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神隠し ~蛭子神社の怪異~  作者: 船橋新太郎
第1章・和都歴450年 7~8月 ~灰谷 墨子編~
18/23

第1章・16幕 狂える花魁

今回の登場人物


■ ▢ ■ ▢


・灰谷 墨子 (はいたにすみこ)

蛭子里の生まれで、朝友と喜朗とは幼馴染。母子家庭だったが、半年前の冬に母と姉が行方不明となり、灰谷家へと嫁ぐ。非力だが賢く、里でも若く美人との噂。


・吉田 健右衛門 (よしだけんうえもん)

蛭子里の官人の1人。現状、一番経験が豊富な故、官人所役・神奈備支部からの信用も厚い。表向きは、その役職から紳士的で礼節を知る男として里でも名声があるが、実は権力により、弱者や女性を食い物にしてきたケダモノ。


ーーー


・?不気味な息遣いの者?

花魁が着るような、打掛を着た正体不明の怪異。不気味な息遣いをしながら里の者に迫る。


■ ▢ ■ ▢




【前回までのあらすじ】


蛭子里に住む墨子は、山菜採りに北の森へと向かった、旦那・朝友と幼馴染・喜朗に合流する為、北の森へ、息子・美継と向かう。

森で、朝友と合流するも、喜朗の姿は見えない。

時間を掛けても喜朗の姿は見えなかった。神主・神籬すら見つからず、一旦帰宅をする。


明くる日、黄田組が統治の名目で重税を徴収しに来ると、朝友は、灰谷家の分を出す。

黄田組は、次に向かう先は水戸部家。雅代が襲われそうになるところを助けるが、妙に恋心を抱かれる。

朝友は、喜朗・捜索の前に、時常と交わる雅代を見る。その際に、雅代の幸せの為にも、喜朗・捜索をしようと心に決めるが、時常は雅代を失うことに堪え切れず、喜朗・殺害を企てる。

朝友より早く、神社へと赴き、喜朗を探す時常に、不気味な息遣いの何者かが迫る。

翌日、時常が帰らない事に、不安を抱く凛。

里の皆、墨子と朝友、勝巳らを交えて話していると、黄田組の重税に苦しむ秀忠が現れる。今直ぐにでも黄田組と神籬に、話をつけたいと憤る秀忠に、健右衛門が、官人として黄田組へ向かう。

秀忠は、勝巳に焚き付けられるように皆の反対を他所に、神社へと向かっていってしまう。

秀忠は、神社へと着くと、社務所の和室まで入るも、入り口に気配を感じると、その後、行方不明となる。

その頃、健右衛門は、黄田組へと赴き、重税の件で交渉に来ていた。

新堂は、神社への偵察を引き受けると、健右衛門は里へ黄田組の税に対し、便宜を図ると約束する。

健右衛門は目的を果たし、里へと帰っていった。


新堂は神社へと部下と共に向かうと、蛭子里で偵察任務をしていた羽芝霞に遭遇。霞は奇襲を受け、辛くも離脱する。新堂らは、当初の目標、神籬と町田の生存確認へと神社へ向かう。

誰も見つからない新堂は、夜警をすると決め、その夜を迎える。

笹川は外の音を気にして、玄関に行くと、それは後藤が夜風に当たっていただけだった。

しかし、その奥で、不気味な息遣いの者が、二人を見つめていた。


3日後、交代で見張りをすることになると、後藤が残り、新堂は里へ、笹川は集会所へと戻る。

里に着くと新堂は健右衛門に、何事もないが誰も居ない報告を済ませ、集会所へと帰っていく。

健右衛門は、吉崎凛を寝取る為にも、吉崎時常殺害を目論む。


一方、墨子は、朝友が帰らない事に危惧し、神社を見に行くことに。家を出たところに、健右衛門と鉢合わせ、一緒に神社へ行くこととなる。しかし、神社に着くも、居るはずの黄田組は煙のように消えていた。

雨に濡れる墨子を見て、襲いたくなる衝動に駆られる健右衛門は、墨子を神楽殿の地下控え室へと追い詰める。3つの控え室で右に隠れる墨子に、左の部屋で健右衛門は誰かに遭遇したようだったが・・・



⦅墨子~…墨子ちゃ~ん…⦆


隣の部屋だろうか?声が響いてくる。


⦅どこかな~暗い方が…愉しむには…いいよね…?⦆


部屋を出たのか、声が近づく。


⦅何だか、スーハースーハーって音がするよ?息遣い荒くなってるね?墨子ちゃん?⦆


ーガラッ!


「ー!」

ビクッとするも、この部屋ではないようだ。少し遠のいた事から、一番左に行ったのだろうか。

(どうしよう…次こそバレちゃう…何か、何か考えないと、このままー)

⦅アレ~?そこに居るのは墨子ちゃんかなぁ?スーハースーハー、興奮してきたんだねェェ?⦆

健右衛門のいやらしい叫び声だ。

「え?私?いや、スーハー?私はここにー」


⦅ダメだよ~僕の愛を受け入れる気になってくれ…ん?んん?な、何だ?お前、墨子じゃない?⦆


ードタ!


