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大谷どん吉の超・ソウサク記   作者: 御王礼
第二章『中学生と俺‼』
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第二章7『希望的観測と俺‼』

  ――翌朝の後日談。


  シャンデリアが煌めく、天井の高い自宅のリビング。

  制服姿の俺は、市松模様のテーブルクロスが敷かれた長いテーブルの前に腰掛けていた。


  テーブルには大谷家専任のシェフが用意した卵サンドが置かれており、俺はそれを両手で掴んで頬張る。


「おっは~お兄ぃ゙!」


 快活な挨拶と共に、妹のユリアが隣の席に座った。嵐山高校の制服に身を包んだ彼女は、身長一四九センチほどの小柄な体躯に、おかっぱ頭がよく似合っている。


 自分で染めたという鮮やかなオレンジ色の髪と、その派手さを抑えるためか黒い縁の眼鏡をかけており、帰国子女のような独特の雰囲気を醸し出していた。


  ちなみに彼女の夢は、平成の大声優と名高い悠◯碧を超える人気声優になることだ。


「――よおぉ、おはよ。元気いいな、どうした?」


 常にも増して上機嫌なユリアの様子に、俺は不思議に思って尋ねた。すると彼女は、輝くような笑顔で答える。


「フフッ、実は2,5次元俳優のスタスターリッシュ君の武道館でやるライブチケットが当たったんだ。昨日は楽しみで眠れなかったわっ!」


興奮気味に語る口調は、オタク特有の早口になっている。


「へぇ~、誰だい?そいつは?またBL漫画関連の人間か?」


 つい先日、ユリアのBL漫画で手痛い目に遭った経験から、彼女の趣味を把握し、二の舞を避けようと探りを入れた。


「ええっ!マジ⁉スタスターリッシュ君を知らないの?生活保護から登録者100万人のVチューバーとなった、覆面歌手だよ‼ほら、テレビにも今、出ているじゃん!」


 ユリアに促され、俺はリビングに置かれた二百インチの大型テレビに視線を移す。

 ニュース番組では、能面を被った金髪の青年が、ライブ会場で美声を響かせていた。俺とさほど変わらない年頃に見える。」


「この若さで元生活保護ってことは、両親はいないのか?可哀想に……」


 青年の姿に昨日の不良の面影が重なり、俺は良く知りもしないのに、無責任な言葉を口にしてしまった。

 俺の物言いに苛立ったのか、ユリアが反論する。


「でも彼は、いつも言っているよ。自分には血のつながった家族はいないけれど、これだけ多くのファンに応援されて支えてもらってきたから今が楽しいって!別に両親がいなくて生活保護を受けていたからといって勝手に愛情を受けていないなんて言っちゃ駄目だよ」


 俺は食べかけのサンドイッチを皿に戻し、深く頷いて妹に謝罪した。


「確かに、そうだな。結局のところ人生は楽しんだもの勝ちだからな。今のは俺が悪かったな。いや……人って怖いな、いつの間にか差別的に見てしまうこともあるからな」


 何気ない雑談に潜む刃に気づかされ、俺は襟を正す思いだった。


「――わかればいいの。でさ、そんな事をさっきから詳細に聞いてくるってことはもしかしてお兄ぃ゙もBLに目覚めちゃった?実は彼、このBL漫画の主人公の声優もやっているのっ!」


 ユリアは鼻息荒くブレザーの内ポケットからスマートフォンを取り出すと、大好きなBL漫画の表紙を見せつけてきた。


 画面で微笑む高身長の金髪イケメンを指さし、俺に詰め寄ってくる。


「やれやれ、何度も言うがBL漫画に興味はない。漫画といえばボーイミーツガールが定番で、そこから友情、努力、勝利する形で集結するのがいいんだよ!」


 将来、俺は尾田栄一郎を超えてノーベル文学賞を受賞する男だ。


 LGBTQが尊重される現代においてBL(=ボーイズラブ)を否定する気は毛頭ない。

 しかし、従来の男女間の恋愛や、友情・努力・勝利を主題とした王道の物語を愛する俺にとって、BL漫画は食指が動かないジャンルだった。


「まあ、無理には進めないわ。お兄ぃ゙にも何れわかる時が来るわ。男同士の禁断の恋愛模様に萌える瞬間が!また、こっそり鞄に布教用のBL漫画いれとくから、こっそり読んでいいんだよ……」


 ユリアが小さな声で耳打ちしてくるが、読みたいという意欲は一向に湧いてこない。


「や、やめろ!そんなものが学校で見られたら勘違いされるだろ!絶対に入れるなよ‼」


「腐腐腐っ、それは、フリというやつですか?」


「――馬鹿!そんなわけねーだろ‼」


「別に見られてもいいじゃん。お兄ぃ゙、学校では友達いないじゃん」


 家業のせいか、校内で俺に話しかけてくる者はいない。周囲からは「なぜ普通科にいるんだ」と思われていることだろう。


 ブラックリストハンター界隈に知人はいるが、仕事上の付き合いで友人とは呼べない。

 文芸部の仲間は、共に創作に励むライバルではあるが、女子ばかりで浮いた存在なのは否めなかった。


 ――もっとも、友人がいなくても辛いと感じたことはなく、一人でも人生は十分に楽しい(※俺は!)。


「おい、さらっと傷つく事を言うな!そんなこと言っていると将来、結婚できなくなって孤独死するぞ‼」


「別に、いいもん。私にはイケメン男子たちの二次元の推しがいるから❤一人でも悲しくないもん!」


 鞄に忍ばされたBL漫画が学校で露見する場面を想像するだけで、背筋が凍る。今後は家を出る前に、鞄の中身を入念にチェックしようと心に誓った。


 ちなみに、ユリアが熱弁していたスタスターリッシュ君のアップテンポな曲のタイトルは『これからだ‼』というらしい。


 あの不良リョースケという少年も、彼のように前向きな言葉を胸に、理想の未来を掴み取ってほしい。


 そしていつか、立派になった姿で再会できたら――。


 なんて希望的観測を胸に、俺は一人静かに微笑んでいたのだった。


第二章完結です。次にアナザーエピソードを追加して第三章に入る予定です。宜しくお願い致します。

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