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S↔R ~令和女子、昭和に放り出される~ 「1970年」マジありえない文化なのに人情に泣ける。そして未来へ繋がる……  作者: 髙井菜是


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【40】下宿屋のおばちゃん⑥/⑭

夜中に警報が鳴った


うちは飛び起きた。急いで準備せんと!

「……あかん! 寝間着や! ……着替えるひまないわ!」

オロオロしていると義雄さんが部屋に入ってきた。

「何しとるんや、千代子!」

「義雄さん……」

「上着や! 上着羽織って急いで出るで!」

慌てて寝間着に上着を羽織る。

「早よ!」


みんなでバタバタと準備して、外に飛び出す

義雄さんの指導でみんなで防空壕へ避難したが、ここらでは被害はなかった。

警報は解除されて、家に戻る。

……とうとう大阪へも空襲がきたんや


ほんまに、きたんや


朝起きて、4人で静かに食事を終え、話をする。

「空襲は、いつどこで起こるかわからん。寝ているときに起こることもある。いつでも避難できるように、寝間着はやめるように言うてたやろ」


そう、うちら3人とも初めのうちは言うこと聞いて、いつでも外に出られるような格好で寝るようにしてた。そやけどそのうちまた寝間着を着るようになった。


せっちゃんが遠慮がちに言う

「あの……工場の人が言うてたんですけど、下宿屋には防空壕を掘らんのですか? 何人か、自宅に掘っとるらしいです」


「わしも検討したんやけどな、実際見てみたら……あの程度じゃどうにもならんと思ったわ」


そうなん? でも……

「とりあえず身を隠すくらいはできるんちゃう?」


「身を隠しているうちに逃げ遅れるくらいなら、最初から頑丈な防空壕へ走ったほうがええ」

「なるほどなぁ」


「一番近いとこは木を多く使ってたからな、火がついたら使いもんにならんかもしれん。状況によっては、少し離れた頑丈なとこまで逃げなあかん。火が一番やっかいや」


状況によって……そんなんわからへんわ

うちとせっちゃんとトキちゃんは顔を見合わせる


……もし義雄さんがおらんときに空襲がきたら……

想像するだけで怖くてたまらない


毎日の生活をしながら、防火用水の確認、防空頭巾の確認、みんながバラバラで逃げたときの集合場所などを、何度も確認する。


ああ、空襲がこちらに来ませんように……


初の空襲が大阪にきてから2日後の夜、すでにみんな床に就いていた時間に、突然

ガンガンガンガンガン!


玄関を叩く大きな音にびっくりして飛び起きる。玄関へ向かうと、義雄さんも部屋から出てきていた。


「こないな時間に、なんなん?」

そう聞くと、義雄さんはうちの肩を抱き、一緒に玄関へ向かった。


義雄さんが玄関を開けると、そこには男性が立っていた。

「石田義雄さんのお宅ですか」

「はい。わしが石田義雄です」

「招集令状です。おめでとうございます」

「……ありがとうございます」


……招集、令状?

義雄さんが淡々と封筒を受け取っている。それを渡した男はハンコをもらうとすぐに踵を返して去っていった。


義雄さんは封筒の中身を出して広げる


……赤紙や


義雄さんの顔を見ると、無表情で赤紙を見つめている。

何事かと2階から降りてきたせっちゃんとトキちゃんは、2人寄り添い、お互いの腕を組んで心配そうにこちらを見ている。


あ……赤紙が、来たんや。これは……名誉なことなんや……

「……おめでとうございます、義雄さん」

「……ああ」


せっちゃんとトキちゃんは、小さな声で「おめでとうございます」と言って急いで2階へ上がっていった。


うちは、なんや立ってる感覚がなくて……義雄さんが肩を抱いてくれてなかったら倒れてたかもしれん


……義雄さんが、出征する

言葉が出てこん、頭が真っ白で、何も考えられへん……


「千代子」

「……はい」

義雄さんがうちを見つめて、ぐっと引き寄せた。


「千代子、しっかりしいや」

「……はい」


義雄さんは、体を離してまた見つめる

「12月27日に、入営や。その日の朝には出立する」

27日……27日?

