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大谷どん吉の超・ソウサク記   作者: 御王礼
第二章『中学生と俺‼』
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第二章6『大嘘〈ハッタリ〉と俺‼』

 降りしきる雷雨の中、俺は傘を差して家路を急いでいた。


 河川敷沿いの道を速足で進む俺の隣には、同じく傘を差した木村エミリーが寄り添うように歩いている。


「ところで、どん吉君。あのプロジェクターは本当に、どん吉君が作ったのですか?」


 先ほどの不良・リョースケとの一件を断片的に耳にしていたのだろうか、エミリーがプロジェクターの件を尋ねてきた。


「――そんな訳あるかよ。俺は複数の生成AIを駆使して、それっぽい道具に見せかけただけだ。今後、どれだけ技術革新が進んでも人が死んだ先のことを知ることはできないよ」


 俺は種明かしをした。あの小型プロジェクターは発明品などではない。


 チャットGPT一〇〇やスーパージェミニサーティーといった生成AIツールを駆使し、故人であるリョースケの母親のデータと俺の意向を組み合わせて、人工的なアバターを作り出したに過ぎない。

   

 つまり、俺は彼についた大嘘〈ハッタリ〉を白状したのだ。


「そんな大嘘を彼が知ったら、きっと彼は何等かの形で仕返しや犯罪に手を染めるかもしれませんよ。それでも彼をあのままにして本当に良かったのですか?」


 エミリーは俺の言葉に合点がいかないのか、不思議そうに首を傾げる。俺のついた嘘がリョースケに露見すれば、彼は怒り狂い、再び道を踏み外すのではないか。


 彼女はそう懸念しているようだった。


「反逆か……まあ、考えられなくはないよな。でも俺は彼を信じてみる。だって、彼は母親の事を思い、あんなに涙を流せる人間だっただろう?」


「確かに、そうですけど……」


 エミリーも見ていたはずだ。亡き母を想い、嗚咽を漏らしたリョースケの姿を。


「実際に彼の母親は俺が作ったアバターより愚かで傲慢だったかもしれない。けど、俺の嘘によって彼自身が前向きに人生を進んでいける契機となる可能性が少しでもあるのなら俺は、その可能性に懸けるよ」


 たとえ作り話であろうと、リョースケが立ち直るきっかけを、彼の母親に代わってでも与えたかった。


 かつての俺自身が、名を明かさなかったタクシー運転手や、ブラックリストハンターの基礎を叩き込んでくれた師匠の桜井ツカサさんをはじめ、多くの人々に支えられて再起できたように――。


 もし、手を差し伸べてくれる人が誰もいなければ、今の俺は存在しなかっただろう。 


 それどころか、路頭に迷い罪を犯していたかもしれない。そう考えれば、彼はまだ幸運な方だ。


 仕事柄、時間を操る類の超能力者を数多く見てきたが、その大半は強大な力ゆえに孤立し、破滅の道を辿っている。 


 だからこそ、彼にはまだ明るい未来が拓ける可能性があると信じ、超能力から離れた世界へ導きたかったのだ。


「恩師である櫻井さんの言葉を借りれば『真のブラックリストハンターは自分や不特定多数の誰かのためにあるのではない。自分が救いたいと思える人のためにある』ということさ」


 俺は言葉を続ける。


「だからこそ、俺は彼を救いたいと本気で思ったから前向きに彼が変わっていけると信じている。一人でも自分の事を信じてくれる人がいれば心強いだろ」 


 そう言って、俺はエミリーに微笑みかけた。


 実のところ、不良と同様に俺も両親に何を話しても、まともに信じてもらえた記憶がない。


 いわゆる「親ガチャ」で毒親を引き当てた者にとって、どんな経緯であれ、自分を信じてくれる存在は喉から手が出るほど欲しいものなのだ。

 

 幸運にも俺は複数の恩師と巡り会えたおかげで、自殺願望は薄れていった。

 しかし、世の中の誰もが俺のように恵まれているわけではない。


 もし恩師たちに出会えなければ、俺はきっと自らの境遇を嘆き、命を絶っていただろう。


 だからこそ、たとえ偽りであっても、誰かにとってのそういう存在になりたいと願ってしまう。


「……まあ、そうかもですね。フフッ❤」


 俺の笑みにつられたように、エミリーの頬が赤く染まり、その口元にも笑みが浮かんだ。


「――あ、雨がやんできたな!こりゃあ、いいことありそうだな‼」


 いつの間にか雷雨は過ぎ去り、雲の切れ間から太陽の光が差し込んでいる。空には大きな虹が架かっていた。


 俺は足を止め、傘を畳んで鞄にしまうと、再び歩き出した。


「……やばい、かっこよすぎ❤」


「――んっ⁉何か言ったか?」


「……べ、別に!ちょっとした独り言です❤」


「ふ~ん、そうか?じゃあ、またな!」


「……は、はい❤」


 河川敷沿いの道が尽きる場所で、俺はエミリーと別れた。


 面白くも何ともない不良との経緯を聞いて何故か満足そうに微笑んでいるエミリーを横目に、俺は若干の違和感を覚えていたのだった。


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