【27】新感覚
あのことは内緒、これだけ教えて
待って、そんなにダメな言葉なん? なんなのシセイジって!
和夫さんが溜め息をついた
「なんや、幸子ちゃんはまだそんなことを言われとんのか?」
「あ、あの、いや、そうじゃなくて……どういう意味なんですか?」
「……未来にはない言葉なんか?」
う、
「わかりません。私が知らないだけなのかも」
和夫さんがまた溜め息をつく
「私生児ってのはな、結婚してへん男女の間に生まれた子供のことや」
「へ? そ、それだけ?」
和夫さんがびっくりした顔で私を見る
「それだけ、て……。何も思わんのか?」
「え、え、何もって? ただ、親が結婚してないだけ……あ、そりゃ本人は嫌かもしれないけど」
え、なんなん、そんな特別なことやないような……
「本人は嫌……」
「……え、はい。親がいなかったらめちゃくちゃ寂しいと思います」
「寂しい……」
「はい。あ、でも、シングル……母子家庭とか父子家庭とか、未婚のまま出産する人とか、あ! 結婚してなくても一緒に暮らしてるとか。よく聞きますよ。普通です」
あれ? 和夫さん、口が開いてます
おでこに手の甲を当てて目を瞑って何か考えだした。
なんだろう、やたらセクシーにみえる
セクシーイケおじやな
そしてまた目ヂカラでこっちを見る。
「……未来では、みんなそないな感覚になってんのか?」
「えっと……昭和のほうの感覚がわからないです。どういう感覚なんでしょう」
また和夫さんは目を瞑って手の甲をおでこに当てた。今度は空を仰ぐように
またセクシーポーズ。……なんか、困ってる?
「……今の時代はな、親がいない子は差別されるんや。父親が誰かもわからない不義の子、とか、出どころのわからない子。みんながみんな差別するわけやないけどな、就職できんかったり結婚できんこともあったみたいや」
待って待って待って、追いつかない
……フギの子? なに? 就職や結婚ができない? は?
「例えば結婚した夫婦の間に生まれた子でも、父親が亡くなって母親が1人で育ててたら、父無し子や言うていじめられることもあるんや」
「ててなしご、て、なんですか?」
「……昔は父のことを、父と呼んでたんや」
なんでやねん
「……意味がわかりません。なんで親がいないと差別されるんですか?偏見ヤバくないですか」
「……ヤバくない?」
あれ、通じないのかな。えっと……他の日本語が思いつかない
「未来では誰も……本人の気持ちは別やけど、周りの人は別に何も思わないです」
いったい、何が悪いの? わからない
首を傾げて考えてると、和夫さんが突然笑い出した。
え、何か笑う要素あった?
「はは、未来の感覚なのかみうちゃんの感覚なのかはわからんけど、ホンマわしらの感覚がバカらしく思えてきたわ!」
なに、よくわかんない
「……あぁ、でも、そういうことか。わかったわ。
はぁ。……ゆっくり食べ」
私は全然わからない!
しばらくするとお手伝いのおばちゃんも賄いを食べ始めた。
私は詰め込むように食べ終わって、食器を持って厨房へ向かう。自分の分は、自分で洗わないとね!
厨房を覗くとおばあちゃんが何か作業をしている。
「あの……ご馳走さまでした。洗わせてもらっていいですか?」
「ああ、ちょうど良かった。あんたちょっとアレ取ってくれへん?」
上の方の棚を指さしている。あ、届かないんだね。おっけー
高い所にある器を取っておばあちゃんに渡すと
「ああ、それからな、そこ洗い終わったらジュースの補充しといてな。あとテーブルの砂糖が切れてないか確認したか? 紙ナプキンもやで、それとな……」
ちょちょちょ、待って待って
いやいいけど、手伝うけども!
すると和夫さんが厨房を覗いて
「ばあちゃん! 今日はみうちゃんは見学や言うたやろ、働くのは明日からや」
「なんやぁ? 見学て。そんなん聞いたことないわ」
「あっあの、大丈夫です。私、手伝います」
「いやいや、ばあちゃん隙あらばこき使おうとするで。カウンター座って見学しとき」
「……手伝わせてください」
私にできることなんて何もない、せめて少しでも仕事を覚えたい
「そおかぁ? ほどほどでええからな」
「はい!」
そこからはもう、おばあちゃん無双
次から次に指示してくる。しかも、全然詳しく教えてくれない上に一気に捲し立てるから全くついていけない
「あんた、こないなことも知らんのかいな」
う、すみません
「ちゃうちゃう! そないなやり方やと水がもったいないやろ!」
え、え、そうなの?
「そないにしゃなりしゃなりしてたら日が暮れるわ」
……くそぅ
「まだできてへんのかいな」
ウルセー
「ほぉれ、はよせんとお客さん帰ってまうわ」
やってんねん!
おばあちゃん、容赦ない
私はキャパオーバーだよー!
「ほら、はよせんと、儲け損なうで」
……これか、これが浪速のあきんどっちゅうやつやな
日曜日のお昼時、めちゃくちゃ忙しい! 知ってる!
私だって飲食店でバイトくらいしたことある。だけど、マニュアルがちゃんとあったし、なんか専用の機械とかもあったし、ほとんどが決まった通りにチンして出すだけ、食洗機もあった。
だけどここには何もない、全てが手作業、カット野菜だってない。
昭和、エグい
目が回るような忙しさも、段々と落ち着いてきた。
自分が何をやったのかほとんど記憶にない
するとおばあちゃんが腰をトントンと叩きながら
「ふぅ、少し落ち着いたな。……猫ちゃん、あんた休憩してき」
ふぅ……ほぇ?
なんか急に優しい
「カウンター座っとき」
なんかわかんないけど、お言葉に甘えまーす
自分でお冷やを注いでカウンターに腰掛ける。
ふぅ
おつかれさん
筆者が子供の頃、関西出身の祖母からこんな感じのことを言われたことがありまして、それを参考にしてます
ちょっと厳しく見えるけど、大好きでしたよ。




