【54】後輩
さて今日は土曜日だ。16時までバイトだよ。
「行ってきまーす」
昨日書いたメモ紙を持ってアベルに向かう。
話す時間あるといいけど……
もー、目まぐるしい忙しさ!
お店に入るなり、ほぼ満席状態やった。
私がこっちにきて、一番の忙しさやない!?
14時過ぎにやっと少し時間ができて、賄いをいただく。お腹すいたー!
時間ができたと言ってもお客さんはまだいる。和夫さんが心配して、とにかく休憩するように言ってくれた。
「みうちゃん、すまんな。お腹すいたやろ」
そう言いながら賄いを出してくれる。
「あー、へへ、大丈夫ですよ」
急いで食べな。和夫さんたちかて、何も食べてへんのやし
サッと済ませてお皿を厨房へ持っていく。すると、フミさんが立ったままご飯を食べていた。
「……そこ、置いとってええで」
モグモグしながらそう言われたけど、洗い終わった食器が山積みになってる。
「あの……お皿拭きます」
「ええから。もう少し休憩してから和夫と交代したり」
「……はい」
カウンターに戻ると、和夫さんが
「もうええのか? もう少し休憩しとってええで」
と言う。
ほんま2人とも優しいわ……
「あの、ほんま大丈夫なんで、和夫さんも何か食べてください」
「……すまんな、少し頼むわ」
「はーい」
厨房へ下がる和夫さんを横目にカウンター内を見ると、洗い物は終わっていて、あとは拭きあげるだけになっている。客席を見回しながらグラスを拭く。
……休憩もほとんど取らずに働くやなんて、令和じゃ考えられへんけど、何故か全く苦にならへん。時給の計算もどうなってんのかよくわからへんのに、それも気にならへんわ。……なんでやろ
カランカラン……
「いらっしゃいませー」
あぁ! 正志や!
愛想のない顔でカウンターへ向かってくる。
……お客さんやからな、え、笑顔や
無理矢理口元だけ笑うようにしながら、カウンターに座った正志にお冷やとおしぼりを出す。
「コーヒー」
ほんま愛想ないわ
「……はい」
和夫さんが多めに淹れてくれてたコーヒーポットから、カップに注いで正志に出す。
「どうぞ」
「……」
無言ですか、ハイハイ
カウンター内で作業を再開すると、正志が話しかけてきた。
「……和夫さんは?」
「……休憩中や」
「……」
なんやねん
「みう! お前昨日、お母さんと会ったんやろ」
……は?
「みうさん、やろ。私のほうが年上やで」
すると正志は得意げにふんぞり返って笑顔で言った。
「お前まだ生まれてへんやん! 俺のほうが年上や!」
……ほう
「しょーもな、子どもか」
「な!」
正志は驚いて、悔しそうに黙った。
そうそう、黙っとき。顔だけは静子さんに似てめちゃくちゃイケメンなんやから
はい、仕事仕事
あれこれ作業してたら、和夫さんが厨房からカウンターに戻ってきた。
「すまんかったな、みうちゃん……正志、来てたんか」
「こんにちは!」
へぇ。和夫さんには挨拶するんかい
まぁええわ、無視無視
カランカラン……
「いらっしゃい」
「いらっしゃいませー」
「こんにちは」
真面目そーな男の人が、和夫さんに挨拶する。……また後輩やろな
1人で2人掛けのテーブルに座る。
お冷やとおしぼりを持って行くと、礼儀正しく注文してくれる。
「コーヒーをお願いします」
「はい。お待ちください」
いいね、感じええわ
さすが和夫さんの後輩さんや
カウンターに戻るとすでに和夫さんがコーヒーを準備していた。手際ええわ
真面目さんにコーヒー持って行くと、なんか本を読んでる。優等生さんやな
「お待たせしました」
優等生さんは顔を上げて、
「おおきに」
と言ってくれた。
そうそう、これだよ、正志。見習え
正志は、チラチラ私の方を見てくる。なんか、かまって欲しいんかな。
無視無視〜
仕事忙しいんやから。あ、オレンジジュースきらしそう。棚の下の方を覗いて取ろうとしてると、またお客さんが入ってきた。
カランカラン……
ほんま今日は忙しいな
「いらっしゃい」
しゃがんだまま声だけ出す
「いらっしゃいませー」
「こんにちは」「こんにちは」
また後輩さんか
顔を上げると2人は4人掛けテーブルに向かっている……後ろのほうの男の人……
茂や!!
