第三章1『告白と新たな友達と俺!!』
いよいよ、第三章開幕です!ここまでこられたのも皆さんのおかげです。宜しくお願い致します‼
二一五六年四月二十八日、午前三時。平日。
つい最近の休日も変な中学生を相手にすることになり、俺は平日に至るまで満足な休息を取れずにいた。
それゆえに平日がいつの間にか巡ってきており、自分でも「アップテンポな人生だな」と感じずにはいられなかった。
――ドンッ!
そんな渦中にもかかわらず、俺は今日を勝負どころと踏み、マキを文芸部の部室内へ呼び出していた。
すでに閉まっているドアへ勢いよく壁ドンし、彼女と至近距離で向かい合う。
「部長……いや、マキ!ずっと俺は君のことが好きだった。もう、自分の気持ちに嘘がつけない」
毎週水曜日が休みで誰もいない放課後の部室内。
思い切って俺は真顔で佐々木マキへ本心を伝えた。
すると、マキは頬を赤らめながら目を細め、横を向いて言った。
「……ごめんなさい。よくよく冷静に考えてみたら私たちって、そういう関係っていうよりも友達じゃないのかな?」
「――はっ、ええっ⁈」
思いもよらない彼女の「友達」発言に俺はドアから手を放し、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
「噓だあ~冗談だよね?じゃあ、今までのいい感じの雰囲気はなんだったんだよ……」
俺はミラーマンの一件後に見せた部長のひどく動揺した仕草に、「いや、これ絶対脈ありだろ」という根拠のない確信を抱いていた。
それゆえ舞い上がり、妄想を膨らませていたのだ。
連日、夜になれば彼女を想って股間を手でこすってフィニッシュする日々を送っていた。
加えて、お互い緊張してしまい、なかなか話しかける機会を作れずにいた。
そこで付き合いたい気持ちを伝えるべく、即座に彼女へ「放課後、大事な話がある」とララインを送り、今回のシチュエーションに持ち込んだというわけである。
しかし、彼女の認識では俺は単なる「友達」でしかなかったようだ。
「勘違いさせちゃったのなら、ごめんなさい。私は友達として、どん吉君のことは嫌いじゃないの。だから……できれば今の関係を続けていけたらいいな~って思うのだけれども、どうかな?」
マキは動揺して目が泳ぐ俺と視線を合わせようとはせず、珍しく下を向いたまま語りかけてくる。
「――じゃあ、俺のどこがダメなの?教えてよ!!」
俺は鬼の形相で彼女の肩を両手で掴み、問い詰めた。
「……強いて言うなら、そういうところかな?でも、私のことを好きなってくれてありがとう」
マキは申し訳なさそうに一礼した。
「そういうところ」の意味は判然としないが、おそらく生理的に無理ということなのだろうか?
