【28】物価
何したかあんまり覚えてないけど、私、頑張った!
それにしても、おばあちゃん容赦なさすぎ
ポーっと店内を眺める。
すると和夫さんが近づいてきた。
「みうちゃん、おつかれさま。ばあちゃんすごいやろ?」
「あ、はは。容赦ないです」
「ははっ。……すまんけど、もうひと踏ん張りお願いできんやろか? わしちょっと用事が出来てな」
「え?」
なんだろ急に
「基本的にはあの2人に任せてええから。万が一忙しなったら手伝ってくれんやろか」
「あ……はい」
「30分……1時間以内には戻れるようにするわな」
「……行ってらっしゃい」
「すまんな。あ、何もなかったら座っとってええからな!」
和夫さんは颯爽とお店を出ていった。
なんやろ、まあいいや。忙しくなるまで店内眺めとこ
……幸子のこと、どうしたらええんやろ
私になにかできることあるやろか。幸子は結婚したいって言ってたな。だけど相手はDV野郎。結婚したからって変わるもんなんやろか
また答えの出ないことを考えても、どうしようもないんやけど……はぁ
待って。アイツと結婚するってことは……幸子は、おばあちゃんじゃなかった、てこと?
……そっか。うん、仕方ない。幸子がおばあちゃんじゃなくても、大好きなのは同じやし幸せになって欲しい。ただそれだけだ
店内は特に忙しくなることもなく、30分程で和夫さんは戻ってきた。
「おかえりなさい」
「ただいま。すまんかったな。大丈夫だったか」
和夫さん、ちょっと息切れしてる。急いで戻ってきたんだな
「みうちゃん、今日はこのくらいにしとくか。明日もあるでな」
「あ、はい。わかりました」
「明日も今日くらいで大丈夫やで」
あ!
「あ、あの、今日は本当にすみませんでした! 私がお願いしたのに遅刻してしもて……」
「ん? ああ、かめへんて」
「明日から、よろしくお願いします!」
ペコッとお辞儀をして帰ろうとしたら、和夫さんに止められた。
「あ、みうちゃん、ちょっと待ってな」
ん? なんだろ
和夫さんが厨房のほうを覗いておばあちゃんと何か話している。
するとおばあちゃんが出てきて、何やら白い封筒を私に向けて差し出してきた
え、なに? あ……もしかして……いや、でも……
私は首をかしげながら封筒を受け取り、おばあちゃんと和夫さんを交互に見た。
「猫ちゃん、今日はおおきになぁ。なんや知らんけど、あんた大変なんやてぇ?」
「昨日な? ばあちゃんと話し合って、みうちゃんには日払いで給料を払うことにしたんや」
え! ……私のために考えてくれたん?
「……ありがとうございます! でも、今日は私、見学ですよ?」
すると和夫さんがふにゃっと笑って
「結局、ばあちゃんにこき使われてたやろう? 少しやけどな、お礼や」
なんだ、こんな可愛い顔で笑うこともあるんや
「あ、ありがとうございます!」
めちゃくちゃ嬉しい!
「明日から、また頼むでぇ」
「頼むわな、今日はおつかれさん」
2人にお辞儀をして、お手伝いのおばちゃんにも頭を下げてお店を出た。
わぁー! 給料や! 昭和でお給料もらったわ!
……いくらだろう
いや、さすがに道を歩きながら封筒を覗くのはなぁ……お行儀悪いからなぁ
自分の部屋に帰るまでは我慢だ……中身は紙幣だな……
いやいや、帰ってから見よう
私は、気持ち急ぎ足で下宿屋へ帰った
うふふ、おばちゃんに報告しようっと
下宿屋に着いて玄関を開け……え? 開かない
……おばちゃん、出かけてるんだな
鍵、鍵
ポケットを探る……ない
あーーーー!!!
朝! 散歩だから、て鍵持たずに出て! バイトの見学のこと忘れてて! 急いで向かった!
鍵持たずに出ちゃったーーー! あああああ
……ううう、悲しい
おばちゃん、何時くらいに戻るんだろ……そうだ、勝手口は? 閉め忘れとかあるかも
洗濯機が置いてある勝手口の方に向かう
……閉まってる
もーーーーー!!!
普段ゆるゆるなのに! 突然ちゃんとしないでぇ!
