幻聴に恋をして《第八夜》
車の中、がたがたと振動が響く
「日向、そろそろ病院つくわよ」
母に私は精神病院まで連れて行かれていた
「うん」
行きたくないな、あいつと離れるし
病院に着く、扉が開いて待ち時間が億劫でスマホを開く
あいつもスマホをさわれればよかったのだけれど
はぁ、早く帰りたい
看護師?みたいな人がなにか言っている
あ、私の名前か
「ほら、日向。行くわよ」
なにも言わずに母についていく
精神病院、というより、なんだっけ?心療内科?らしい
違いはわかんない
そんなどうでもいいことを考えてたい
部屋に入って、先生?と呼ばれてる人が明るく話しかける
「こんにちは、日向ちゃん?」
そう呼ばれる。大人なんて信用してない
皆自分のためにしか動かないのだから
「先生、ごめんなさい。この子そんな喋らない子で」
「そうみたいですね」
そういった先生は母と話し始めた
「最近、部屋での一人事が多くてー」
なんで私の前で話し始めるのさ
そっか、でも、あの影はやっぱり見えてないんだ
少しして、先生が母を外に出して部屋は私と、先生と、看護師さんだけになった
「日向ちゃん、見てて思ったけど大人と話すの苦手ではないよね」
「なんでそう思ったんです?」
意外だった。こういうところだから、喋らないで済むと考えてたのに
「皆結構椅子に座ること少ないんだよね」
あぁ、そういうこと。確かに入ってすぐに先生の前の椅子に座ったけど、病院なら当たり前だと思ってた
「なにか話したいんですか?母が大体のことは話してたと思いますけど」
「んー、聞いてない話題は一つあるかな」
「なんのことです?」
「日向ちゃんが話してるのは、誰かな?」
この人は何を言っているの
「今はあなたですけど」
「あはは、そうじゃなくて家で話してるのはだれ?」
影の事を聞いてるの?
「影のことです?」
「かげ?」
キョトンとする先生に私は少し呆れる
「もしかして、声じゃなくて誰かが見えるの?」
「そうですけど、なんならあいつお菓子も食べますよ」
「そうなんだ。珍しいね」
「珍しい、ですか?」
「まぁね」
この先生若くて話し方が子供みたい
よく、先生になれたね
「その影?はどんな感じなの?」
「どんな感じ、ですか?うざったらしくて、やたらとかまってくる感じ」
「消えて欲しいと思う?」
「まぁ、そうですね。うざいですし」
あいつが消えることなんてあるのかな?あ、そういえば誕生日の日に消えてたな
「じゃあ、お薬出しとくからしっかり飲んでね」
「わかりました」
〜〜〜
病院から帰ってきた夜
言われたとおりに、抗精神病薬?という薬を口に含んで水で流し込む
少しだけ多くて気持ち悪い
飲んで少ししてもなにも変化はなかった
まぁそうだよね
そんな簡単に治るわけないのだから
部屋に戻ろうとしてリビングの前を通る
「あら、日向。しっかりお薬のんだ?」
「飲んだよ」
「じゃあゆっくり眠れるわね。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
私がリビングを後にしたら
「これでやっと気持ち悪い独り言を聞かなくて済むわ」
ボソッと母が言ったのが聞こえたが、まぁ気にしなくて良い
「ただいま」
そう言って部屋に入る、と
『⋯』
返しはなく、影の姿もなかった
「え?うそ、だよね?」
そんな、一回お薬飲んだ、だけ。だよ?
「ねぇ、ほら、いつもみたいに隠れてるだけ、だよね」
私は独り言を言うしかなくて
あいつが出てきてから始めて独り言を言った気がする
〜〜〜
お昼寝から目を覚ます、そう、今日は日向が心療内科に行ってるみたい
暇だから、寝てたら。深夜じゃん
日向は寝ちゃったかな?
身体をベッドから起こすと、日向は床に座っていた
『ひなた、なにしーー』
聞こうと思って気づく、床が日向の手首から真っ赤に変わっていた
『ちょっと!なにしてるの!?』
立ち上がって、日向の銀色に光るものを持った手を引っ張る
「ごめんなさい、ごめんなさい」
『謝らなくていいから!なにしてるの、本当に!』
なんで、あなたは辛さを消すために病院に行ったんじゃないの?
「あなたの声が聞こえなくなって、お薬のせいだから、身体の中から抜こうとして」
『お薬?どれ』
なんでお薬飲んだら私の声が聞こえなくなるの?
「それ」
あなたが持った袋には抗精神病薬と書かれたいた
『こんなの、飲んだの?』
「うん」
『これは、私とあなたのつながりを切っちゃう薬なの』
「そうなの?」
『そうなの、大人なんてあなたが一番信用してないでしょ?なんで信じたの?』
「だって、楽になるって」
私はあなたにとって、邪魔なの?
『そんな薬もう絶対に飲まないで。それより早く傷塞いで、怒るよ』