健右衛門の慌てる叫び声と、転んだであろう音が聞こえる。


(…何?…誰?…何が起こってるの!?)

墨子は新たな恐怖に錯乱する。

⦅ひっ!ひぃぃっ!な、何だお前!?来るな!!す、墨子?どこだ?た、助けー⦆

健右衛門の叫び声が途絶える。


(ーな、何?一体…何?)

墨子は新たな恐怖にパニックに陥る。


⦅…い…いぃぃぃやぁぁアアアAAA!!⦆


健右衛門の断末魔だろうか。

甲高い声から最後、ドスの効いた声となったが。


ードサッ…


何かが倒れた音がする。


(他にも…誰か…居るの…かしら…もう…嫌…)

掠れるようなメンタルで、心の叫びに目を閉じる墨子。


[スー…ファ~…スー…ファ~…]

不気味な息遣いのような音が響き渡る。


(な…何…この音…人の息遣い…?近くなって…いや、隣の部屋…?)


不気味な息遣いはどんどん小さくなっていく。


恐怖のためか、刹那の時すら幾分にも感じる。

少し気を落ち着け、墨子は部屋を出る。


隣の部屋、不気味な息遣いをする者が入った中央控え室を覗く墨子。


「…あれ?」


不思議に思い、近づくと、更に降りる階段が続く。


「…な、何なの…」

嫌な気持ちになりながら、少し降りていくと、地下なのだろうか、雑な石造りで作られた大きなトンネルが続いている。


「嫌…嫌よ…」

そう言いながら、恐怖のあまり、中央控え室を出た場所まで引き返す墨子。


「そうよ、健…右衛門さんは…」


薄暗い中、墨子は健右衛門を探し、一番左の部屋へと入る。


「健…右衛門…さん…?」

掠れるような声で呼びかけ、前へと歩く。


「健右衛ー」


ードン…


何かが墨子の足に当たる。

下を向く墨子。


「きゃあああっ!!!」


墨子は、健右衛門と目が合うも、既に事切れていて、頭と両手は仰向けだが、カラダから下はうつ伏せで、右半身は炭化したのか真っ黒になっていた。


「…い、いやぁぁぁ…!!…な…何なの!?」


這い出しながら、左側控え室を出る。




[スー…ファ~…スー…ファ~…]

不気味な息遣いが聞こえる。



中央控え室の奥、地下トンネルの方から聞こえる不気味な息遣い、墨子は中央控え室を逃げながら見る。


[スー…ファ~…スー…ファ~…]


「…!」

墨子は驚く。その姿に。


[スー…ファ~…スー…ファ~…]


「ーお、お姉ちゃん?お母さん?」


墨子は、その刹那の時に、失踪した家族の余韻の様な、不思議なモノを感じたが、それ以上の邪気、殺意、呪詛、怨念…

あらゆるネガティブなモノが全身を覆うその姿に、危機感を覚える。


ー違う…逃げなきゃ…


[スー…ファ~…スー…ファ~…]


ーお姉ちゃんでも、お母さんでもない…


[スー…ファ~…スー…ファ~…]


ー逃げなきゃ…


[スー…ファ~…スー…ファ~…]


ー逃げなきゃ殺される…!


その姿は、一度見たら忘れない。

いや、忘れられない。


2メートル近い身長。

髪は花魁の様な横兵庫。

口元は綺麗な紅を塗り、目と鼻は、熊の生首から作ったであろうアイマスクで覆う。

首には付け替えたような縫い目がある。

紺を基調に赤い蝶の打掛を羽織り、赤と金糸の帯を巻く。


そして、あらゆる災厄を纏う様なその存在ー


[スー…ファ~…スー…ファ~…]


『狂える花魁』…そう呼称するに相応しいー


[スー…ファ~…スー…ファ~…]


ーまさに、異様!


「た…助けて…!!」

墨子は、上へと戻る階段を駆け上がる。

戸は開いていて、神楽殿の舞台へと出てくる。


「急げ…急げ!」

譫言(うわごと)の様に呟きながら舞台を飛び降り、膝を付くと、墨子は大雨と泥にまみれる。


「グウウ…」


「いや!今度は何?」

墨子は目の前に包丁を持つ男が立っている。

如何にも正気を保っていない風貌だ。


「…だ…誰…!誰なの!?」

墨子が大きな声で問う。


「グギャァァッ!」

男は包丁を振り上げる。

次回2026/10/16(金) 18:00~

「第1章・17幕 神器を操る者」を投稿予定です。

   

※10月はケダモノたちよ・2周年記念・強化月間です。

期間中は毎週(金) 及び祝日18:00に投稿致しますので、御期待下さい。

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― 新着の感想 ―
花魁、怖すぎますね。墨子は逃げ切れるのでしょうか、、
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