第1章・16幕 狂える花魁
今回の登場人物
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・灰谷 墨子 (はいたにすみこ)
蛭子里の生まれで、朝友と喜朗とは幼馴染。母子家庭だったが、半年前の冬に母と姉が行方不明となり、灰谷家へと嫁ぐ。非力だが賢く、里でも若く美人との噂。
・吉田 健右衛門 (よしだけんうえもん)
蛭子里の官人の1人。現状、一番経験が豊富な故、官人所役・神奈備支部からの信用も厚い。表向きは、その役職から紳士的で礼節を知る男として里でも名声があるが、実は権力により、弱者や女性を食い物にしてきたケダモノ。
ーーー
・?不気味な息遣いの者?
花魁が着るような、打掛を着た正体不明の怪異。不気味な息遣いをしながら里の者に迫る。
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【前回までのあらすじ】
蛭子里に住む墨子は、山菜採りに北の森へと向かった、旦那・朝友と幼馴染・喜朗に合流する為、北の森へ、息子・美継と向かう。
森で、朝友と合流するも、喜朗の姿は見えない。
時間を掛けても喜朗の姿は見えなかった。神主・神籬すら見つからず、一旦帰宅をする。
明くる日、黄田組が統治の名目で重税を徴収しに来ると、朝友は、灰谷家の分を出す。
黄田組は、次に向かう先は水戸部家。雅代が襲われそうになるところを助けるが、妙に恋心を抱かれる。
朝友は、喜朗・捜索の前に、時常と交わる雅代を見る。その際に、雅代の幸せの為にも、喜朗・捜索をしようと心に決めるが、時常は雅代を失うことに堪え切れず、喜朗・殺害を企てる。
朝友より早く、神社へと赴き、喜朗を探す時常に、不気味な息遣いの何者かが迫る。
翌日、時常が帰らない事に、不安を抱く凛。
里の皆、墨子と朝友、勝巳らを交えて話していると、黄田組の重税に苦しむ秀忠が現れる。今直ぐにでも黄田組と神籬に、話をつけたいと憤る秀忠に、健右衛門が、官人として黄田組へ向かう。
秀忠は、勝巳に焚き付けられるように皆の反対を他所に、神社へと向かっていってしまう。
秀忠は、神社へと着くと、社務所の和室まで入るも、入り口に気配を感じると、その後、行方不明となる。
その頃、健右衛門は、黄田組へと赴き、重税の件で交渉に来ていた。
新堂は、神社への偵察を引き受けると、健右衛門は里へ黄田組の税に対し、便宜を図ると約束する。
健右衛門は目的を果たし、里へと帰っていった。
新堂は神社へと部下と共に向かうと、蛭子里で偵察任務をしていた羽芝霞に遭遇。霞は奇襲を受け、辛くも離脱する。新堂らは、当初の目標、神籬と町田の生存確認へと神社へ向かう。
誰も見つからない新堂は、夜警をすると決め、その夜を迎える。
笹川は外の音を気にして、玄関に行くと、それは後藤が夜風に当たっていただけだった。
しかし、その奥で、不気味な息遣いの者が、二人を見つめていた。
3日後、交代で見張りをすることになると、後藤が残り、新堂は里へ、笹川は集会所へと戻る。
里に着くと新堂は健右衛門に、何事もないが誰も居ない報告を済ませ、集会所へと帰っていく。
健右衛門は、吉崎凛を寝取る為にも、吉崎時常殺害を目論む。
一方、墨子は、朝友が帰らない事に危惧し、神社を見に行くことに。家を出たところに、健右衛門と鉢合わせ、一緒に神社へ行くこととなる。しかし、神社に着くも、居るはずの黄田組は煙のように消えていた。
雨に濡れる墨子を見て、襲いたくなる衝動に駆られる健右衛門は、墨子を神楽殿の地下控え室へと追い詰める。3つの控え室で右に隠れる墨子に、左の部屋で健右衛門は誰かに遭遇したようだったが・・・
⦅墨子~…墨子ちゃ~ん…⦆
隣の部屋だろうか?声が響いてくる。
⦅どこかな~暗い方が…愉しむには…いいよね…?⦆
部屋を出たのか、声が近づく。
⦅何だか、スーハースーハーって音がするよ?息遣い荒くなってるね?墨子ちゃん?⦆
ーガラッ!
「ー!」
ビクッとするも、この部屋ではないようだ。少し遠のいた事から、一番左に行ったのだろうか。
(どうしよう…次こそバレちゃう…何か、何か考えないと、このままー)
⦅アレ~?そこに居るのは墨子ちゃんかなぁ?スーハースーハー、興奮してきたんだねェェ?⦆
健右衛門のいやらしい叫び声だ。
「え?私?いや、スーハー?私はここにー」
⦅ダメだよ~僕の愛を受け入れる気になってくれ…ん?んん?な、何だ?お前、墨子じゃない?⦆
ードタ!