うわぁ……どないしよ
……仕事や、しゃーない
お冷やを入れながら和夫さんにこそっと聞く。
「……あの2人も後輩ですか?」
「そや」
「……あの人、幸子の……」
「……あぁ、茂やろ」
知ってるんや
お冷やとおしぼりをお盆に乗せて、茂の席に持っていく。普通に、普通に……
「なんや、ヒロシ。お前こんなとこでも勉強か。優等生はやっぱちゃうなぁ」
茂が、さっき来てた優等生さんに声をかけている。
……そこも知り合いなんや。それにしても……なんか感じ悪くない?
ヒロシと呼ばれた優等生さんは、なんか……居心地悪そうな感じで目を逸らしてる。
あ!
茂が、笑いながらヒロシさんの頭を軽くはたいた。
どないしよ!
私はお盆を持ったまま、一瞬固まってしまった。
振り返って和夫さんを見たけど、何かしてて気づいてない。
茂たちの方を見ると、ヒロシさんのすぐ近くの席に座ろうとしてる。
私は思わず動いていた。
「あの、お客さま!」
茂たちに向かって声をかけた。
2人はこちらを見て、茂は私に気づいて目を見開いた。
「すみません、その席は予約席です。あちらの席にお願いします」
うわー! 嘘ついてしもた! いけるか? ええーい、もういくしかないわ!
たまたま4人掛けテーブルがあとひとつ空いてて良かったわぁ!
少し離れた席に案内する。
茂は目が泳いでる。そらそうよ、私はあんたがやったこと全部知ってるで!
後ろめたいからか、素直に従ってくれた。
お冷やとおしぼりを出すと、小さい声で、
「コーヒー2つ」
と言った。
声ちっさ!!
て言いたくなったけど、我慢。
「はい。お待ちください」
カウンターの方に戻りながら、チラッとヒロシさんを見たら、私と茂のやり取りをずっと見ていたのか、私に、軽く頭を下げてくれた。
いえいえ、どういたしまして
カウンター内に入って「コーヒー2つ」と言いつつ、すぐチクる。
和夫さんの袖をちょいちょいと引っ張り、小さい声で
「茂さんが、ヒロシさんにちょっかい出しよったんで、ヒロシさんの近くの席は予約席です、て、嘘ついて、席を離してます」
すると和夫さんはため息をついて、
「あいつは……まだそんなことしとんのか」
と呟いた。
コーヒー2つを持っていこうとすると、和夫さんが
「わしが持っていくわ」
と言って茂の席へ持って行ってくれた。
何か言うてくれるんかな、と気にして見てると、和夫さんがコーヒーを置いて、すぐに、茂ともう1人は、和夫さんにペコペコ頭を下げてる。
えー、何て言ったんやろ。ふふふ
ニヤニヤしてると、正志が
「なに笑ろてんねん」
と言うてきたけど、あぁ、忙し、子どもの相手なんかしてられんわ。無視無視〜仕事仕事〜
正志を無視して仕事をする。
ふと、気づいた……
茂は、なにやってんねん。忙しいんとちゃうん? 今日幸子は半ドンやねんから、喫茶店なんか来てるヒマあんなら、会いに行けよ!
茂の方を見ると、友達と喋りながら煙草を吸ってる。
……さすがに、言えへんわ
睨みつけて、念だけ送っとこ
正志が帰り、茂が帰り、ヒロシさんも帰ったころにはもう16時を過ぎてた。
茂は私とは目を合わさんようにしてた。
他にもまだお客さんがいる。片付けてたら、16時半になって、和夫さんから上がってええで、と言われた。
「遅なってすまんな」
「忙しいときはしゃーないですよ」
「今のうちに帰っとかんと、また忙しくなりそうや」
え、そうなん?
「……それやったら、まだおったほうがええんとちゃいます?」
「……おおきに。そやけどあかん。ここら、夜は酔っ払いがウロウロしよるからな。明るいうちに帰り」
お、それは嫌やな
「わかりました」
お店は朝7時半から18時半までやけど、その後明日の仕込みをしてるらしい。
今日もフミさんから、封筒に入ったお給料をいただく。
「おつかれさまでしたー」
「おおきに。また明日も頼むわな」
「はい」
頭を下げて、アベルを出る。
ふぅ。今日はほんま忙しかったわぁ
あぁ! あの話できんかった……
また明日やな……日曜日か
うわぁ、また忙しそ




