第1章・2幕 失踪
今回の登場人物
■ ▢ ■ ▢
・灰谷 墨子 (はいたにすみこ)
蛭子里の生まれで、朝友と喜朗とは幼馴染。母子家庭だったが、半年前の冬に母と姉が行方不明となり、灰谷家へと嫁ぐ。非力だが賢く、里でも若く美人との噂。
・灰谷 美継 (はいたによしつぐ)
朝友と墨子の息子。純粋無垢で、母・墨子を慕う健気な少年。真っ白い甚兵衛が特徴的。
■ ▢ ■ ▢
【前回までのあらすじ】
蛭子里に住む墨子は、山菜採りに北の森へと向かった、旦那・朝友と合流する為、後を追う。途中、幼馴染・喜朗の家に立ち寄るも、雅代から山菜採りに行ったからと、不在の旨を言われ、仕方なく北の森へ、息子・美継と向かった・・・
◎和都歴450年 7月12日
置田村・神奈備・蛭子里・北の森 12時
しばらく、いつもの採取場所で喜郎を探すと、旦那・朝友がやってくる。
「やあ、来たね。」
灰谷 朝友。墨子と喜郎の幼馴染みで、墨子の旦那。墨子の境遇を想い、結婚に至る。里に小さいながらも畑を管理している。里でも良好なイケメン男子で通る。
「喜郎を、どこかで見なかった?」
墨子が朝友に尋ねる。
「ん?いや。喜郎も今日、山菜採りに来てたのか?」
「家に寄ったんだけど、雅代さんがそう言ってたわ。喜郎の事だから、またここに居るかと思ったけど…」
朝友は返答する。
墨子は、雅代から喜郎が出掛けたことを知ると、いつものこの場所に来れば会えるだろうと思ったのだ。
「俺は粗方採ったけど、まだ少し美継と見ていくのか?」
「うん、少し散歩してから帰るよ。喜郎に会うかもしれないし。」
朝友は帰る素振りをすると、墨子は頷いて返す。
「一月前の熊の件もある。気をつけてな。」
朝友は里の方へと去っていく。
「お母、ちょっと奥まで探しに行ってくる!」
「気を付けてね。」
美継は、森の東側奥へと山菜を探しながらも歩いていった。
◎北の森 14時
「…美継も全然帰ってこないわ…まったく…」
墨子は、美継の安否も気になり、東へと歩み始める。
[スー…ファ~…スー…ファ~…]
茂みから、墨子を見つめる存在が不気味に立っていた。
「美継~!何処?」
墨子は、美継を呼ぶが返事がない。
更に東へ歩くと、道は南へと折れ、更に歩く。
「美継、美継!?」
行き着いた先は…
「蛭子神社まで来ちゃった…」
ー・・・あの時と・・・同じ・・・
墨子の脳裏に、母と姉の失踪が過る。
姉、鶴子。
15年ほど前に、神奈備の中心部の男と出逢い、度々会うようになると、男の家に普段は暮らしていた。
直ぐに結婚することも決まり、里を出て、嫁いだ鶴子。
しかし、去年の暮に、その男と別れることとなり、その後、里でまた家族一緒に住むつもりだと打ち明けられた。詳しくは話してくれなかったが。
そうなると報告をしに帰省した、その日にケジメの報告をとしたいと言い出した。
母と蛭子神社へ行くと言い残し、そのまま失踪した。
墨子にはそれが何か妙な気持ちを増幅させたのだ。
墨子はそのまま、鳥居をくぐり、随神門を抜ける。
「美継~!」
墨子は、美継の名前を呼びながら神橋を渡ると、正面の本殿の前に美継らしき子がいた。
「美継!」
墨子の叫びに気が付いた美継は、急いで墨子へと駆け寄る。
「お母!」
「美継!」
墨子は、美継を思い切り抱き締めると、顔を見る。
「ダメでしょ!この神社は最近は熊が出るんだから!」
叱りつける墨子。
「喜郎おじさんが居たんだ…」
「え?どこよ?」
美継の言葉を聞き、辺りを見回す墨子。
「喜郎は?何処行ったの?」
「わかんない…神社に入っていくのは見たよ?」
墨子の質問に、鳥居を指差して答える美継。
「…喜郎~!?」
今度は喜郎の名を呼ぶ墨子。
「…やだ、熊に襲われたりなんかしてないわよね…喜郎~?」
2人で喜郎の名を呼び始める。
◎蛭子神社 15時
しばらく、喜郎の名を呼ぶも、返事がないことに少し諦めかける2人。
「居なそうよ?ホントにいたの?」
「嘘じゃないよ、喜郎おじさんを見間違えたりしない!」
「う~ん…」
美継の答えに困り果てる墨子。
「そういえば、神籬さんは?神籬さんに聞いてみるわ。」
神籬とは昔からここで神主をしている男で、神奈備地区の副統括でもある。
墨子は、社務所へ向かう。
ーガチャ…
「すみませ~ん…神籬さん、居ますかぁ?」
受付は閉まっていたので、墨子はドアを開けて声をあげた。
ー…
沈黙なる答えが返ってくると、墨子は、何度か神籬の名を呼ぶも、答えは変わらなかった。
「どうなってるのかしら…?」
「お母、神籬さんも消えたの?」
「…わからない…出掛けてるのかな…ちょっと回って見ようか…」
墨子は、美継の手を引いて、授与所と神楽殿を回るも、人影はなかった。
◎蛭子神社 16時
「そろそろ帰らないと、帰り道で日が暮れちゃうわ。」
墨子が心配する。
「喜郎おじさんは?」
「…もう帰ってるかもよ?今日は戻ろう?」
「…うん。」
墨子は美継をなだめると、鳥居に向かって歩いていく。
鳥居の向こうの空は既に暗くなりかけていた。
[スー…ファ~…スー…ファ~…]
そんな2人を見つめる人影が、またしても神池の奥の茂みに存在した。
次回2025/8/11(火) 18:00~
「第1章・3幕 消えた喜朗」を投稿予定です。
※8月はお盆休み・強化月間です。
期間中は毎週(火)(金) 及び祝日18:00に投稿致しますので、御期待下さい。




