【34】温もり
大切にするわ、て、ギュッと
大切にする、ギュッて、やだもう!
幸子も恥ずかしそうに両手で顔を覆う。
「……それでな? 今日は……ほれ、この顔やから仕事休んでな? 産婦人科行ってきたんよ」
「……どやったん」
「妊娠、6週くらいやって」
わわわわわー!
「……幸子」
「ん?」
「おめでとう!」
幸せそうならこれ言うって決めてた!
幸子は嬉しそうに笑って
「ありがとう!」
「イテッ」
と顔をしかめた
うーもう、本当に痛々しい
「……へへ。病院でな、顔のこと聞かれたわ」
そりゃそうだ
「転んだ、て答えたけど、多分バレてるなぁ」
「……正直、私はまだ暴力は許せない」
「……そやなぁ。ふふ、おおきに、みう」
「え?」
「いや、なんやろ……心強いわ」
「……っ」
やだ、泣きそう
「そっ、それで、結婚は? いつ?」
「うーん、それぞれの親に挨拶行かなあかんし……ああ、絶対叔母ちゃんに怒られるわ、順番が違う! て」
そう言いながらも幸せそうに微笑む幸子
「叔母さんが、お母さん代わりに育ててくれたんよね?」
「うん、そやねん。……多分、再婚したのもうちの為や。私生児って言われんように。知らんけどな」
……この時代の人たちにとって、本当に私生児って重い言葉なんだろうな
「叔母ちゃんが言うにはな? 美人過ぎて周りがほっとかんかったからや、らしいで。自分で何言うてんねんってな? あはは!」
幸子、幸せそう。良かった
すると、幸子が真面目な顔になって私を見た
「……わからんけどな? やっぱり、みうには感謝やねん」
「え? なんで?」
私、本当に何にもしてないよ
「いや、ほんま、これはこじつけかもしれんけどな? あの日……みうが現れたあの日の空き地……」
あぁ、写真を見てただけなのにワケわからん空き地に着地したあの時
「あの時な? うち……生理が遅れてて不安でいっぱいいっぱいなっててな? 回らん頭で茂に会いに行ったんよ。けど、お手伝いさん出てきてな、みんな本家へ行ってます、て。ああ、そっか、お盆か、て」
ん?
「……お手伝いさん? え、それって昭和では普通のことなん?」
あと本家とかもよくわからんわ
「……普通ではないなぁ。茂の家っていうか、あの一族はみんな何かの社長とか、本家はそらもうデカい会社やってるらしいで」
「えー! じゃあ幸子、玉の輿やん!」
「うーん、そやなぁ。けど茂は次男やからなぁ」
「一番いいやつやん!!」
「あはは! なんやそれ。現金やなぁ」
「……現金? え? 何? お金?」
「あははははは! アイタッ……またかいな! ほんま、みうは言葉知らんなぁ!」
えー! もう! なんなん
ちょっとプゥと膨れてみせる
それとね、大笑いすると痛むでしょ!
「うふふ……。あー、それでな?」
え、ちょっと、教えてくれへんの
ま、いいや。あとで聞こ
「うん、それで?」
「茂の家から帰るときにな? いつもあそこの空き地を抜け道に使ってるんやけどな」
あ、なるほど。だからあの散歩の時シゲルとすれ違ったんや
「あんとき、ほんまいっぱいいっぱいで、どうしようどうしよう、て。誰が助けて、て、そう思いながら歩いてたら、突然みうが現れたんや」
……
「ほんま、びっくりしたで。宇宙人がうちのこと助けに来たん? てな」
ほんまに、そうなのかも
……いやいや、何の助けにもなってないわ私
「ま、一瞬ほんまにそう考えたけどな、そんな都合のいいことあるわけないしな。……ブフー! 靴履いてへん宇宙人や! あはははは! イタタ……」
ちょ、なんやえらいツボに入っとるやん
「はは……あ、堪忍。みうにとっては何にもおかしないよな? 突然こんな時代に放り出されて」
「ほんまやで」
「なんや途方に暮れとるし、可哀想やなぁて思て助けたつもりやったけど……みうが心配してくれて、ほんまに嬉しいて思ってんねん。おおきに」
「……私のほうこそ、幸子がおらんかったら今頃どうなってたか……助けてくれてありがとう」
「へへ、なんや、こそばゆいわぁ」
2人で、へへへ、へへへ、と笑う
なんか、照れる
一番仲のいい柚希とさえ、こんな話はしたことがない
……幸子は、おばあちゃんじゃなかったんやな
それでも、私は幸子が好きだ。こっちの世界にきて初めに会ったのが幸子で良かった、て思うよ
「これから、忙しくなるね」
「そやねん、一番の問題は叔母ちゃんや」
「そっかぁ。昭和は、授かり婚なんて概念がないんよね」
「授かり婚? なにそれ」
「子供を授かってから結婚することなんだけど、おめでたいよね、ていう考え方なんだよ」
多分そんな感じ
「そっか……授かり婚……ええね」
「……私、なんにも知らんけど、幸子のこと応援する! 私は幸子の味方だからね!」
もう恥ずかしいついでにどんどん言っちゃえ!
「なんでそこまで……」
なんでやろ、わからんけど
「なんでか知らんけど、幸子のこと大好きやねん!」
恥ずかしい通り越して開き直りや!
「みう……うちも、みうのこと、好きや」
2人でまた、へへへ、へへへ、と笑う
「私、また来ていい?」
「もちろんやで! 来てくれたら心強いわ!」
「へへ、良かった」
「あ、うちの話ばっかりで、ごめんなぁ」
「ふふ。また今度、私の話も聞いて。今日は帰るわ、おばちゃんが心配するから」
「ほんまやね。……みう、ほんま、おおきに」
「へへ。ほな、また来るわ」
「気ぃつけてな」
下宿に帰り、おばちゃんに声をかけてから銭湯へ行く。銭湯から帰ってくると、おばちゃんがご飯の準備をしてくれた。おばちゃんは先に済ませたらしいけど、台所のテーブルで私がご飯を食べるのに付き合ってくれて、お茶を飲みながら今日のアルバイトの話を聞いてくれる。
……本当にお母さんみたい
すると、座敷でテレビを見ていた弘子ちゃんと典子ちゃんも台所へ来た。
2人とも自分が初めて働いた日のことや失敗したこと、恥をかいてしまったことを笑いながら教えてくれる。
みんなで笑ってめちゃくちゃ楽しい!
なんかもう、嬉しくて。今日の全部が嬉しくて。
ずっと、自分の人生に特に不満もなかったけど、こんな感情は初めてで、言葉にできない
温かいなぁ
「みんな大好き」と言ったらみんなすごい照れてた。
なんでー?
さて、明日も仕事だぞ
油断すると寝坊するからね、テンション高くて眠れんかも……
そう思ったけど、緊張が解けたからか、あっという間に眠りに落ちた




