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S↔R ~令和女子、昭和に放り出される~ 「1970年」マジありえない文化なのに人情に泣ける。そして未来へ繋がる……  作者: 髙井菜是


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【56】レッツゴーやで

途中までやって、銭湯と晩御飯を済ませて、残りは寝る前に仕上げる。


できたできたー!

白い紙に、黒一色やけど、ま、ええやろ

ラミネートがあれば完璧やのに……しゃあない


電気を消して、寝よ〜


翌日。

いつも通りの朝、いつも通りの出勤。

だけど私はすごい達成感で向かう。


「おはようございます」

「おはよう」


私は急いでエプロンを着けて、完成品を持って、カウンターにいる和夫さんのところへ行く。

「できました」

ジャジャーン、と見せる。

和夫さんは受け取りながら、真剣な目で厚紙を見る。

そして一言。

「……すごいな」


へへー。別にそんな大層なことしてへんで

「大したことやないですよ」

「いや、大したもんや。一気にこの店の格が上がったみたいや」

「大袈裟です」

「いや、ほんまほんま」


めっちゃ笑顔で喜んでくれてるー! うふふー! 嬉しい


さあ、外国人、来い! 和夫さんがどうするんか、早よ見たいわ

万博終わるまであと……今日入れて13日や


今日も昨日ぐらいの忙しさで、ランチタイム前に賄いを済ませる。

ぼちぼちお客さんが増え始めて、常連さんも来る。あ、吉村さんや


和夫さんは、吉村さんにコーヒーを出してすぐ

「吉村さん、見てください」

と言った。

え、まさか

和夫さんは、私が作った英語のメニュー表を、ドヤ顔で吉村さんに見せた。

「これ、みーちゃんが作ったんです」

すると吉村さんはメニューと私を交互に見て、

「はぁー! 大したもんや! この間も外人と喋りよったよなぁ。あんた頭ええんやなぁ!」


やめてー

「いや、そんな大したもんとちゃいます」

吉村さんの大きい声に、他のお客さんもこっちをチラチラ見てる。


「いや、大したもんやで。和夫、お前こりゃ金の卵やで。ええ子雇ったなぁ!」

「そうでしょう」

和夫さん……恥ずかしいから


私が作ったメニュー表は、ほんまにただ書きなぐっただけレベル。

『I don’t speak English』

『Please point』

から始まり、あとはメニューを単語で書いて、横に小さく日本語を入れている。ただそれだけ。


しかも、『don’t』と『can't』の違いが、調べてもようわからへんかった。ニュアンスが通じればいいかな、程度や。

『point』も、指さす、がこれやったけど、使い方が合ってるかもわからん。指さしてね、お願い、みたいな?


うぅ、スマホがあれば一発やのに……あ、スマホがあれば翻訳機能が使えるわ。ほんま、不便や


ま、やってみてダメやったらしゃあないわ。その時は堪忍やで、和夫さん


今日もお昼は結構忙しかった。そやけど14時で上がれるくらいには落ち着いた。

「みうちゃん、上がってええで」

ちぇー、外国人来なかったなぁ

「はーい」


カランカラン……

「いらっしゃ……」


キターーー!!! 外国人や!

和夫さんをバッと見ると、固まってる。

わはー! どうすんねやろ


私は黙って見ていた。

外国人の2人は、なんやペラペラ喋りながら空いてる席に向かい、こっちを見て、ここ座るで、みたいなジェスチャーをして席に着いた。


和夫さんのほうに視線を戻す。

わ、びっくりした、めっちゃ見てるやん


「……すまん、みうちゃん、もうちょっとおってくれるか?」


ですよね

「はい。いいですよ。だけど今日は、和夫さんがお冷やを持っていってください。あのメニュー表も一緒に」


和夫さんの顔が強張る。

「あのメニュー表が通用するか、実験です。私がおらへんと思って」

私は淡々と、お冷やを注ぎながら言う。

和夫さんは、一瞬だけ考えて、小さく深呼吸する。

「……そやな。行ってくるわ」

「レッツゴーやで」

「ああ」


あ、それはわかるんや

頑張れー


和夫さんが気合いを入れて向かう。

私は心配して見とく。吉村さんはもう帰っちゃったからなぁ、この瞬間を見逃したね、残念


和夫さんがお冷やとおしぼりを出しているときから、外国人の2人は和夫さんにペラペラ話しかけてる。


お、メニュー表を見せてるぞ。

……そうそう、まずは一番上を指さして

あぁ、外国人が、メニューを見ながら顎に手を当てて考えてる。


お! 指したぞ! うんうん! 2人とも指さしてる!


和夫さんが指されたところを指さして、確認してる。

日本語で喋ってるんやろなぁ。ふふ


伝票に書いて……ペコッと頭を下げてこちらに戻ってくる。


カウンターに入るなり、ため息をつく。

「……おかえりなさい。大丈夫でした?」

「……ああ。すごいな、これ」

「良かった。それじゃあ私はもういいですね」

和夫さんはバッと私を見る。目ヂカラよ


「……いや、すまんけど、外人が帰るまでおってくれるか?」

「……外国人です。いいですよ」

「はぁ……助かる」


外国人の2人はドリンクだけの注文やったから、30分ほどで帰っていった。


お会計は、前に教えた通り、メモ紙に¥マークと金額を書いて、それを見せて、スムーズにやり取りしてた。


どっと疲れたような顔で俯いてカウンターに戻ってくる和夫さん。

私は小さく拍手をして迎える。

「おつかれさんです」

「……いや、ほんま疲れたわ」

「ふふっ」

和夫さんがふっと顔を上げて言った。

「ほんま、おおきに」

疲れたような、ホッとしたような、優しい顔。

「へ、へへ」


な、なんだよー。なんか、照れるわ


お給料をいただいて、アベルを出る。


なんや心がぽかぽかするわぁ

お役に立てたからやね。へへ


今日もニコニコで下宿屋へ帰った。



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