はぁ、もう、仕方ない。その辺プラプラするかな
……その前に
周りをキョロキョロ確認。裏口だから誰からも見えないよね? ……封筒の中身、見てみよ
封筒をパカッと開けて中を覗く。
お札が入ってる……実質2時間半くらいしか手伝ってないし賄いまでいただいたのに、何枚か入ってる!
え、いくら? 1、2、3、4……4,000円? やった!
……ん? え? 何これ……
ひゃ、100円札?
うわ、初めて見た……じゃなくて、待って、100円札が?
4枚? え! よよよ400円!?
……400円て
な、なんだろう、これ。どうしたらいいの……
いや、そりゃね、お給料ナシで、て自分から言ったし、別にいいんだけど……400円て
お札を眺めながら、立ち尽くしていた
「わぁ! なんやみうちゃんか! どないしたん、そんなとこで!」
飛び上がった
おばちゃーん!! 声デカいって!
慌てて封筒にお札を戻す。
「あ、あの、鍵を忘れて……」
「そやったんかー。すまんかったなぁ、ちょっと買い物行っててん」
そう言いながら勝手口の鍵をガチャガチャ開ける
「アルバイトどやったーん? 忙しかったか」
「あ、いや今日は見学だけで……少しだけお手伝いしてきました〜」
そして400円もらいました
おばちゃん、買い物した物を片付けながら話し続ける
「明日から本格的に働くんやなぁ。お給料もらうまでは晩御飯の心配はせんでええで〜。おばちゃんの晩御飯、分けたるからな」
や、優しい!
「ありがとう、おばちゃん……あ! でも、私お給料は日払いでもらえるそうです!」
「ほぉか〜? ま、生活が落ち着いてからでええで」
親切すぎる……おばちゃんが特別に優しいのか昭和の人がみんなそうなのか、わからんけど
……少しずつでも払いたいなぁ。400円しか持ってないけど
……ちょっと聞いてみよ、どんな反応なんだろ
「……あのぅ……今日も、お手伝いしたからお礼に、てもらったんです……400円」
「そら良かったやないの〜。初めてのお給料やな、何か好きなん買って大事に使い〜」
ん? あれ? 思ってた反応とちゃう
だって400円だよ? お弁当ひとつ買えないよ?
……待って
私はおばちゃんが買い物してきた物たちを見る
「……おばちゃん、この卵、いくらやった?」
「卵? 10個で100円や」
あ、ああ、うん、多分安い気がする
「じゃあこの食パンは?」
「食パンは50円や」
は!? 50円!?
「え? 1枚の値段が?」
「なんでやねん、1斤50円や」
……イッキンて何
私が固まってると、おばちゃんが
「なんやねん、どないしたん」
「……あ、えっと、このひと塊が1キン?」
「そやで」
どゆこと?
「こ、この牛乳は?」
「25円やで」
……衝撃や
おばちゃんが私を見て首をかしげ
「未来ではお金使わんのか?」
ちゃうちゃうちゃう
「……未来と全く金額が違うんです。……あ! もしかして! お給料も違う?」
「さぁなぁ、おばちゃんにはようわからんで」
「……おばちゃん、ここ、家賃いくら?」
「あれっ? 言わんかったかな。6,000円や。水道光熱費込みな」
……ちょっと何言ってるかわからないよ
すでに安いか高いかもわからない。令和と比べて10分の1くらいって思ったらいいのかな。でもそれだと、昭和の卵が高すぎる……
これは……慣れるのに時間かかりそ
「……あ、あの、部屋に戻ります」
「ああ、晩御飯作っとくからな、先に銭湯でも行ってきたらどうや」
「……はい」
そっか、銭湯。これも慣れないと……あ
「あの、銭湯はいくらですか?」
「40円やで」
はーい。もう、脳がバグる
そのとき玄関の方から鍵がカチャカチャと開けられる音がした
ガラガラッ
「ただいまぁ」
ん? 典子ちゃんの声じゃないな
廊下のほうを見ていると、ミシミシと歩く音
洋子さんがパッと台所を覗いた
「洋子ちゃん、おかえりぃ」
「ただいま。あら、みうちゃん。ただいま」
「あっ、お、おかえりなさい」
ひゃー、お風呂上がりの洋子さん、色気〜
※卵や食パンなどその他の当時の価格は、資料によってばらつきがありました。史実と異なる場合があります。近い金額だと思いますが、だいたいそのくらいだった、というニュアンスで読み取って頂けると助かります。




