【52】変人
座敷を覗く。
「失礼しまぁす」
ニコニコした、綺麗なおばさまが座ってる。誰?
「あんたがみうちゃんかぁ」
「は、はぁ」
「いやぁ。可愛ええなぁ」
おばちゃんの方をチラッと見ると、めっちゃニコニコしてる。え、何?
「静子ちゃんやで」
私は、バッとおばさまを見る。
「しっ、静子ちゃん!?」
静子さんは、「あはははは!」と大笑いして、
「そや、うちが静子ちゃんや」
と言った。
あの、おばちゃんの壮絶な人生の中にいた、静子ちゃん……
幸子の、育ての親の……
「みうちゃん、口開いてるで」
私はハッとして、かしこまる。
「……初めまして、みうです」
「ふふ、そないかしこまらんと。座り」
「あ、はい」
えー、どうしよう、なんか……色々知りすぎて、気まずい……
「静子ちゃんなぁ、ちょくちょく遊びに来てくれてるんやで。そやけど会うの初めてやなぁ?」
「和夫くんとこで働いてるんやて?」
「あ、はい」
「未来から来て」
「はい。……え?」
静子さんは普通の顔してる。おばちゃんを見たら、
「正志くんから聞いてたみたいやで」
と……
正志……アイツほんま……
「……うちの家系なぁ、たまにおんねん。なんや不思議な力というんかなぁ……昔ひぃおばあちゃんから聞いたことあんねんけどなぁ、大昔は巫女とかでな、その当時の政治家みたいな人らが占ってもらうような……ご先祖さまが、そういう力のある人やったらしいんや」
「はぁ、そんなことあるんですねぇ」
「だいたい女がそうやと聞いてたからなぁ。正志は特殊なんやろなぁ」
「はぁ」
「あ、うちは全然あれへんで? ……澄子が、あったなぁ」
「……幸子のお母さんですよね?」
「そや」
「澄子さんは、どんな力があったんですか?」
「……」
あ、聞いちゃあかんやつ?
「……そんなな? すごい力ってわけやないんや、なんとなく、普通と違う程度や。そういう家系で育ってきたからな、みうちゃんも……」
私?
「……そう、その、未来から来た? とかな、そんなんも、聞いてもおかしいとか思わへんで」
「私のうちは、平凡な家系なんですけどね」
「静子ちゃんがそういう家系やなんて、うち今まで聞いたことなかったで」
「まぁな、うちにそないな力もなかったし、ずっと生きるのに必死やったしなぁ」
「ほんまなぁ、必死やったなぁ」
おばちゃんと静子さんは遠い目をしてる。
なんか色々と思い出してるんやろなぁ
静子さんが、私を見る。
な、なんやろ
「みうちゃんは、今何歳?」
「22歳です」
「お母さんは?」
「……お母さん!?」
「うん」
「えっと、51歳です」
「そう、名前は?」
「香織です……」
な、なに? なんでお母さん? 興味ある? これ
「香織……そぉかぁ……長子?」
「ちょう……あ、2番目? です」
「一番上は? 何歳?」
「……えっと……2個上やから、53?」
「……ということは……あと3年後?」
「はぁ……」
これ、なんなん? それ聞いてどないするん?
静子さんが突然頭を抱える。
なに!? どした!?
「……ちゃうわ、男の可能性もあるんや……」
なにが?
静子さんはパッと私を見て聞く。
「みうちゃんのおばあちゃんは、何人子ども産むん? 男? 女?」
どんな質問!?
「……女3人です。あ、お父さんの方のおばあちゃんは、男2人と女1人です」
「あー! そっか、そっちの可能性も……」
いや、なんなん、何か怖いわ
私が引いてるのに気づいたのか、静子さんの目が泳ぐ。
「ご、ごめんなぁ、変な質問ばっかりして……最後にひとつだけ、ええ?」
「……はぁ」
「……香織さんのお母さんの名前は?」
「……幸子です」
すると突然、静子さんは顔を両手で覆った。
いや、マジで何? これ、何の儀式?
おばちゃんの方を見ても、首をかしげてるだけやし……
静子さんてなんか……ヤバい人?
静子さんは、ゆっくりと顔を上げた。
「おおきに、みうちゃん。いやな、未来の人たちは何人子ども産むんやろなぁ、て興味あってな」
「はぁ……」
そんなことに興味あるん?
「私はようわからへんけど、なんか、ベビーブームってのがあるみたいですよ」
「ベビーブーム? それ、幸子の世代やわ」
「あ〜、そっか、そうや、確かお母さんのお姉ちゃんの時が、第二次ベビーブームって言ってたわ」
「第二次? ……そぉかぁ……ええなぁ、赤ちゃんがたくさん……ええなぁ」
「ほんま、未来は明るいなぁ」
……令和は少子化問題ってのがあってね、とか言えない、絶対
「名前もな? ほら、時代の流行もあるんやろな、みうちゃんっていう名前も今じゃ聞かんもんなぁ……香織ちゃん、幸子ちゃんはな? まだわかるけどな。ほら、うちの子も、幸子やろ?」
「そうですね。同じ名前ですね。私の世代には、キラキラネームってのがあって、多分びっくりしますよ」
「キラキラ?」
「そう、あと、しわしわネームとか」
「しわしわ? なんや悪口みたいやな」
「私は結構好きですよ。レトロでカッコイイです」
「レトロ?」
「ふふ。今現在、レトロだらけです」
「なんや、全然ついていかれへんわ」
んー、そろそろ……
「あの……私は部屋に戻ります」
「え! もう行ってしまうん!?」
え、別に私いらんやん
「……もう少し、ええやろ?」
なんで?
「はぁ……」
立ちかけてたけど、座り直す。
何も話すことないよー
「……そういえば、最近幸子はどない? たまに会いに行ってんねやろ?」
……幸子
そうやった、静子さんが一番の問題や、て……
まだ話してないんかぁー! どないしよ
「はい、たまにですね。元気ですよ」
私、今、普通の顔してる? 大丈夫?
「そうかぁ。たまには家に帰ってくるように言っといてくれるかぁ?」
「はい、必ず伝えます」
早く言わないと、幸子! ……今日、行ってみるか
「……あの、じゃあ私は……」
もう用事ないやろ、今度こそ……
立ち上がろうとしたら、静子さんも立ち上がろうとする。
な、なになに。ほんま、変な人や
立ち上がって、ペコッとすると、静子さんが手を差し出してきた。
……なに? 握手?
よくわからんけど、握手を求められてる感じ……
首をかしげながら私も手を差し出して、ようわからんけど握手する。
静子さんは私の手を両手で握り、すごい笑顔で私を見てる。
ね、熱烈すぎん? ようわからへんけど、熱い人なんやろな
手を握ったまま静子さんが言う。
「みうちゃん……頑張り。……未来に戻れるとええな」
「あ、はい」
……手、離して
「なんか……困ったことあったら、いつでも言ってな?」
「はい……」
「……引き止めてしもて、堪忍、また話そうな?」
「はい……」
やっと手を離してくれた……私はまたペコッとして部屋を出た。
変わった人やなぁ……
その後、私はやることもないし、台所で紅茶を入れて、この前もらったクッキーを食べる。
……やること、なさすぎる
幸子の仕事が終わるまで、まだあと2時間以上あるわ
……本屋さんにでも行って、立ち読みしとこ
私はバッグを部屋に取りに行って下に降り、離れた所から座敷にいるおばちゃんに声をかける。また捕まったらめんどくさい。
「おばちゃーん、出かけてくるわぁ」
座敷からおばちゃんの大きい声
「はいよー。気ぃつけてなぁー」