これ以上何を言っても響かないことを悟った俺は、彼女から手を放し、即座に背を向けた。
背を向けた一番の理由は、失恋の悔しさと惨めさで泣きそうになっている顔を見られたくなかったからだ。
「はあ……そうか!わかった。これからも、友達としてよろしくな」
「……う、うん。よろしく」
ガラガラガラ……ガラッ。
部室のドアが開き、閉まる音が響く。
それは彼女が速やかに部屋を退室したことを意味していた。
「……はあ~、マジかよ!何でだよ!!」
訳もわからぬまま溜息をつくことしかできない俺は、らしくもなく鼻を赤くし、目から雨粒を滴らせていた。
今思えば無理もない。
これが人生で初めて体験する失恋だったからだ。
今まで誰にでも興味を示すものの、自分から声をかける状況を作ること自体が苦手で(※ブラックリストハンター関連のことは除く)、俗にいうチキンであった俺には当然の報いであった。
「まあ、起きてしまったことは仕方がない。次に行こう、次に!ああ、マジで彼女が欲しい!!」
俺は制服のズボンの右ポケットから青いハンカチを取り出して涙を拭い、一人でそう呟いた。
「……プㇲッ!」
「…クスクスッ!!」
突如、奇妙な息づかいが廊下から聞こえてきた。
俺はハンカチをポケットに戻すと、猛スピードでドアを開けて廊下へ飛び出した。
「……おい、コラッ!誰か、近くで見ているのか!?隠れてないで出てこい!!」
盗み聞きしている輩がいると察した俺は、人の不幸を笑う不心得者を誰もいない場所へ連れ出し、ビンタをお見舞いしてやろうと意気込んでいた。
「そう、自棄になるなよ……」
「とにかく落ち着いて、ねえ?落ち着いて……」
部室のドア横でしゃがみ、会話を盗み聞いていたと思われるのは、同じクラスの男子生徒である早田レイジと宮田シンタロウだった。二人は冷や汗をかいている。
早田は小柄な角刈りデブの野球部員で、当然ベンチにも入れない控え選手。一方、宮田は細身の体型に マッシュルームヘア、赤い眼鏡をかけたゲーマーで、卓球部の幽霊部員であった。
パッとしない陰キャの二人にとって、俺の放つオーロラ級のオーラに圧倒されるのは無理もないことかもしれない。
まあ、俺は仮にもブラックリストハンターだからな。
怯えるのも当然だろう……。
「――落ち着いていられるかよ!で、何処まで聞いていたのかな?正直に話してくれたら許してやる」
俺は不敵な笑みを浮かべ、軽く右肩を回した。
「す、すいません。俺たち、ほとんど聞いていました!」
「絶対に誰にも言いませんので許してください!何でもしますから!!」
二人はその場で土下座し、涙目になっていた。
「う~ん、何でもか……じゃあ、俺と友達になってよ!」
俺は腕を組み、少し考えを巡らせた。
結果として、自分には男友達がいないことに気づいたのだ。
文芸部では運よく部長が最初に声をかけてくれたのを機に会話が弾み、たまたま趣味の合う部員が全員女子だったため、なんとなく漫画やアニメの話で仲良くなっていった。
しかし、これまで男の友人は一人もいなかったのだ。
父主導によるブラックリストハンターへの英才教育が障害となっていたのは言うまでもないが、それ以外にもハンターとして有名になったことで、周囲が特異な存在として警戒し、誰も話しかけてこなかったという経緯がある。
そのため、俺は何気ない友人同士の会話を漫画の中でしか見たことがなかった。
「えっ、そんな事でいいの?」
「俺たちでよかったら、喜んで!」
彼らは頭を上げ、意外そうな表情を浮かべた。
察するに、「ブラックリストハンターは何を考えているか計り知れないと思っていたが、案外自分たちと変わらない普通の人なのかもしれない」とでも考えているのだろうか。
「じゃあ、まずはララインを交換しよう」
俺は制服の内ポケットからスマートフォンを取り出し、画面をタップして自身のQRコードを表示・提示した。
「じゃあ、読み取るわ」
「あとで、テキトーにスタンプ送るね」
二人は立ち上がり、ズボンのポケットからそれぞれの端末を取り出してQRコードを読み込んだ。
「お、おう……また連絡するわ!これからも、よろしくな!!」
連絡先の交換を終えた直後、俺は彼らと握手を交わした。
「はい、一生ついていきます!!」
「うっす!何でもします!!」
威勢のいい声を上げ、握手を終えた二人は揃って敬礼をしてきた。
「……うん?」
初めてできた友人の謎の勢いに少し首をかしげたものの、男の友情とはこういうものなのだろうと納得した。
その場でお互いに手を振り、彼らと別れる。
「――やった!初めての男友達とのラライン交換!!不自然じゃなかったかな?」
彼らと別れた後、そう呟いた俺の顔には、自然と笑みがこぼれていた。
ずっと想いを寄せていた佐々木マキ(部長)にフラれた直後の出来事であったにもかかわらず……。




