第一章5『 ミラーマンVS木村エミリーと俺‼』
「……嘘でしょ。ユリナ、この映像は事実なの⁉」
銃弾を放った松丘ユリナに、木村エミリーは衝撃を受け、涙ながらに訴えかけた。
「エミ、私はね…気づいちゃったんだ。人間って結局のところ自分が一番可愛くて、愛おしくて仕方ない生き物だってことをね。だからさ、気に食わない奴がいたら精神的に痛めつけたくなっちゃってさぁ~」
ユリナは不敵な笑みを浮かべ、誰とも視線を合わせずに応じる。手早く次弾を装填すると、今度は銃口を俺に向けてきた。
「大谷君だっけ?どこで、その映像を入手したのかはわからないけれど……私は自分のために真実を知った以上、貴方達を殺さなくてはならなくなったわ。正直言って私、笹倉のように人を殺るのは、あんまり好きじゃないんだけど仕方ないわよね!」
――バン‼バン‼
俺にウインクを寄越した直後、ユリナは俺とエミリーに向けて立て続けに引き金を引いた。
「――大丈夫か‼エミリー、怪我はないか?」
ユリナの行動を直感的に予測し、俺は銃弾から庇うようにエミリーの体へ飛びかかっていた。
「あ、ありがとうございます。私は大丈夫ですが……どん吉君⁉脇腹に血が‼」
自身への一発は回避できたものの、エミリーを狙ったもう一発が左脇腹を掠めていた。
「……俺は大丈夫だ。この程度の状態なら動ける。ところで木村さん、今からハンター兵器を使って戦うことはできるか?」
エミリーの無事を確かめ、俺は出血する脇腹を左手で圧迫しながら身を起こす。ブラックリストハンターが常備する対超能力者抑止兵器――通称『ハンター兵器』を彼女が所持しているか、確認する必要があった。
「……え?そんなもの、今は持ってきていませんよ!それに、まだ私は学生ですので学校の承認無しにハンター兵器を使うことは許されていませんし‼」
ライセンスを持たないハンター科の学生であるエミリーは、学校の承認なしに専用兵器を携行できない決まりのようだ。
本来、ユリナ程度のレベルの能力者ならエミリーでも十分に対応可能なはずだった。
未成年でもプロである俺は携行を許可されているというのに、候補生の学生は使えないとは初耳だった。
――ハンターを目指す学生こそ、こうした不測の事態に備えて専用兵器の常備を許可すべきではないのか?
だが、ブラックリストハンター協会や養成機関の人間は、揃いも揃って頭の固い連中ばかりだ。
ルール変更に異を唱えようものなら、権力を笠に着た保守的なベテランたちが黙ってはいないだろう。
幼少期から俺にハンター道を説いてきた頑固な親父が、まさにその協会の現会長なのだから、内部事情はよく理解している。
「チィッ!仕方ねーな、俺がハンターとしてコイツと戦ってやるよ!えっ、ええ⁉️ちょっと、待って……」
俺は覚悟を決めてしゃがみ込み、愛用の兵器を取り出すべく鞄のファスナーに手をかけた。
しかし、中に詰め込まれていたのは、俺の趣味とはかけ離れたBL(=ボーイズラブ)漫画の数々だった。
「この鞄は確か……ユリアの!クソッ‼️」
同じ学校に通う一学年下の妹、大谷ユリアは熱心なBL漫画ファンだ。この土壇場で、妹の通学鞄と自分のものを取り違えた事実に気づかされた。
「もしかして……ハンター兵器を持ってくるのを忘れたなんてことはないですよね?」
敵に対抗する唯一の希望として、エミリーが期待の眼差しを向けてくる。
――しかし、その期待に応えられない俺は、正直に打ち明けるしかなかった。
「ごめん!木村さん、ハンター兵器を忘れてしまった。三〇分待つ。至急、ハンター兵器を借りに行ってくれないか?それまで、俺がコイツの相手をする!大丈夫さ、こう見えても俺は史上最年少の一五歳でブラックリスハンターライセンスを取得した男だぜ‼」
俺は堂々とハッタリをかます。
同時に、自分自身の潜在能力に賭けた。
今は何の策もない。
だが、武器なしでミラーマンと渡り合う中で、活路を見出せるはずだ――。
「――状況が状況なので引き受けますけど正直言ってハンターとして、どん吉君を見損ないましたよ‼ハンター兵器を忘れるブラックリストハンターって、今まで噂程度にしか聞いたことがなかったのですが本当にいるんですね!」
言い終えると、エミリーはすぐさま立ち上がり、屋上から駆け去っていった。
「おう、すまん‼引き受けてくれて、ありがとう……どのみち、現時点でエミリーを信じる以外に俺のできることはないからな」
エミリーと出会ってまだ半年。決して深い付き合いとは言えない。彼女が本当に協力してくれる保証はどこにもない。むしろ、超能力者を前にして武器を忘れるような間抜けなハンターなど、信頼できるはずもなかった。
俺を見捨てて逃げる選択肢だってある。ここでハンターが一人殉職しようと、彼女の知ったことではないのだ。
それでも、俺はエミリーに賭けた。
彼女が兵器を届けてくれるまで生き延び、ミラーマンを打ち破る。その最高の結末を現実にするため、今やれることを全力でやるしかない。
たとえ、兵器が届く前に命尽きようとも――。
「フフッ、アナタのことを笹倉から色々と聞いて少し警戒していたけれど、まさかハンター兵器を忘れる馬鹿だったとは思いもしなかったわ!」
俺が丸腰であることを見抜いたユリナは、高笑いを響かせながら再び銃口をこちらへ突きつける。
「馬鹿って、俺のことを言っているのかな?まだ気づかないのか?お前なんてハンター兵器があれば楽勝だ。普通に戦って勝ったら面白くねぇ~からハンデを今、与えてやっている‼」
額に滲む冷や汗を隠し、俺は精一杯の虚勢を張る。そして、足元に転がっていた黒い傘を拾い上げ、刀のように両手で構えた。
すると、松丘ユリナ――懸賞金五百万円の賞金首『ミラーマン』は、俺の内心を見透かしたように挑発を重ねてくる。
「――口ではなんとでも言えるわね。さっきから汗がすごいわよ。本当は怖いんじゃないの?無駄な抵抗をしなければ楽に、あの世へ送ってあげるわよ」
その言葉に、俺は恐怖を押し殺して言い放った。
「おいおい、俺を誰だと思っている?仮にも史上最年少の一五歳で国際ブラックリスハンターライセンスを取得した、あの大谷どん吉だぜ。証明してやるよ!俺は奇跡を起こす男だってことを‼」
宣言と同時に、俺は傘を片手にミラーマンへ向かって駆け出した。




