【32】午後
平日のランチタイム、えぐい
伝票は手書きだし、お冷やも当然セルフじゃないし
お料理を運んでくれるロボットなんているはずもない。
そういうファミレスでしかバイトしたことないから、アナログ初体験で目が回りそう
ま、経験ゼロではないだけマシかな
なんとなくわかる
だけど、どうしてもイヤなことがある
タバコだ
もぉ〜! モクモクモクモク、煙だらけ。クサい!
女の子の2人組とかもいるけど、イヤな顔ひとつせず普通にランチを楽しんでる。副流煙だよ! 危険だよ!
少しだけランチタイムが落ち着いてきた頃、和夫さんに尋ねてみた。
「あのぅ、和夫さんはタバコ吸わないんですか?」
「あ? ああ……5年前くらいに辞めたなぁ」
5年前て……和夫さん21歳やん。たった1年だけ吸ったん? ……いや、そこは流そう
「なんで辞めたんですか?」
「…………なんとなくやな」
いや、何、今の間
じーっと和夫さんを見る
「……どした」
「いやぁ、なんか特別な理由でもあったんかなぁて」
「……ははっ。いや、まぁ大した理由やないで?」
「なんですか?」
「……当時付き合ってた人がな、身体が弱くてな」
お、おお
お?
「……えっと、今は?」
「今?」
「その……お相手さんとは?」
「まぁ……色々あってな、別れたんや。ま、昔の話や」
ほーん。昔の話、その割に伏し目がちになってますよ
……ちょっとぶっ込んでみようかな。恋バナ大好き
「まだその人のこと、好きなんですね」
バッと和夫さんが私を見る
めっちゃびっくりしてるやん
ビンゴやん
……いかん、ニヤけてしまう
和夫さんはまた、あのセクシーポーズ、手の甲をおでこに当てながらフイッと顔を逸らす
「アホ言いな」
照れてるよー! うふふっ
もっと突っ込みたいところだけど、やめとく
色々あった、て言うてたし、関係のない私が土足で踏み込んでいいことじゃない。世間知らずだけどそういう大事なことはわかるんだから
さて
カウンターの中にいても特にすることがないぞ。そういえば今日はおばあちゃん無双がひとつもないな
ちょっと厨房覗いてみようかな
厨房へ行くとフミさんは食器を拭いていた。
「あのぅ、何か手伝います」
「あ? ええよ、こっちは気にしな」
あれれ? なんでだろ
なんか拍子抜けしてモジモジしてしまう
それに気づいたフミさん、
「今日はな、ホールだけしっかりやってくれたらええから。和夫からそう言われとるんや」
あ、そういうこと
「わかりました」
「慣れてきたらこっちも頼むわな」
「はい」
なんか……色々考えてくれてるんやな
カウンターに戻り、ホールを見渡す。
なんか、することないかな……
あ、あそこの席のお冷やが減ってる、入れてこよ
うわ、灰皿がいっぱいやん、吸いすぎや! 交換するかぁ
他にすることないかな。紙ナプキンの補充も終わったし、あ、あの席お会計ぽいぞ、お、立った。
お会計は和夫さんがやる。その間に私は片付けに行く。さささっとね。グラスとカップはカウンター側のシンク、油汚れは厨房へ。
うんうん、私ちゃんとできてる。昭和の常識がないだけで、仕事は普通にできるんだよ
カウンターで洗い物をしてたらお客さんご来店〜
カランカラン……
「いらっしゃい」
「いらっしゃいませー」
「おう、和夫、おつかれ」
そう言いながらカウンターに向かってきて、サッと座る。
私は洗い物を途中でやめて、慣れた手つきでおしぼりとお冷やを出す。
このおじさんも常連さんかな
「アイスコーヒー」
と言いながらタバコに火をつける
「はい。少々お待ちください」
和夫さんを見るとすでにグラスに氷を入れて準備を始めている。
サクサク進むわ
カウンターの中に戻り、やりかけだった洗い物を始める。
初日だし、ランチタイムのピークは確かに焦ったけど、ホールのほうは私結構いけるわ
厨房のほうはまだまだやけど……
洗い物が終わり、他にやることないか店内に目を配る。
「なんや新しい子雇ったんか」
「はい、今日からお願いしてます」
あ、またこのくだりなのね
おじさんの方を見てぺこりとする
「頑張りや」
「あっ、はい」
おじさんは、それだけ言って新聞を広げた。
ふぅ
カランカラン……
「いらっしゃい」
「いらっしゃいませー」
今度は女性の2人組
めちゃくちゃ喋りながら入ってくる
「2人いけるー?」
「はい、どうぞ」
和夫さんが答える。私はすでにグラスにお冷やを注いでいる。手際いいぞ、私
テーブル席に座った女性たちのところへ、お盆に乗せたおしぼりとお冷やを持っていく。
「失礼します」
お母さんくらいの年かなぁ
おしぼりとお冷やを置いていると、話しかけられた。
「あらー、初めて見る子やなぁ」
「ほんまや。いつから来てるん?」
「あ、あの、今日からです」
「いや、可愛らしいなぁ」
「ほんまやなぁ」
「うちらな、たまーに来んねんで」
「そそ、たまーにな」
「あんたいくつなん? ほんま可愛らしい」
「なんや和夫くんのお友達かいな」
「あんた、和夫くんのお友達にしては若すぎるわ!」
「あはは! ほんまやな!」
「名前なんて言うん」
「いくつなん」
「そないにいっぺんに質問したら答えられへんわ」
「ほんまやで」
「ほら、固まってはるわ」
「いや、可愛らしい」
あ、やっと止まった
「22歳です。……みーちゃんと呼ばれてます」
「22歳! 見えへんなぁ」
「ほんまや! 高校生くらいか思たわ」
「みーちゃんな、頑張りや」
「はい。失礼します」
ペコッと頭を下げてサッと離れる。
危ない危ない、いつまでも捕まってられへんわ
下宿屋のおばちゃんが2人いるようなもんだ
カウンターに戻って、ちょっとホッとする。だけどまた注文で呼ばれるわ
「みーちゃーん! 注文ええかぁー」
もう呼ばれた!
「あ、はい!」
注文は、アイスコーヒーとアイスティー
「少々お待ちください」
サッと離れる
ふぅ
あ、次は持って行くときにまた隙を見せないようにしないとね
カランカラン……
おっとまたお客さんだ
今度は……おばあさんとお孫さんかな? 小学生だな
可愛い注文が入った、プリン! ふふ
午後はポツリポツリとお客さんがくる
バタバタすることもない。お客さんたちはそれぞれゆったりと過ごしてる。カウンターのおじさんもまだいるな。時々和夫さんと話す程度。
と思ってたら、突然話を振られた。
「みーちゃん、て呼んでええのかな」
「え! あ、はい」
「わし金田や」
「あ、はぁ」
「綺麗なお嬢さんやなぁ」
えー!
「和夫の彼女かぁ?」
「違います!」「違います」
あ、ハモった
「はは、そうかぁ」
そう言いながら金田さんは100円札をカウンターに置いた。
「ほな、また来るわな。ごちそーさん」
「ありがとうございました」
はい、片付け片付け〜
「みうちゃん、今日はもう上がってええで」
あー、もうすぐ17時かぁ
「はい」
「ちょっと待っとってな」
「はい」
またフミさんから白い封筒を渡される
「おおきに。また明日も頼むで」
「はい、ありがとうございます」
よし
今日はバイトが終わったら行くと決めてた場所が2つある。
まずは商店街!
下着を買うぞー!




