、堂々巡りや

1人で考えててもどうにもならん。あぁ、典子ちゃん弘子ちゃん、早よ帰ってこんかなぁ。幸子もまだ仕事やし……


友達おらへん


おばちゃんに聞いてもらおうかなぁ。けどなぁ、おばちゃんは、そんくらいどないやねん! とか言いそうやもんなぁ。おばちゃんに否定されたら、キツいわ


……フミさん、ひとつも怒らんかったなぁ


畳にゴロンと寝転がる。


はぁ、なんしよ。弘子ちゃんは今日休みやろ? まだ帰ってこんのやろか。


することない〜


アベル行ってコーヒーでも飲む? 

いや、どんな顔して飲むねん


ゴロゴロしてたら下の方から、

「ただいまぁ」

と声が聞こえた。


弘子ちゃん帰ってきた!

部屋を出て下に降りると、台所から弘子ちゃんとおばちゃんの声が聞こえた。


台所を覗く。

「弘子ちゃん、おかえり」

「あ、みうちゃん。ただいま」


そうや、あれ聞かんと

「……払ってきたん?」


弘子ちゃんはめっちゃ笑顔で、

「うん! 行ってきたで! 緊張したわぁ」

と言った。


おぉ、眩しい

なんか、セクハラおやじの話とか、しづらいかも


「弘子ちゃん、あんたに手紙きとったでぇ」

そう言って、おばちゃんが弘子ちゃんに封筒を渡す。


弘子ちゃんは封筒の裏を見て、

「……実家からや。何やろ……ちょっと部屋行って読んでくるわぁ」

と言って台所を出ていった。


えー、なんなん……

仕方ないから台所のテーブルに着く。

この前もらったキャラメルを口に放り込む。

あまー、うまー


おばちゃんは晩御飯の仕込みをしてるみたい。お手伝いして時間潰そかな……別に観たいテレビもないし

「おばちゃん、私も何か手伝うわ」

「ほぉかぁ? ……じゃ、これお願いしよ」


おばちゃんがガサガサと何か出してきた。

「……なんこれ」

「枝豆や」

「枝豆!? 枝豆てこんな風になってるん!?」


なんか、木の枝から枝豆が生えてきてる。

冷凍のやつしか見たことないからびっくりや


「ここのな、根元のとこからハサミで切って、こっちのボウルに入れてな」

「はーい」


パチン、パチン、パチン、パチン、パチン、パチン、パチン、パチン、パチン……


地道すぎる……ほんま、令和は便利やと、しみじみ思う


「旬が終わる前になぁ、食べたかってん。それに、今日は弘子ちゃんの入学の前祝いや。ビールと枝豆で乾杯するでぇ」

「そっか、入学の前祝いか。ふふ」


パチン、パチン、パチン、パチン、パチン、パチン、パチン……

ふと、背後が気になった


振り返ると、弘子ちゃんが立ってる。

「わ! どないしたん!」


弘子ちゃんは、黙って立ってる。どうしたんやろう、とおばちゃんをチラッと見ると、おばちゃんも首をかしげてる。


「……弘子ちゃん?」


弘子ちゃんは、ゆっくり手に持っていた紙を差し出す。

「……さっきの手紙? え、読んでええの?」


弘子ちゃんは頷き、私はハサミをテーブルに置いて手紙を受け取る。

それをテーブルに広げると、おばちゃんも覗き込む。


字が……上手過ぎて逆に読みづら〜

えっと……

ん? どういう意味だ? 縁談? ……え?


「弘子ちゃん、縁談が決まった、て……あんた」

おばちゃんがびっくりして弘子ちゃんに聞く。

弘子ちゃんの方を見ると、沈んだ顔で俯いてる。


「えと、ごめん。よくわからへんのやけど、弘子ちゃんは、付き合ってる人が地元におるってこと?」

遠距離恋愛かな?


弘子ちゃんは顔を上げて首を横に振る。

「そんなんおらん。親が……勝手に決めたんや!」

「は!? なんで?」

「なんで、て……」

「……政略結婚的な?」

「? あぁ、そんなんとちゃう」


なに? どういうこと?


「……この、お相手さんの家が、結構大きな地主さんで……何でうちなのか、わからへんけど親がえらい喜んどるみたいや」

「……待って待って、それって、玉の輿ってこと?」

「……そうなるな」

「すごいやん」

「……」


いや待てよ

「ひ、弘子ちゃん、仕事は? 学校は?」

「……仕事やめてすぐ帰ってこい、て書いてあるわ」


やっぱり!

「いやいや、弘子ちゃん、夢は!? 学校行くって家の人も知ってんのやろ!?」

「……言うてへんねん」

「へ!?」

「……親に、迷惑かけられんし、自分だけの力でやりたかってん」

「……言うてみたら? 学校行くって、知らへんから結婚の話がきたんやないの?」

「……もう、決まった、て書いてあるわ」

「いやいや! おかしいやん! 本人にいっこも聞かんと勝手に決めるやなんて! せめてお見合いやろ、決まったて、どういうことなん!」


弘子ちゃんはテーブルに置いてある手紙を取って折り畳み、椅子に腰掛ける。

そして俯きポソッと、

「……決まったんやて」

と言った。


い、意味わからん……


弘子ちゃんは、テーブルに置いてある枝豆とハサミを取って、パチン、パチン、と切り始めた。

「今日の晩御飯、枝豆なん? 珍しいな」


おばちゃんが遠慮がちに答える。

「今日はなぁ、弘子ちゃんの入学の前祝いに乾杯しようかと思ったんや……」


すると弘子ちゃんは、ふふっと笑って、

「結婚の前祝いになったな」

と言う。


いやいやいやいや、おかしいやん!

「なんで!? 学校行くんやろ!? 入学金、今日払ってきたんやろ!?」

「そやなぁ、あと一日早く手紙が来てたらなぁ。もうお金は戻ってこんなぁ」

「そういうことちゃうやん! ……弘子ちゃんは、それでええの? あっさり、夢諦めるん!?」


弘子ちゃんの手が、ピタッと止まる。

「……しゃあないやん。親が、もう決めたんや」

「おかしいわ! なんで親が勝手に子どもの人生決めるんや!」

「なんで、て……」

「昭和やから? 昭和は、子どもの気持ちなんて無視するん?」

「ちゃ、ちゃうよ! 親は、私の幸せを考えて……」

「弘子ちゃんの幸せを決めるんは、弘子ちゃんや!」

「……」


おばちゃんが、私の肩を優しくポンポン、とする。

「みうちゃん、落ち着き」


私、どないしたんや、なんやえらい腹が立って……

「ごめん、弘子ちゃん……そやけど、そないすぐに諦めんと、一回話してみたら? 夢の話、してへんのやろ?」


弘子ちゃんは、手紙に視線を移し、ジッと考えて、

「……そやな」

そう言って、手紙を持って立ち上がる。


「うち、ちょっと電話してくるわ」


そうや、いくらなんでも横暴や


弘子ちゃんは台所を出て、電話の方に向かった。



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