【23】酔っ払い
安住の地に忍び寄る影
「な、なんやろ」
「わからへんけど、すぐ近くやない?」
「……まさか、ここ?」
みんなで顔を見合わせ頷く。
ドアをそぉっと開けてみる。すると下のほうで、なにやら男性のブツブツ言う声が聞こえてきた。
みんなで首を傾げながらも、互いに腕を組んで階段のところから下を覗こうとした。その瞬間、おばちゃんの声がした。
「なんやのー! あんた! 誰やねん! 警察呼ぶで!」
ちょ、おおおおばちゃん! 危ないて!
慌ててみんなで下に降りる。
見るとおばちゃんがバットを持って玄関前に立っている。バットなんてどこから持ってきたん!
さすがに夜は鍵を閉めているから相手の姿は見えないけど、外灯に照らされて磨りガラスの向こうに人影が見える。
なんか、ヨタヨタしてない? 酔っ払いが家間違ったとか?
「おばちゃん、なんなん、これなんなん?」
「知らんけど……なんや酔っ払いか?」
するとヨタヨタしてる影がまた、
ガンガンガン! 「オイ! ここにおるんやろ!」
みんなびっくりして「キャー!」と叫ぶ。
マジでなんなん! 怖いわ!
「なんやの! あんた誰やねん! さっさと帰らんとホンマ警察呼ぶで!!」
おばちゃーん!
するとおばちゃんがこっちを向いて
「あんたらは、上に上がっとき! おばちゃんがなんとかしたるから!」
いやいやいや
「おばちゃん、危ないて。ホンマに警察呼ぼ?」
「あんたらのことはおばちゃんが守ったるから!」
「いやホンマ危ないて!」
すると男はヨロっとして玄関の扉にゴンっと頭を打った。そして
「……おるんやろ。わかっとるで。はよ出てこいや」
と、呟くように言った。
ちょ、マジ怖いて
すると、みんなで固まっていたのに突然幸子がするっと腕を外して玄関の方に向かう。
「……幸子?」
「あっ。……ごめん、多分、うちやわ」
は?
……あっ!!
「まさか、シゲル?」
幸子が申し訳なさそうに頷く。
「今日は約束してなかったんやけどね……。おばちゃん、ごめんね」
「……なんや幸子ちゃんの彼氏かいな?」
頷きながら玄関の磨りガラスの向こうの奴に話しかける
「……茂?」
すると影がピクリと動いて
「おう、はよ帰るで」
幸子が鍵を開けて玄関をカラカラ……と開ける
……アイツだ! 幸子を叩いた、アイツ!
茂がフラッとして幸子が抱きかかえた。
弘子ちゃんと典子ちゃんが聞いてくる
「……あの人が、幸子ちゃんの彼氏なん?」
「なんなん。あれ大丈夫なん?」
大丈夫じゃない!
「アイツ、この前幸子のこと叩いたんや!」
心配そうにする2人。
私は、色んなことにいっぱいいっぱいで、別れさせるという決意を忘れてた! ごめん!
「幸子! そんなんほっとき!」
みんながびっくりした顔でこっちを見る。
「……うん、でも、そんなわけにはいかんし……」
なんでやねん!
「幸子、そいつはアカンて!」
「……ごめんね、みう。うち、この人連れて帰るわ」
なんで? なんでそんなやつ……
「弘子ちゃん、ごめんやけどうちのバッグ持ってきてくれへん? 服は明日取りにくるわ」
弘子ちゃんがバタバタ荷物を取りに行く。
私は何もできずに佇んでいると、典子ちゃんが肩を抱いてさすってくれた。
幸子は、アイツを連れて帰っていった。
私は何故か1人取り残されたような気分だった。
「……みうちゃん、しゃあないて。男と女はな、そう簡単に割り切れるもんやないんや」
おばちゃん……
「……だって。アイツは幸子に暴力振るうんよ」
「それでもなぁ……周りのもんは見守るしかないんや。選ぶのは、幸子ちゃんや」
そんなっ
悔しいけど、なにも言えない。私には何もできない
「……みんな、もう寝ぇや。幸子ちゃんのことはしばらく様子見るしかないで」
みんな無言で部屋に戻る。
さっきまであんなに楽しかったのに
3つ並んだ布団さえも憎らしく思えた
私たちの平穏を返せ!




