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S↔R ~令和女子、昭和に放り出される~ 「1970年」マジありえない文化なのに人情に泣ける。そして未来へ繋がる……  作者: 髙井菜是


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【58】あれれ?①

お客さんから呼ばれたら、行かんわけにいかん。

「……はい」

セクおじから少し離れた所で止まる。

するとそいつは、

「姉ちゃんなぁ、もっと色気出さなあかんでぇ」


……は?


あまりのことに、言葉が出てこん

黙っていると、そいつが手をスッと伸ばしてきた。

びっくりして体を避けると、

「……なんや、わしゃバイ菌か」

と、低い声で言う。


……怖い!

何も答えられへん


「ほんま、色気も素っ気もない……」


「……」

……色気って、なに言うてんの、きしょいわ!


「なんとか言うてみい!」


「……仕事ですので色気とか、無理です」


「なんやと……」


「……」

ほんま、なんなん!? 無理に決まっとるやろ! ヤバいて!


「そないな……」


カランカラン……

バッと見ると、和夫さんが入ってきた。

助けて!!


和夫さんは、一旦カウンターを見て、それから私たちに気づき、一瞬首をかしげてからこちらに向かってくる。


するとセクおじは、テーブルにお金をバーン! と置く。


席を立ち、こちらに向かってくる和夫さんとすれ違いざまに、

「ほんま可愛げのない! 二度と来るかぁ! ボケェ!」


そう言って店を出て行った。


……わけわからん


和夫さんは首をかしげてるし、他のお客さんはめっちゃ見てるし


え……私、悪くないよね

めっちゃ腹立つし怖かったけど、仕事や仕事


セクおじのカップや灰皿を持ってカウンターに戻る。

フミさんが厨房から顔を出してる。

「なんなん? どないしたん?」


えっと、なんて言えばええの

「んー、よくわかりません」


金田さんのグラスと灰皿も下げて、カウンターの中で洗い物をする。

さっきまで見ていたお客さんたちは、みんなおひとり様で、おっさんたちは新聞や本に目線を戻し、若い男性も持ってた本に視線を戻す。


和夫さんがカウンターに入ってくる。

「どないしたんや」


うーん……

「なんか……色気がないとか言うて、触ろうとしてきたんで、避けました」

「……触ろうとした!?」

「ほんま、気色悪いです。しかも逆ギレ。わけわからん」

「ぎゃ……逆?」

あ、

「えっと、自分が悪いくせに、怒り出して……」

「……大丈夫やったんか?」


「ちょうど和夫さんが戻ってきてくれて良かった! えらい早かったですね。まだ近くにいてはったんですか? 金田さん」

「あぁ……なんや店に戻ってきてたんか、すぐ渡せたわ」

「そら良かったわ」


片付けを始めると、和夫さんがぼそっと呟いた。

「……中山さん、そないな人やったかいな」


ん? 中山さん?

「さっきの怒って帰った人?」

「ああ。……確かにアルバイトの人に触ったりすることはあったけどな」

「……ダメやないですか」

「あ……まぁ、そやな……そやけど、避けられたくらいで、あないに怒る人やないけどな……どないしたんや」


セクハラおやじの考えることなんて、わからへんわ

「機嫌が悪かったとか? あとやっぱり、私が逆らったのが気にくわんかったとか」

「逆らった? ……あぁ、避けたからか?」

「避けたし、なんか言えって言われたから、色気とか無理です、て」

和夫さんが更に首をかしげる。


どうせあれや。昭和って、男尊女卑やん。女は全部言うこと聞け! て思てんのやろな。ほんま腹立つわ。

……和夫さんはちゃうやろけど、これは昭和の人には理解できんやろから言わんとこ


フミさんは後ろで、黙って私たちの会話を聞いてる。

同じ女として、わかってくれはるやろ


ランチタイムも落ち着いてきて、あと10分くらいでバイトが終わるな、と思っていたら、フミさんが厨房から出てきた。

「みうちゃん、ちょっとええか」

ん? お手伝いかな?

「はい」

「和夫、ちょっと頼むで」

「……ああ」


フミさんの後について厨房に入ると、フミさんがくるっと振り向いて私を見た。


「さっきの話、もう一回聞かせてくれるか?」

「さっきの? あ、中山さんの?」

フミさんが頷く。

「えっと、呼ばれたから席の方に行ったら、突然、姉ちゃんはもっと色気を出せ、て」

「それであんたは何て答えたん」

「いや、もう、びっくりして言葉出んかったわ」

マジでドン引きや


「それで?」

「そしたら急に触ろうとしてきたんです!」

「……」

「そやから私、サッと避けたんです。そしたら、ワシはバイ菌か? て」

「……それで?」


「えっと〜、どう返せばええか、もう、怖くて……そしたら、何か言え! みたいなこと言われたから……仕事です、色気とか無理です、て答えました」

「……それで?」


「そしたら逆ギレ……あ、えっと、なんでか怒り出して……そのとき和夫さんがちょうど、お客さんの忘れ物を届けて店に戻ってきて、それに気づいたんですかね、急にお金をテーブルに叩きつけるようにして、捨て台詞で、二度とくるかぁ! て言って帰っていきました」


「……」

フミさんは、顎に手を当てて考えてる。

腹立つよね。ほんと、イヤなおっさん


「あの人、前も幸子のお尻触ったりして、気持ち悪いわ! 絶対近づきとうない」


「……近づきとうない、て……どうやって接客してたん」

「え……その……できるだけ離れたとこから……」


「バイ菌みたいにか」

「そ、そりゃそうですよ! 痴漢ですよ! 汚らしい!」

「……嫌な顔して、接客してたんか」


「……そ、そりゃ……だって……イヤやないですか」

なんなん!? フミさんは痴漢の味方なん!?



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