「え……え、そないにすぐ!?」

「……そやな」


あと何日!? ……6日後には、行ってしまう

いやや!

……あかん、これは、名誉なことなんや

……いやや……あかん……


「……子、千代子!」

義雄さんがうちの肩を揺さぶる

「は! はい……」

「千代子、しっかりするんや。いずれ招集されることはわかってたことや。短い期間で準備せなあかん。今日はもう寝るんや。明日から忙しなるで」


「は、はい」

義雄さんに促されて、うちは自分の部屋に行き布団に入る。

何を考えればいいのかわからなくて何度も寝返りを打ち、いつの間にか眠りに落ちていた

……義雄さんが何を思っているかなんて想像することもなく


翌朝、静かな食卓。

せっちゃんもトキちゃんも、俯いてご飯を食べている。

「ほな、わしはやることが色々あるでな。千代子はわしの身の回りのもん揃える段取りしといてな」


そう言って、義雄は出かけていった。


身の回りのもん……そうや、うちがしっかり準備せな

「……あ!」

せっちゃんとトキちゃんがびっくりしてこっちを見る


「千人針……まだあるやろうか……」

2人が首をかしげている

「あ。あんな? 急な招集のときは千人針作るのが間に合わへんやろ? そやから、婦人会で予め作っておくんや。うち、ちょっと、まだあるか聞いてくるわ!」


2人をほっぽり出してうちは飛び出る

近所の、婦人会の会長さんのお宅へ行き、尋ねる。


「あの、主人に赤紙が……来ました。それで、千人針のことで相談があります」

「あ……それは、おめでとうございます」

「……ありがとうございます」

「そやけど……ほんま申し訳ないんやけどな……」


会長さんは言いづらそうに説明してくれた。

最近はどんどん出征する人が増えてきて、用意していた千人針は今はなくなっていると。


……そんな

どうしたらええのか、わからず固まってしまった

「……ほんまに堪忍やでぇ。せめて、小さなお守りだけでも作ってあげたらどないやろ」


「……はい。ありがとうございます」


……どないしよ、帰りながら考える

義雄さんに聞くわけにはいかんし……お母さん……

あ! お母さんたちにも知らせな!

