【25】助ける!
走れ!
走る!
走る!
幸子、何かあった? 気のせい? 私の気のせい?
でもでも、確認だけ! 何もない! 多分何もないんよ!
私が心配しすぎ!
でも、走る!
幸子のアパートに着いた。
はぁはぁ、息切れ……早く、とにかく、幸子の部屋へ!
階段を急いで上がる。
幸子の部屋のドアをノックする。
……トントン
静かだ、もう一度。
コン……ゴンゴン!
……誰も出てこない。……開けて、いいかな?
恐る恐るドアノブを回してみる。
カ、チャ……開いた。
「……幸子? 美羽です」
中を覗くけど、よく見えない。
……う〜もうっ!
「おじゃまします!!」
台所を抜けて奥の部屋へ向かう。
幸子は……布団の中に、いる。
震える手で幸子に触れる。
「……幸子?」
モゾ、と少し動く幸子。
良かった。少しホッとした。すると
「……みう、ごめん……今日は帰ってくれるか?」
と、布団から顔も出さずに言う。
……いや、おかしいでしょ
「幸子、顔、見せて」
微動だにしない幸子
「顔見せて! 幸子!」
無理やり布団を引っ張った!
すると両手で顔を隠す幸子。
さすがの世間知らずの私にだってわかる
「……また、殴られたんやね」
「……ちゃうねん、酔ってたからな、支えようとしてコケてしもたんよ」
「それなら何で顔を隠すん?」
しばらく動かなかった幸子が、ゆっくり起き上がってこっちを見た。
!!!!!
何これ! 酷い!
目の下、左頬が青? 紫? そんな色になって腫れてる!
「……っ」
言葉が出ない
「……ホンマ、ちゃうねん。こんなん初めてやねん。珍しく昨日は泥酔しててな? イテッ……本人もめちゃくちゃ反省してんねん」
「でも! この前も叩かれてたやん!」
「あんなん……別に暴力ちゃうて」
「暴力やで! 男が女に手ぇあげるて! そんなんダメに決まってる!」
あ、そうだ
「冷や、したほうが、ええよな? ……氷!」
「ああ、ええってホンマ。さっき冷やしたけど当てると痛くて……ホンマ、大丈夫やから、寝てれば治るわこんなん」
う〜、ダメだ私、何にもできない
「……幸子、アイツと別れようと思わんの?」
「……いや、ホンマあの人な、そんな悪いやつちゃうのよ。真面目でな、ちょっと不器用やけど優しいとこもあんねん」
「……真面目な人が、なんで殴ったりするん?」
「ホンマにこんなん初めてやねん。そやから茂、酔いが覚めてからめちゃくちゃ謝ってな……泣いてたわ」
泣いて謝る……大人の男の人が?
……反省してるのかもしれん
「なんで急にそんな……酔っ払いって、そんななん?」
周りにそんな人おらんかったからわからへん
「んー、茂んとこ、お父さんが厳しいらしくてな。お兄ちゃんが優秀でいつも比べられるねんて。親戚の人らもな……ほら、お盆でみんな本家に集まるやんか」
う、そういうのもわかんない
「それで昨日はあんな酔うまで飲んだみたいや。心細かったんかな、うちに話聞いて欲しくてここ来たらうちがおらんかったから……。下宿屋の話もしてたからな。探しに来たみたいやわ」
「……幸子のこと、好きなんやなぁ」
「……あん人、うちがおらんかったらダメなんやわ」
うーん、でもなぁ、でもなぁ
「お酒飲んでなかったらな? 絶対そんなことせんのや」
……ん?
「え、じゃあ、お酒飲む度に叩かれるん?」
「いや、ホンマ、お酒飲んでなかったら……」
「待って待って、お酒飲んだら叩くんやろ?」
「……」
ダメじゃん!
……いや待て、なんかそういう話どっかで聞いたような。そう、これ、よくある話やわ!
「あんな、幸子。私は未来から来たやろ?」
幸子が首を傾げる
「なにが言いたいかというと、未来はな、色んな人の話や体験を、SNSっていう物でたくさん読むことができるんよ」
更に首を傾げる
「えっと、説明が難しいんだけど……とにかく、未来には情報が溢れてるんよ」
……伝わるのかな、これ
「つまりね、幸子の場合、典型的なデートDVやねん」
あ、ダメだこれ
「えっと、恋人同士での一方的な暴力のことでね、殴るでしょ、泣いて謝るでしょ、許すでしょ、そしたらまた殴る、て、繰り返すねん」
幸子が黙って聞いている。
「それでな、これは、被害者が、自分で気づいて関係を断ち切るしか終わる方法がないらしいねん」
えっと、多分、そんな感じだった……
幸子が頭を抱える
「周りがな? どんなに言ってもダメやねん。自分で気づかんとダメやねん」
幸子、お願い
「……はぁ。……別れられんのや」
「なんで! 説明、下手だった? 殴る人は、ずっと殴るんよ! すぐに別れたらええやん!」
「……ちゃん……」
え、なに?
「赤ちゃん……できてん……」
!!!!!!
美羽はもう、キャパオーバーです