健右衛門の慌てる叫び声と、転んだであろう音が聞こえる。
(…何?…誰?…何が起こってるの!?)
墨子は新たな恐怖に錯乱する。
⦅ひっ!ひぃぃっ!な、何だお前!?来るな!!す、墨子?どこだ?た、助けー⦆
健右衛門の叫び声が途絶える。
(ーな、何?一体…何?)
墨子は新たな恐怖にパニックに陥る。
⦅…い…いぃぃぃやぁぁアアアAAA!!⦆
健右衛門の断末魔だろうか。
甲高い声から最後、ドスの効いた声となったが。
ードサッ…
何かが倒れた音がする。
(他にも…誰か…居るの…かしら…もう…嫌…)
掠れるようなメンタルで、心の叫びに目を閉じる墨子。
[スー…ファ~…スー…ファ~…]
不気味な息遣いのような音が響き渡る。
(な…何…この音…人の息遣い…?近くなって…いや、隣の部屋…?)
不気味な息遣いはどんどん小さくなっていく。
恐怖のためか、刹那の時すら幾分にも感じる。
少し気を落ち着け、墨子は部屋を出る。
隣の部屋、不気味な息遣いをする者が入った中央控え室を覗く墨子。
「…あれ?」
不思議に思い、近づくと、更に降りる階段が続く。
「…な、何なの…」
嫌な気持ちになりながら、少し降りていくと、地下なのだろうか、雑な石造りで作られた大きなトンネルが続いている。
「嫌…嫌よ…」
そう言いながら、恐怖のあまり、中央控え室を出た場所まで引き返す墨子。
「そうよ、健…右衛門さんは…」
薄暗い中、墨子は健右衛門を探し、一番左の部屋へと入る。
「健…右衛門…さん…?」
掠れるような声で呼びかけ、前へと歩く。
「健右衛ー」
ードン…
何かが墨子の足に当たる。
下を向く墨子。
「きゃあああっ!!!」
墨子は、健右衛門と目が合うも、既に事切れていて、頭と両手は仰向けだが、カラダから下はうつ伏せで、右半身は炭化したのか真っ黒になっていた。
「…い、いやぁぁぁ…!!…な…何なの!?」
這い出しながら、左側控え室を出る。
[スー…ファ~…スー…ファ~…]
不気味な息遣いが聞こえる。
中央控え室の奥、地下トンネルの方から聞こえる不気味な息遣い、墨子は中央控え室を逃げながら見る。
[スー…ファ~…スー…ファ~…]
「…!」
墨子は驚く。その姿に。
[スー…ファ~…スー…ファ~…]
「ーお、お姉ちゃん?お母さん?」
墨子は、その刹那の時に、失踪した家族の余韻の様な、不思議なモノを感じたが、それ以上の邪気、殺意、呪詛、怨念…
あらゆるネガティブなモノが全身を覆うその姿に、危機感を覚える。
ー違う…逃げなきゃ…
[スー…ファ~…スー…ファ~…]
ーお姉ちゃんでも、お母さんでもない…
[スー…ファ~…スー…ファ~…]
ー逃げなきゃ…
[スー…ファ~…スー…ファ~…]
ー逃げなきゃ殺される…!
その姿は、一度見たら忘れない。
いや、忘れられない。
2メートル近い身長。
髪は花魁の様な横兵庫。
口元は綺麗な紅を塗り、目と鼻は、熊の生首から作ったであろうアイマスクで覆う。
首には付け替えたような縫い目がある。
紺を基調に赤い蝶の打掛を羽織り、赤と金糸の帯を巻く。
そして、あらゆる災厄を纏う様なその存在ー
[スー…ファ~…スー…ファ~…]
『狂える花魁』…そう呼称するに相応しいー
[スー…ファ~…スー…ファ~…]
ーまさに、異様!
「た…助けて…!!」
墨子は、上へと戻る階段を駆け上がる。
戸は開いていて、神楽殿の舞台へと出てくる。
「急げ…急げ!」
譫言の様に呟きながら舞台を飛び降り、膝を付くと、墨子は大雨と泥にまみれる。
「グウウ…」
「いや!今度は何?」
墨子は目の前に包丁を持つ男が立っている。
如何にも正気を保っていない風貌だ。
「…だ…誰…!誰なの!?」
墨子が大きな声で問う。
「グギャァァッ!」
男は包丁を振り上げる。
次回2026/10/16(金) 18:00~
「第1章・17幕 神器を操る者」を投稿予定です。
※10月はケダモノたちよ・2周年記念・強化月間です。
期間中は毎週(金) 及び祝日18:00に投稿致しますので、御期待下さい。




