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S↔R ~令和女子、昭和に放り出される~ 「1970年」マジありえない文化なのに人情に泣ける。そして未来へ繋がる……  作者: 髙井菜是


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【11】銭湯の準備

美羽、銭湯の準備できるの?

何も考えてないでしょ?

下宿の玄関を今度は私一人で開ける。

木枠と磨(す)りガラスの引き戸が老舗旅館みたいで渋いなぁ

カラカラカラ……


靴を脱いで、廊下をミシミシと歩いて2階に上がろうとすると

「なんやねん! びっくりしたわぁ! なんや黙って入ってきて! 泥棒か思たわ!」


めちゃくちゃ大きい声にびっくりして飛び上がってしまった。

見るとおばちゃんがホウキを持って立っていた。


「え、あの〜」

「あんた、ただいまくらい言えんのかい! びっくりしたわ!」

「え、あ、すみません。ただいま?」

「なんやそれ、まあええわ、布団敷いたらこっちの部屋おいで!」

「はい……」


あーびっくりした、なんか家族以外にただいまって、すごい抵抗あるなぁ


布団を敷いて、下に降りる。

おばちゃんがさっき立っていた部屋まで行ってそぉっと中を覗く。

おばちゃんがなにやらゴソゴソやってる。


「あの……」

「あー! びっくりした! なんや幽霊みたいにこそーっと。こっちおいで!」


泥棒て言ったり幽霊て言ったり、いちいち大袈裟だな。


私は、いっぱい物を広げているおばちゃんのところへ行って正座する。


「ほら! これな、これ持って銭湯行き」


銭湯セットを準備してくれてたんだ。

「あ、ありがとうございます」


「使いかけやけどな、まだ使えるで! あとほら、これな、前住んでた子が全部置いて夜逃げしたんや。まだ綺麗やから、使い〜」


なんて?

夜逃げ?


結構立派な洋服が何着もある。多分使いかけのメイク道具一式、石鹸やシャンプー、タオルとかの銭湯セット。それと生理用品。

「えっと……」


「ほら! この洋服なんかも綺麗やで? こっちは寝巻きやな。生理用品は高価やから大事に使い。さすがに下着はイヤかもしれんけど、あんた何も持ってへんからなぁ、この際贅沢言わんとき!」


ヒエッ下着は無理!

でも……そうだ、私なんにも持ってない。贅沢は言えない。

他人の使い古しの下着を使うなんて、なんだかすごく惨めな気持ちになる。


「……ありがとうございます」

「みうちゃん、何があったか知らんけど、頑張りや。困ったことあったらおばちゃんにいつでも言ってな?」


そう言って私の腕をさすってくれる。

私はウルッとしてしまった。

おばちゃん、めちゃくちゃうるさいけど、なんかすごく温かい。


かと思いきや、またおばちゃんのマシンガントークが始まった。「女学校の頃はな」から始まりなぜか痴漢にあった話まで。焼き芋屋のおじさんに胸触られたって、どういうこと? とか言うツッコミを入れる間もなく話す話す。知らない世界の話だから面白いんだけど、これ、いつ離脱したらいいんやろ……


「ごめんくださーい!」


幸子だ! 良かった!

幸子が迎えに来てくれて、私はおばちゃんにお礼を言って自分の部屋に貰ったものを持って行き、銭湯へ行く準備をする。

自分の部屋に一気に物が増えてちょっと嬉しい。


幸子と2人で銭湯に向かって歩き出した。

すると向こうから女の子が2人歩いてきてこちらに手を振っている。


え、誰?


すると幸子も手を振り返す。

「いやぁ! 弘子ちゃん! 典子ちゃん! 久しぶり!」

「幸子ちゃん! 久しぶりやねぇ! 元気してたん?」

「うん! 2人も元気そうで良かったわぁ! あ、この子な、今日からお世話になる、みうちゃんや!」


あ、また、名前のくだりする?

「みうです。よろしくお願いします」

「うん、おばちゃんに聞いてるで。珍しい名前やんなぁ? みうちゃん、よろしくやで」


お、初めてのパターンきた


「うちらもうお風呂済ませてきたからな、またあとでな!」

「さ、うちらも早よ済ませよ!」


またイヤだイヤだとなんとか済ませる。

あぁ、家のシャンプー使いたい、トリートメント欲しい、髪に付けるオイルも欲しい!


でももうなんか疲れちゃって、どうでもよくなりつつある。


下宿についてドライヤーを借りる。なんかすっごいデカい。それに各部屋ひとつなんて当然あるはずない。これも共同で使う。しかもこれおばちゃんの私物だって。幸子は「別に自然乾燥でええんちゃう?」とか言ってる。信じられない。


「2人とも! もう準備できてるで!」


今日初めて来たときに通された座敷に向かうと、ご馳走がズラっと並んでいた。


「さあ! 今日はみうちゃんの歓迎会と、幸子ちゃんの久しぶりの里帰りの会や!」

「里帰り?」

「そやそや! 幸子ちゃんにとってここは第2の故郷やからな!」

「ふふ、確かに。おおきに」

「ほな、みんなビールついで!」


え、うわ、どうしよう

「あのっ、私、お酒は苦手で……」

「まーええやないの、1杯くらい! ほな! 乾杯!」

「「乾杯〜」」


えー、嘘でしょ、私飲めないよ


戦前はビアホールなどで女性がビールを飲むということは、ごくわずかだったらしい。

1956年(昭和31年)の記事「客5人のうち1人は女性」

同年に行われた意識調査「女性も飲んでもよいか、女性は飲まないほうがよいか」という質問に対して半数が賛成、都市部では7割が賛成したという。

1960年代後半には、ビアホールで女性だけのグループを見るのが当たり前になってきた。

家庭では、電気冷蔵庫の普及と、高度経済成長による生活の変化もあり、ビールは更に幅広い層に親しまれるようになったんだって。

ちなみに1970年の電気冷蔵庫の普及率は9割程だったみたい。


女性が飲んでいいか、とかそんな意識調査があったこと自体が、今じゃ考えられないよね。

※ネット調べ


※焼き芋屋のおじさんに胸を触られた話は、時代は違うけど筆者が祖母から聞いたエピソードを使いました

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