今度は実家へ向かって急ぐ


久しぶりの実家や


「お嬢さま! お帰りなさいませ! どないしはったんですか?」

「ただいま、ハナ。お母さんたちはおるやろか」

「はい! お待ちください」


うちは仕事部屋へ通される

しばらく待つとお父さんとお母さんが入ってきた。


「……どないしたんや、急に」

「義雄さんに赤紙が来ました」


お母さんは口に手を当てて悲しそうな顔をした

お父さんは、一瞬俯き、顔を上げて

「おめでとう」

と言った。


「ありがとうございます」

「いつからや」

「12月27日の朝、出立です」

「そうか……」


何を話したらいいかわからず、無言になる。

2人も何も話さない

えっと……

「あ! お母さん、相談やけどな? 千人針どないしたらええやろか」


「……今からでは、間に合わんやろ」

「そやねん。やっぱり、なんや小さいお守りでも作るしかないやろか」

「あんた……大丈夫なんか?」

「うちがしっかりせなあかんからな!」


また2人とも黙ってしまった。

なんや、どないしたんやろ

「……千代子、色々準備で忙しいんちゃうか? 今日はもう帰ったほうがええわ。義雄くんはどないしてんの?」

「なんや、やることある言うて朝から出て行かはったわ」

「……その日まで、できるだけ一緒におったほうがええんちゃうか、今日はもう帰り」

「……そんな、永遠の別れとちゃうねんから。ふふ」


また2人とも黙ってしまう。ほんま、なんやねん


お母さんが玄関の外まで送ってくれる。

「千代子、あんた……ほんまに大丈夫か?」

「ほんま、なんなん。うちがしっかり送り出さな。お国のためや。名誉なことなんやで」

「……ほうか。何か困ったことがあったら、いつでも帰ってくるんやで?」

「おおきに。ほな」


お父さんもお母さんも、変やで。なんであないに心配してはんねやろ

うちは下宿屋へ帰って、早速、お守り作りを始めた。


義雄さんは日が暮れた頃に戻ってきた。

「おかえりなさい」

「ただいま。……千代子、今日実家へ行ったんか」

「え? うん。行ったで」

「そうか……わしも挨拶行ってきたわ」

「そうなん? なんや一緒に行ったら良かったわ」

「……ほんまやな」


みんなで静かに晩御飯をいただく。

そして就寝。

朝がくる。

今日も、やるべきことをやる。

お守りはあんまり上手やないけど心を込めて作るからな。


いつも通りの、生活をする。

相変わらず義雄さんは、帳簿の付け方を何度も教えたり、避難するときは、とか、困ったときはすぐに実家を頼るように、とか、そういう話ばかり。

もー、わかってますよ!


あっという間に、26日になり、いつものように静かに晩御飯を食べる

「ほんまに送別の宴はせんで良かったん?」

「ええねん。いつも通りでかめへん」


うちの実家から、少し食料を貰った。行く前に少しでもご馳走を食べさしたり、と。

今日は、いつもよりは少しだけ豪華な晩御飯


せっちゃんとトキちゃんは遠慮してたけど、せっかくやからみんなで一緒に食べたいやんか


食べ終わって食器を片付けていると、せっちゃんが

「片付けは、うちらがやります。……義雄さんと少しでも一緒にいてください」

と言い、トキちゃんも、うんうん、と頷いている。


「何言うてんの、片付けはうちの仕事や。うちはしっかりせなあかんのや」

「じゃあ、一緒にやらせてください。早く終わらせて……ほんまに、ちゃんと話したほうがええです」


何言うてんのやろ、せっちゃん

よくわからへんけど、すぐに片付けは終わった。

「さぁ、他にやらないかんことなかったやろか……ああ、しまった、今日、お手洗いの掃除忘れとるわ! うちちょっと掃除してくるわ!」


せっちゃんとトキちゃんが、なぜかうちのシャツを握って、うちが行かれんように引っ張る。

「へ? なんなん、2人とも。どないしたん」


「千代子さん!」

せっちゃんが涙目になっている。

トキちゃんは、うえぇーん、と泣き出す。


「なっ! ど、どないしたん!? 2人とも!」

なんで2人が泣いているのか、全くわからへん


「千代子さん……ちゃんと義雄さんと話してください」


え?


「うっ、うっ、……千代子さん……き、今日が、ゆっくり話せる……うぅ〜、最後の、日です」


「い、いややなぁ、2人とも。最後やなんて、そんな大袈裟な。国民はな、一丸となってお国のために」


「そんなんいらん!!」

トキちゃんが叫んだ。

「……」

「……そんな話とちゃいます……千代子さんと義雄さんの話です」


うちと、義雄さんの……


「うちら2人とも、2階に行きます。千代子さん。目ぇ逸らしたらあかん。絶対に、今から2人で話してください」


「な、何言うてるかわからんわ。……別にそんな……話すことなんか……」


「……なんでもええやないですか。話してるうちに、言い忘れたこととか思い出すかもしれへんし。ほな、おやすみなさい」


「千代子さん……後悔のないように……おやすみなさい」


2人は2階へ上がっていった。

……後悔? 言い忘れたこと?


うちは……別に……


就寝の準備をする。2人の言葉が頭の中でぐるぐるとしている。

しばらくウロウロしてしまう。

いや、別にそんな……最後とかちゃうし……


義雄さんの部屋の、襖の前に佇む

……別に

ただ、しばらく会わんからな? そらちょっとは寂しいで? そやからな、ちょっとだけ、話してみようかな


「……義雄さん。入ります」

襖の向こうから「ああ」と聞こえた。



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