第一章3『放課後の屋上と俺‼』
「――君が、噂のミラーマンだよね」
作戦決行日まで、残りは三日。
放課後の嵐山高校の屋上は、テニスコート二面分ほどの広さがある。俺は、その場所に黒のパーカーと灰色のミニスカートを身につけた、痩身の松丘ユリナを呼び出していた。彼女は眼鏡をかけていた。
「急にユリナを呼び出して何を言い出すかと思っていましたが、それは本当なのでしょうか?いったい何を根拠に言っているのですか⁉」
俺の唐突な一言に、まず動揺したのは木村エミリーだった。彼女は驚きに目を見開き、信じがたいといった面持ちで首を捻る。
「はあ?前に会った時にも言ったけど私は被害者なのよ。さっきから何を言っているのか、さっぱりわからないです。そこまで言うのだったら証拠はあるの?証拠は‼」
続いて、当の松丘ユリナが声を荒らげた。
ユリナは昨日、黒木さん経由のメールで俺から「ミラーマンに関して大事な話がある」と伝えられていたのだ。
活動を休止しているにもかかわらず、縁もゆかりもない高校の屋上へ呼び出されたのだから、彼女の機嫌が悪いのも無理はない。
そのうえ、ミラーマン本人だと疑いをかけられているのだ。彼女が証拠を求めて激昂するのも当然だろう。
しかし、俺はこの数日で、彼女――松丘ユリナがミラーマンであるという決定的な証拠を掴んでいた。
俺は足元にスクールバッグを下ろし、しゃがみ込んでジッパーを開ける。中から取り出したのは、13インチほどの小型テレビだ。
複雑に折れ曲がった五本のアンテナが生え、側面にはUSBポートが一つだけ見える。リモコンと共に、俺はそれを片手で持ち上げた。
「証拠なら、このパストテレビで見たよ。このパストテレビは俺の叔父さん――大谷新一が開発した発明品で、過去一〇年以内の地球上の映像を日付と場所とカメラの位置を細かく入力できれば動画として再生できる代物なんだよ。君がミラーマンの被害者を演じていた経緯も、このパストテレビで知ったよ。今から、その映像を見てみるか?」
以前、依頼を引き受ける前は、プライバシーを考慮し本人の同意なく調査することはできないと伝えていた。
だが、事件性があると判明した以上、話は別だ。たとえ依頼人であっても、俺は許容範囲内で徹底的に調べ、真実を追及する。
「フフッ、出鱈目なテレビの映像なんて証拠にもならないわね!」
ユリナは俺の言葉を鼻で笑い、顔を背ける。
「――ちょっと待ってください。過去一〇〇年までの地球上の映像を見ることができるテレビなんて発明できたらノーベル賞ものの大発明ですよ!いくら映像を見せられても本当に起きた出来事かどうかは判断できませんよ」
木村さんも、叔父の発明品であるパストテレビの存在に、当然ながら疑いの目を向けていた。
俺は名刑事でも名探偵でもない。
鮮やかな推理を披露して、動かぬ証拠を突きつけることなど不可能だ。
だからこそ、この常軌を逸した装置が映し出す映像を見せるしかない。
それ自体が法的な証拠にはならないだろうが、松丘ユリナのこれまでの言動が、ミラーマンと同一人物でなければ説明のつかない点を示すことができるはずだ。
「いいか、とにかく映像を見てくれ。後で補足するから!今はパストテレビが実在するかどうかよりも先に、実在したという仮定で聞いてくれ。なぜなら、彼女――松丘ユリナは今の警察が調べられる証拠はすべて抹消しているからね」
俺は二人の前にパストテレビを置くと、制服の内ポケットからリモコンを取り出し、再生ボタンを押した。




