第1章・3幕 消えた喜朗
今回の登場人物
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◎灰谷家
・灰谷 墨子 (はいたにすみこ)
蛭子里の生まれで、朝友と喜朗とは幼馴染。母子家庭だったが、半年前の冬に母と姉が行方不明となり、灰谷家へと嫁ぐ。非力だが賢く、里でも若く美人との噂。
・灰谷 美継 (はいたによしつぐ)
朝友と墨子の息子。純粋無垢で、母・墨子を慕う健気な少年。真っ白い甚兵衛が特徴的。
・灰谷 朝友 (はいたにあさとも)
墨子と喜郎の幼馴染みで、墨子の旦那。墨子の境遇を想い、結婚に至る。里に小さいながらも畑を管理している。里でも良好なイケメン男子で通る。
・灰谷 儀兵衛 (はいたにぎへえ)
朝友の父で墨子の義父。編み笠職人で、口数は少なく、嫁に先立たれてからは家事は墨子にお願いしている。神奈備の中心まで傘を売りに行くことがある。
ーーー
・水戸部 雅代 (みとべまさよ)
喜朗の妻。育ちが悪く、喜朗の人の良さを利用する。美貌とスタイルは里でも墨子に引けを取らない上、それを武器として生きてきた。
・三条 勝巳 (さんじょうかつみ)
本編・三条勝太郎の実父。妻と勝太郎を捨てた後、何故か蛭子里へと流れ着く。里では近代的な男前、と評判だが、裏の顔は好色と貪欲の悪人。
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【前回までのあらすじ】
蛭子里に住む墨子は、山菜採りに北の森へと向かった、旦那・朝友と合流する為、後を追う。途中、幼馴染・喜朗の家に立ち寄るも、雅代から山菜採りに行ったからと、不在の旨を言われ、仕方なく北の森へ、息子・美継と向かう。
森で、朝友と合流するも、喜朗の姿は見えない。朝友は帰宅するも、墨子と美継は少し森を散策する。
美継も消え、墨子は探し回る内に蛭子神社へと辿り着くと、美継を発見。彼は喜朗を見たというも、時間を掛けても神主・神籬すら見つからず、一旦帰宅をすることになるが・・・
◎和都歴450年 7月12日
置田村・神奈備・北の森 17時
先月あった熊による、惨殺事件を思い出し、足早と蛭子神社から里へと急ぐ、墨子と美継。
「…!?」
背後に妙な気配を感じ、振り返る墨子。
ー…
変わらず沈黙の風が支配する森の道。
「お母?」
「…気味が悪いわ…行きましょ。」
2人はそのまま里への道を進む。
◎蛭子里 18時
墨子と美継は、里へと帰ってくると、急いで喜郎の家へと向かう。
その途中、里の官人・吉田 健右衛門とすれ違う。
「こんばんは。」
「あ、こんばんは~。」
吉田 健右衛門。蛭子里の官人の1人。現状、一番経験が豊富な故、官人所役・神奈備支部からの信用も厚い。紳士的で礼節を知る男として里でも名声がある。
墨子が挨拶を交わすと、笑顔で返す健右衛門。
里の官人は、時間で巡回をしている。
「…あれ?」
墨子は一瞬、妙な感覚を覚えたが、そのまま喜郎宅へ向かった。
「こんばんは~!ごめん下さい!喜郎、居ますか?」
墨子は喜郎宅の玄関で喜郎を呼ぶ。
ーガラッ!
「…まぁ~た墨子さんか…今度は何なの?喜郎ならずっと帰ってないから...」
羽織一枚の雅代が出てくる。
胸元が隠し切れていない姿で、ぶっきらぼうに話すと、ドアをすぐに閉めてしまう。
「…え?あ、あの…!」
呆気に取られる墨子。
「喜郎おじさん…帰ってないの?」
美継が不安そうに墨子に確認する。
「…そ、そうみたい…あれ?この匂い…」
墨子は鼻を鳴らしながら、同時に先程すれ違った、健右衛門の違和感の正体が、雅代の香水であることに気が付いた。
「…まさか?」
墨子は、喜郎と雅代の関係は良好とも聞かないが、険悪とも聞いていなかった。
昔から、何でも悩みを話し合える喜郎から、雅代の悩みを聞いていない。
墨子は、幼馴染みの喜郎の事とはいえ、夫婦間の事だし、あえてこれ以上は詮索はしなかった。
◎灰谷家 19時
墨子と美継は、帰宅するなり朝友に事の顛末を話す。
「何?喜郎が?」
「うん、消えちゃって…一体どこに消えたのか…」
朝友は驚き、墨子は話に念を押した。
「話はわかったし、気持ちも分かるが…蛭子神社は先月、熊の被害もあるし、近付くのは危険だよ?」
朝友は必死に止める。
墨子も美継も下を向いてしまう。
「…じゃあ、喜郎おじさんはどうするの?」
美継が反論する。
「う~ん…困ったな…じゃあ俺が明日にでも探しに行ってみるよ。」
「…うん…」
朝友が捜索する話に落ち着くも、どこか不安は拭えない美継。
「美継はもう寝なさい。」
「わかったよ…」
墨子は美継を寝かせると、朝友に近寄る。
「そういえば、雅代さんさ…浮気してない?」
「…え?」
「官人の健右衛門さん?とすれ違ったら、雅代さんと同じ香りがしたの…喜郎、知ってるのかな…」
墨子は、雅代の浮気に喜郎を案ずる。
「確証はないなら、あまり言わない方がー」
「ーわかってる、わかってるけど…喜郎は、根が優しいから、ホントは知ってても相談できないとか…喜郎の行方不明は、それも関連してたりしないのかなって?」
「…まあ、まずは喜郎を探し出さなきゃ、問いただす事も出来ないからな。その件は俺が預かる。8時にはお湯が沸く。墨子も汗を流したら明日は俺の代わりに谷川まで魚を頼む。」
「わかったわ。」
喜郎の件は朝友に任せ、明日は谷川へ魚を捕りに行く事となった墨子。
汗を流しに脱衣場へ向かおうとする。
「墨子さん。」
脱衣場の前で儀兵衛が墨子に話し掛ける。
「あ、お義父さん。どうしました?」
「あ…ああ。その、ちょっと酒のアテになる簡単なもの、作ってくれんか?」
「え?あ、はい。作ったら持っていきます。」
「すまないね。慌てんで良いんでな。」
儀兵衛は急に墨子にお願いをすると、部屋へ戻っていく。
◎水戸部家 20時
「ーちょっと、何?もう行っちゃうの?」
服を着ながら出掛ける準備をする勝巳に、不満げな態度で止める裸の雅代。
「今夜はな…急な用事があってな。お前だって喜郎が戻ったらコトだろ?今夜はゆっくり枕でヤってろ。」
そう言って出ていく勝巳を後に、枕を玄関に投げつける雅代だった。
次回2025/8/14(金) 18:00~
「第1章・4幕 情事」を投稿予定です。
※8月はお盆休み・強化月間です。
期間中は毎週(火)(金) 及び祝日18:00に投稿致しますので、御期待下さい。




